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「――宮野さん、俺知ってるよ?」
思わず、記憶のまま声が出る。
「え……?」
何を言われているのか理解できないのか、理解したくないのか。
もし、怪我がホントに美咲の言うとおりならそれでいい。
笑ってごまかすだけだ。
でも、その怯えよう。
あの飲み会の時は、率先して喋り倒してたのに。
なぜ、俺から逃げる?
「宮野さん、分かってるんだよ」
「みず……き先輩……」
視線を彷徨わせながら、宮野は呟く。
目じりにたまり始めたのは、涙?
なんで、お前が涙を流す?
上昇していた感覚が止まり、エレベーターのドアが開く。
それを見て走り出そうとした宮野の腕を掴む。
そのまま、非常階段に引きずり込んだ。
半階だけ降りて、六階と五階の間にある踊り場に連れて行く。
宮野の身体を角に追いやって、目の前に立ちはだかる。
「宮野さん」
名前を呼んで、見下ろす。
顔を上げない宮野の顎に左手を添えて、ゆっくりと持ち上げた。
怯えた、表情。
目じりに溜まる涙は、今にも零れそうで。
あぁ、怖いんだ。
お前の見ていた、優しい瑞貴先輩は、こんな男だよ?
分かりもしないくせに、よく好きだのどうだの言えたよな?
「今のうちだよ?」
「あ……の……」
視線を反らそうとする宮野の顎に添えた左手の指に、少し力を込める。
「宮野さん、言いたいことあるよな? 俺が聞けるのは、今のうちだよ?」
お前も、許しはしないけれど。
チャンスは一度きり。
誰が中心かなんて、わかりきっている。
こいつに、誰かをケガさせる勇気なんてない。
取り巻きしかできない、ただの女。
でも、その口から聞きたい。
本当に、美咲を、怪我させたのか?
もしそうなら――
頼む……
嘘だと、言ってほしい――




