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22

三人とも、何をどうする事もできずただ黙ったまま座っていた。

初めは、久我の姿を見たときの驚きが大半を占めていて。

次に、原因である総務の女性社員への憤り。


そして――今は。


「美咲ちゃん、どうする?」

しばらくして沈黙を破った真崎の言葉に、自然に倉庫の方に視線が向く。


――久我を、このままにしておいていいのかという、焦燥感


俺は。

声を掛けて、目を覚ますのを確認したい。

どういう表情をするのか分からないが。

課長達との事をけしかけた俺を、非難するかもしれない……。


それでも、閉じていた目を開けて欲しい。

声を出して欲しい。



間宮は小さく溜息をつきながら、視線をぐるりと天井に向けた。

「見られたくないから、あそこに篭って、鍵を掛けていたんだろうから。知らない振り、がベスト……かな」


「え? 柿沼とかそういうのに、何も言わないのか?!」

目を見開いて、間宮を見る。

「あそこまでされてんの分かってて、見ない振りしろって? 俺、無理。絶対無理」

間宮は呆れたような目を俺に向けた。

「お前が何か言ったって、ムダだよ。当事者じゃない」

その言葉に、立ち上がる。


そのまま資料室を出て行こうとする俺の身体を、真崎が止める。

「どこに行くつもり?」

ドアノブに手をかけたまま、真崎を見る。


「企画室。当事者いるじゃねぇか」

「ちょっと、斉藤……。この状態は見せられないねって、今話したばかりじゃない」

「だからって――」

言い返そうとした俺の言葉を、間宮の冷静な声が遮る。

「斉藤、いい加減にしろ。何かしたいのは、ただお前が辛いからだよな?」


「……間宮」

その言葉に、心臓を、鷲摑みにされた気がした。


身体が、固まる。


「どういうことさ?」

俺の肩を掴んでいた真崎が、間宮を見た。


「久我さんに、課長と瑞貴のやることに付き合ってやってくれって、言ったらしいよ。だからこんな噂が出て、かなり責任感じてんの」


一瞬の間


「――馬鹿じゃないの? 斉藤ってば」


真崎の一刀両断の声。


「真崎、てめぇ」


睨みつけても、何も動じない。

掴んでいた肩を離して、一歩後ろに下がった。


「まず、お前に責任はないよ。今言ったでしょ、当事者じゃないんだよ」

「――でも」

俺が、余計なことを言ったから……

「でも、じゃないよ。斉藤が何かしたいのは、自分の罪滅ぼしをしたいだけ。美咲ちゃんのことを本当に思うなら、彼女の望むことをしてあげないとね」


口を開いて、反論しようにも言葉が出てこない。

確かに、俺は、俺の罪滅ぼしをしたいだけだ……


「それに、ね。僕達から聞かされるのではなく、自分達で気づかなきゃ意味がないよ。美咲ちゃんがあいつ等を守ってるのに、僕達までそうしたら甘やかしすぎだよ」


ドアノブを掴んでいた手を離して、肩を落とした。

真崎が背中を叩いて、椅子に座るように俺を促す。


「無力、だな」


椅子に腰をおろして呟くと、そうだね、と間宮が頷いた。


「でも、無力は無力なりに、できる限りのことをやろう?」


「間宮……」


冷静な声が、怒りを含んでいて。

「攻めには出れないけれど、守りはできるでしょう? 総務なら主任に同期がいるし、事情を話して柿沼さんを見張ってもらおう。この事がばれたら、まずいのは総務だからね」

ドアに寄りかかったまま聞いていた真崎は、イラついた様子で腕を組んだ。

「そうだねぇ。僕としては、あの当事者二人を攻撃したい気分なんだけど」

「真崎?」


珍しい口調に思わず名前を呼ぶと、顔を顰めて俺を見下ろす。

「だって、そうだろ? 自分達の行動や言動が引き起こす事態を、ちゃんと把握しろっての。特に、瑞貴は今までの経験があるんだろうにさ。まぁでも、それ以上に、周りの事に気づきもしない課長が、一番厄介」


まぁね、と間宮の溜息が漏れた。


「久我さんは、誰にも甘えないで自分でどうにかしようとするから。きっと明日は、すっかり笑って“嘘”をつくんだよ。課長と瑞貴のために。それを考えると、可哀想でならないな」

「美咲ちゃんならそうするだろうねぇ」


三人に、沈黙が降りる。


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