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20

……靴?


黒の革靴。



「――」



体勢をそのままに、視線だけ靴から上へと向けていく。





濃い茶色のズボン、ゆるく曲げられた足。




心臓が、鼓動が、ガンガンと頭に響く。




この、スーツ……





「斉藤、窓開けないのか?」


さっきよりも近い場所で聞こえてくる間宮の声。

けれど、何も返せない。




視線は、そのまま上へとあがっていく。




想像がついていて、否定したかった。


そうじゃないと、否定したかった。




誰かに、否定して欲しかった――――





薄いベージュのカーディガン、だらりと下ろされた手にはハンカチを掴んでいたのか床に落ちている。

向こうの壁に、寄りかかる状態で顔を俯けている、姿。



「どうした?」


窓の鍵に手をかけたまま視線だけ横に向けた俺の背を、持っていたファイルで間宮がつつく。

それでも、俺は何も答えられなかった。




目を反らしたいのか、目が反らせないのか。

久我に向けた視線を固定したまま、現実だけが突きつけられる。




赤く腫れた頬に、血の滲んだ一筋の傷。

乾きかかっているのか、黒く変色していて。

いつもは一括りにしてある髪が、顔に纏わりつくように乱れて黒い筋を作っている。





その頬は。

涙が、零れた、跡。

乾いた、涙の跡。





「――く、が……」





搾り出すように、出た声は、掠れていて。

「え?」

間宮が、俺の視線の先に顔を向けた。



「――久我さん?!」

「え?」


間宮の声に、遠くで真崎が反応する。

「美咲ちゃんがいるの?」


間宮は俺の背を押しのけると、ゆっくりと屈んだ。

そのまま、何か確認するように久我を覗き込んでる。

後ろからやっとたどり着いた真崎が、間宮の後ろから覗き込んだ。



「――気を失ってるのか?」

小声で、真崎が間宮に聞いて。

間宮は小さく首を振る。



「いや――多分……、泣き疲れて寝てるって……とこじゃないかな」

少し安心したように、真崎が小さく息を吐いたのが聞こえて。




俺は、立ち尽くしたまま何も動けなかった。




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