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16

思わず口調が冷たくなっていくのが、とめられない。

取り巻き達は私の不穏な空気を感じたのか、少し困惑したような表情でこっちを見てる。

反対に柿沼は、怒り沸騰状態。


「どういう意味ですか? 自分が仕事できるって自慢したいんですか?」


まぁ、食って掛かってくること。


「あー、そう取る? 別にどうでもいいけど、私もいい加減いらいらしてるのよね。勝手に噂流されて」

「逃げ回ってた小心者のくせに」


あぁ、女のケンカって醜い。

拳で終わらせられれば、はっきりと勝ち負けつくのに。

今ココに課長がいたら、腹筋をお借りしたい気分です。


あのね? と、小さく溜息をついた。


「こうやって話するのが面倒だったからよ。あなたの大好きな課長だって哲だって、聞けばいい顔しないわよ」


「何を偉そうに……」


呟く柿沼を、目を眇めて見つめる。


「――年上は、敬いましょうね?」

私、少なくとも、あなたより三歳年上です。



柿沼の目が大きく見開かれる。

怒りと、困惑と、理解しがたい色。


多分、今まで言い返されたりしたことがないんだろう。

だいぶショックを受けているようにも見えるけど、私の方が悲しいっての。

あなたには、慰めてくれるお取巻きがいるから、私もう良いよね?



「もうやめてね。いい加減、私も我慢の限界」



――帰ろう



いいよ、最高に嫌われても。


踵を返して、階段を下りる。


どうせ、何を言ったって無駄なんだろうし。


内心、ブツブツと文句を言いながらゆっくりと階段を降りていた私の耳に、嫌な音が響いた。






後ろで、息を呑む音。


同時に、駆け下りてくるヒールの音。






……え?






足を止めて振り返った私の頬に、振り下ろされる手が一瞬見えて。

叩かれた衝撃で、身体がぐらついて一段踏み外して足が床に落ちた。

上手く足を付けなくて、そのまま座り込む。


――いた……い


真っ白になった頭に、少しずつ身体の痛みが響いてくる。

無意識に頬を押さえて、階段を見上げた。



階段の入り口から差し込む陽の光で、翳っているけれど。

顔を真っ赤にして、私を見下ろす柿沼の姿。






「みんな自分に縛り付けて」




シバリツケル――?




「……あんたなんか、いなくなればいいのにっ」




座り込んだまま見上げる私にそう叫ぶと、柿沼は階段を上がって取り巻きたちとエレベーターホールへと消えた。




しばらく、呆然と階段を見上げていた私は、遠くで聞こえた何かの物音で考えていたことが口から零れた。




「……私が、いるから……?」





静かな階段に、響く自分の声。



「私が、いなければ……?」



心臓が、うるさいくらい、どくどくいってる。

耳に、直接振動が届いているかのよう。








――ワタシサエイナケレバ……








微かに、頭に響くのは。

高校生の私の声――





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