晩餐のはじまりです
ノアールは、残念ながら猫ちゃんなので晩餐には連れて来れなかった。
(こんな時にノアールも一緒に居てくれたら心強いのにな…)
私が緊張しながら食堂に入れば既に公爵夫妻やセインフォード殿下が座って待っていたので、私は慌てて謝罪をする。
「お待たせして申し訳ありません」
そう言うと、公爵夫人が笑顔で対応してくれた。
「いいえ。大丈夫よ。私達も来たばかりなのよ。さぁマリアさんも座って」
その優しい対応に私は一安心する。
テーブルの中心には公爵閣下、そしてその右横に公爵夫人は、左横にセインフォード殿下が座る。
私の席は、セインフォード殿下の隣になった。
セインフォード殿下は、私の事を事前に公爵夫妻に話たと思うのだけど、特に何も変わった様子は無かった。
そうして和やかに晩餐が初まり、私は改めて公爵夫妻から自己紹介を受けた。
公爵様のお名前は、クライブ フレイア公爵閣下。
セインフォード殿下と同じ青い瞳と白銀の髪の髪を持ってしているから、王族の血が流れているがひと目で分かった。
そして公爵夫人の名前はアデライン フレイア夫人。
濃い茶色の髪に赤紫の瞳が印象的で穏やかで優し方だ。
お二人は、王都と、この公爵邸を行ったり来たりしている生活をしているらしい。
そして食事が進み、デザートと食後の紅茶が出された後に、公爵閣下は使用人達を全員下がらせた。
そして少し戸惑った様子で話を初めた。
「マリア嬢。正直に言えば魂と体が入れ替わったなんて話は私には信じられなくてね。だが、セインが魔物に襲われた怪我を跡形も無く治したのを確認したら信じるしか無いと思っている」
「信じて頂きありがとうございます」
「それでマリア嬢。貴女の今後に付いてだが、セインから貴女の希望は聞いている。
元の体に戻るのでは無く、この国の国民として暮らして生きたと聞いたが、それで本当にいいのかな?」
「はい。そうなんです。その私は、このまま静かに暮らしていければと思っています」
「そうか。それならば、どうだろ私達の養女にならないか?今まで、アルティミの王宮で暮らして来たのに、いきなり平民として暮らして行くのは大変だろう。それにピラカンザ家との関わりもある。
私達の養女とになれば、ピラカンザ家とも円満に縁が切れるし何か問題があった時には私が解決しょう。
名前の事も養女になって名前を変えると言うのは良く有ることだから、マリア フレイアと名乗ってくれて構わない」
確かに最初は戸惑う事が多かったが、ノアールが居てくれたから何とかなったけど、これからもずっとクリーヴァで暮らすならロザリアさんのお家の事等、色々考え無いと行けない事はある。
何か問題が起きた時に公爵閣下が解決して下さるなら有難い。
だけど問題は公爵家の養女になると言う事だ。
私には公爵令嬢なんて荷が重い。
「えっと…。大変光栄なお話ですが、他のご家族の方とは承知して居るんですか?」
「それなら問題無い。残念ながら、私達は子供に恵まれ無かったのでね。私達、夫婦2人だけだから」
「それはお寂しいですね…」
そう答えると公爵夫人も応じてくれた。
「えぇ。そうなのよ。だから、セインやマリアさんが来てくれて屋敷が賑やかになったら私達も、とても嬉しいのよ。それに、この様な時期に聖女様がクリーヴァに来てくれたのは、何か特別な意味がある気がして…」
「意味ですか??」
「アデラ」
私が、そう聞き返したが、公爵閣下が夫人に続きを話すのを止める様に名前を呼んだので私も何となく続きが聞きづらくなってしまった。
「あ!いえ、ごめんなさいね。おかしな事を言って…。でもね私達の養女になる事については前向きに考えてくれないかしら?」
「はい。ありがとうございます。良く考えてからお返事致します」
「ところでマリアさんは、余りドレスをお持ちで無いと聞いたんだけど良かったら、明日、一緒に街へお買い物に行ってみないかしら?」
「街ですか?」
「えぇ。これから、この家で暮らすんですもの何かと物入りでしょう?若いお嬢さんなだもの、最も素敵なドレスを沢山着ておしゃれを楽しまないと」
どうやら、私が養女になるならないに関係無く、ここでずっとお世話になる事は既に決定事項のようだ。
公爵閣下も夫人の提案に乗り気な様で更に飛んでも無い提案をしてきた。
「それなら王都に買い物に行った方がいいだろ。ここよりも最も良いドレスが沢山ある。それに兄上にも紹介したい」
そんな公爵夫妻を止めのは、セインフォード殿下だった。
「叔父上。王都はダメです。街の買い物もです。マリアは明日から、私と『黒い森』の調査に付き合ってくれる事になってるんですから。そうだろう?マリア」
「はい。セインフォード殿下と森に行くお約束をしました」
私が笑顔でそう答えると、公爵夫人は困った表情になる。
「セイン。まだ危ない事を続けるつもりなのか?マリア嬢まで巻き込んで!」
「はい。私の意志は変わりません。今の私に出来る事はそれくらいですから…」
どうやらセインフォード殿下が『黒い森』を歩くのは、公爵様達も心配して居るようだ。
だけど、殿下の意志は堅く説得は難しいと思っているのか公爵閣下がため息を漏らす。
「はぁー。仕方な。だが余り危険な場所には足を踏み入れてくれるなよ」
「はい。分かっています。マリア、私の我が儘につき合わせてすまない。確かに荷物が少ない様だし、必要なドレスや物は叔母上や侍女達に揃えてもらうし、マリアも欲しい物があったら、遠慮無く言ってくれ」
遠慮無くと言われても遠慮してしまうし、私は動き易いシンプルなドレスが数着もあれば十分だと思う。
「とんでもありませんわ。私なら大丈夫ですから」
そして晩餐が終り私は部屋と戻ろうとするとセインフォード殿下に話し掛けられた。
「マリア。部屋まで送って行こう。私のエスコートを受けて貰えるだろうか?」
そう言って手を差し伸べ来てた。
アルティミに居た頃は男性からのエスコートなんて受けた事が無いので、少しだけ照れくさいが、こんなん風に大切にされるのは嬉しく思う。
「はい。光栄ですわ」
私は、そう言って笑顔で彼の手を取った。
「すまない。本当はみだりに女性に振れるのは良くないと分かっているのだが、こうして、貴女に振れていると不思議と体が軽くなるんだ」
「そうなんですか?う〜ん。もしかしたら、私が無意識に出している神聖力が、セインフォード殿下を癒しているのかも知れませんね。申し訳ありません。私が無力な、ばかりに病を治す事が出来ずに…」
「いや。こうして居るだけで、本当に助かる」
そう言うと私の方を見つめて来た。
その視線が恥ずかしいくて、私は、どうにかしたいと慌てて意味の無い事を口走る。
「あ、あの、もう一度、回復を掛けますね」
既に回復を使っても病は治せ無いと言うのに、それでも言ってしまったので、私は歩くのを止めて、彼の手を包み込様に両手で握った。
(私の神聖力で少しでも殿下の苦しみが和らぎます様に…)
私はそう願いながら回復を放った。
『光魔術』その名前が示す通り、神聖力の魔術には黄金の光が出る。ただ私の魔術は極短時間で終わるので、一瞬光るだけで終るが、こうして何分も神聖力を放てば、私の手から明るい光が漏れる。
「ありがとう。凄く体が楽になった」
セインフォード殿下も、そう言ってくれたので、私回復はまったくの無力では無いらしい。
彼の病を完全に治す事は何故か出来無いけど、私の回復は少しは効果がある様なので私は安心した。
「お役に立てならなりよりです。体が辛い時は何時も言って下さいね。直ぐ回復を掛けますから。その手を繋いでも良いですし…」
手繋ぐのは恥ずかしいけど、それで彼が少しでも楽になるならと思う。
「ありがとう。マリア」
そして私達は再び無言で歩きたをした。
私の部屋の前に辿り着くと、彼は私の手を離した。
そして私は、改めてセインフォード殿下にお礼を言う。
「送って頂きありがとうございました。」
「いや。当然の事をしたまでだ。おやすみ。マリア」
「はい。おやすみなさいませ。殿下」
そうして私は自分の部屋へと戻った。