私の秘密がバレました
『黒い森』で、セインフォード殿下を偶然、助けた私は馬車でセインフォード殿下と一緒にフレイア公爵領の街に向う事になった。
馬車の中では、会話も無く沈黙が続く。
私から身分の高い方に先に話し掛けるのは不敬だし、セインフォード殿下も何か考え事をしているのか黙りだ。
そして正直に言えば、私はセインフォード殿下の目が少し苦手だ。
何故ならセインフォード殿下の瞳の色はルーファス殿下と同じ色だからだ。
皇帝の青い瞳と呼ばれる、その青いの瞳はこの世界を創世した神と同じ瞳の色と言われ創世の神が地上を治める事を許した証に初代皇帝と、その血引くの直径の子孫に『皇帝の青い瞳』を持つ子が生まれると言われている。
その後、帝国は滅びたが、アルティミとクリーヴァは、その帝国の皇帝の血を引く末裔であり、帝国が滅亡した今でも、この世界の支配者で有ることに変わりは無かった。
だから、セインフォード殿下はルーファス殿下を思い起こさせて少し怖く感じた。
こうして馬車の中で向かい合って座って、セインフォード殿下と一緒に居ると、怖くて緊張してしまう。
そんな沈黙の中、最初に話を切り出したのはセインフォード殿下だった。
「先ずは礼を言わせて欲しい。私を助けてくれてありがとう」
そう言って頭を下げたので、私は、とても、びっくりした。
「いえ。当たり前の事をしただけです。お礼なんて不要ですわ。ましてや庶民の私に王族の方が頭を下げてはいけませんわ!」
「いや。例え君が一般市民で有ろうとも、命の恩人に礼を述べるのは人として当然だ。本当に助かった。ありがとう」
そう言ってもう一度頭を下げた。
そして頭を上げるとセインフォード殿下は話を続ける。
「それで、君の力の事なんだけど、もしかして、その力は神聖力の魔術では無いだろか?それもあり得ない話だが聖水晶の聖女とか、そうした特別な力を持った人では?」
私は突然、私の魔術の核心と正体を突かれてうっかりと正直に答えてしまった。
「え?どうして私が聖水晶に選ばれた聖女たど分かんるんですか?」
私の対応の失敗に気が付きノアールが止め様としてくれたが、既に遅かった。
「マリア!何を言ってるんですの!」
「やはりそうか。正直半信半疑だったが、君の力は帝国時代の書物に書かれた聖水晶の聖女様の伝説や魔術と一致すると思った。だがわからないのは今代の聖女様は、アルティミの王太子と結婚して、アルティミに居ると思うのだが…」
こうなってしまっては、本当に信じて貰えるか分からないが、私は正直に私の身に起こった出来事を話す事にした。
「あの信じて貰え無いかもしれませんが、私はある日、突然、魂と体が入れる変わったんです。だから、何て言うか、この体はクリーヴァの国の住民で、魂はアルティミの聖女のマリアなんです」
そう答えれば、セインフォード殿下は、とても驚く。
「は?まさか?!そんなに事が?いや、しかし、それならば貴女の力にも納得がいく。だが、そんな荒唐無稽な話が実際にあるとは信じられない」
セインフォード殿下が更に悩んで沈黙すると、ノアールが話し掛けた。
「マリアは嘘は言っていませんわ。どうして体と魂が入れ替わってしまったのか、あたくしが説明を致しますわ」
「えっと……こちらは黒猫の姿をした聖獣様ですか?」
セインフォード殿下でも、余り聖獣を、見た事が無いのか少し驚いた様に、私に聞いてきた。
私は、殿下の質問に頷く。
そしてノアールは自分の事を話出した。
「ええ。あたくしは『ピラカンザ伯爵家の聖獣』ですと言えば分かるかしら?そして、このマリアの体と魂に入れ替えには、ピラカンザの人間が関わっているのです」
「そうか。ピラカンザ家の生体魔術!それならあり得る事だ」
「ピラカンザ家の生体魔術?」
「マリア。貴女は知らないかも知れませんが、ピラカンザ家には100年以上前に神聖力の持った人間が生まれたのですよ。マリーン ピラカンザ。貴女と同じ様にヒールが得意で、いえ。それ以上に人体の研究や薬の研究を得意としました。そして、このクリーヴァの今の医術の礎を築いた人物だったのですよ。そのマリーンが最後に研究したのが生体魔術なのです。簡単に言うと人の寿命を延ばし最終的には不老不死を目指した研究ですわ」
私はノアールの話を聞いて疑問に思った事を口にした。
「えっと?ノアールの契約者は、この体の持ち主のロザリアさんではないの?」
「あたくしの話を聞いて最初に疑問に思う事が、それですか?本当にマリアはズレてますわね。ロザリア ピラカンザは契約者ではありませんわ!聖獣と契約が出来るのは神聖力を持った人間だけですから。私はマーリンの死後も、ずっとピラカンザ家に居ただけですわ」
ノアールが、私の疑問に答え終わるのを待って、セインフォード殿下はノアールに質問して来た。
「その生体魔術の中に魂と体を入れ替える魔術とがあるという事だな?」
「ええ。本来の目的は今の肉体から、若い肉体のコピーを作って魂を移動するのが目的の術です。そうする事で、人は永遠に若い肉体のまま生きられるとマリーンは言っていましたわ。でもこの研究が完成する前にマリーンは亡くなってしまって…。それに生体魔術のは色々と大変危険だと国が判断して、研究の殆どは引き継がれる事も無く破棄されました。ただロザリアはマーリンの子孫ですから、かつのマーリンの研究書物を見付けてを悪用したんです」
「そうだったのね」
「そんな事が…。マリア嬢には、君には、我国の者が大変申し訳ない事をした。その研究を再び宮廷魔術師達に命じて研究させる。そして必ず君を戻の体に戻れる様にする。クリーヴァ王国の名に掛けて誓う」
「いえ。私なら大丈夫です。あのセインフォード殿下。出来ましたら、私は、この国で静かに暮らして行きたいんです。元の体に戻るより、どうか私を、ただのマリアとしてクリーヴァで暮らさせては貰えないでしょうか?」
「いや。しかしそれは。こちらは別に構わないが、貴女はアルティミの王太子妃なのでしょう?ルーファス殿下との生活や、その王太子妃や聖女の地位を捨ててしまう事になるんですよ?良いんですか?」
「ええ。ルーファス殿下との婚姻も別に私が望んだ訳ではありませんし。ルーファス殿下は、なんて言うか…私には過ぎたお方です。それに社交とかも私は苦手で、今のクリーヴァでの自由な暮らしが、とても気に入って居るんです」
「…分かりました。貴女の事は事前に討伐隊の隊長だった。カイルから多少は聞いています。魔術の実力の事も、暮らしの様子等も。正直、小さな村の近くの人気のない場所での1人暮らしは危険です。ですから、これから向うフレイア公爵領の都市ファウスティナで暮らすと言うなら、ご希望に沿うにします」
「え?いえ!それは…」
思っても無い提案に私は焦って、言葉を失った。
「まぁ、素晴らしい提案ですわ。あたくしもマリアが、ずっと、あの場所で1人り暮らしをすのには反対でしたの」
そしてノアールはあっさりと、その提案を受け入れて私を裏切りセインフォード殿下の味方に付いた。
私はこの不利な状況を打開すべく孤軍奮闘する。
「あの、でも私、そのフレイア公爵領の街に知り合いも居ませんし、それにお金も余りありませんから住む家や生活に困ってしまいます」
「それなら心配はありません。既にフレイア公爵には連絡を入れて公爵邸に住める様に手配しています。それでも、どうしてもフレイア公爵に世話になるのが気が引けると言うなら、私が仕事をご紹介します。それならお金に困る事も無いし、街で家も借り入れます」
「確かにそうですが…。でも私働いた事が無くて、最近、やっと生活魔法は覚えましたが、お役に立てるかどうか」
「それなら心配は無用です。実は私はこの黒い森を色々と独自に調査をしています。その調査に貴女が同行してくれるならとても助かる。この黒い森は魔獣が頻繁に出現する危険な場所ですがその分様々な資源が眠っています。私は少しでも、それを見つけて、クリーヴァの発展の役に立てたいのです。
それに貴女は私は病の治療に来たのでしょう?。その治療も併せてお願いします。勿論、そちらも、きっちりと報酬をお支払い致しますよ」
私が想像した仕事はフレイア公爵で住み込みのメイドさんのお仕事だと思ったけど、どうやら違ったみたいで黒い森の調査のお手伝いだった。
それに私はセインフォード殿下の病気を治療しに来たのだから、それで報酬が貰えるのならありがたい。
いずれ、セインフォード殿下の病気が回復したら、王都にお帰りになるだろうし、そしたら私の事なん忘れて気に掛け事も無くなり、また、あの家に帰れる筈だと私は考え、今はセインフォード殿下の提案を受け入れる事にした。
「分かりました。フレイア公爵邸で暫くお世話になって、殿下の治療や調査のお手伝いさせて頂きますね。黒い森の植物なら、ノアールがとても詳しいんですよ」
私がそう答えると、ノアールも喜び私の話に合わせてくれる。
「ええ。まぁそうですわね。100年以上前になりますが、マリーンと一緒に、この黒い森で薬草、探しに明け暮れてましたから。黒い森の地理も頭に入っていますし。薬草だけで無くっ食糧になる、植物も色々と良く知ってますわよ」
「成る程。それは頼もしな。ではガイド料も弾ませて貰うよ」
セインフォード殿下は、ノアールの方を見て楽しそうに話す。
「ええ。お任せになって」
こうして残念ながら、私の自由なスローライフ生活は1ヶ月とちょっとで一旦、終わってしまった。
そして話している内に馬車は街へと入った。
流石は公爵領の都市となる街だ。沢山の人々が賑わい活気がある。
そして立派な城門と城が馬車の窓から見えて来た。
大きな城門をくぐり城の入口で馬車が止まる。
窓越しに城を見ていたら馬車の扉が開く。
そしてセインフォード殿下が馬車を下りると、私の方に手を差し伸べてきた。
「さあ。お手をどうぞ」
「え?あ!ありがとうございます」
男性にエスコートされて、馬車を下りる経験が今まで無かったので、私は少しドキドキしながら、セインフォード殿下の手を取って馬車を下りた。