異端審問官、再び現る
久しぶりぶりに、シオン聖国のラインベルト審問官が、再び私を訪ねて来た。
今回はマリーンさんの家を捜索して様々な禁書が見つかり、上機嫌で捜索協力のお礼らしい。
「この度はマリア公女の、ご協力により捜索が進みやはりマリーンピラカンザは、地底の魔王の契約者であると分かりました」
「そうなのね」
「やはりマリーンは地底の魔王の力を借りてあれだけの研究を完成させたのですね…」
私の隣りの椅子に座っているノアールが、ラインベルト審問官の話を聞いて少しショックを受けていた。
ノアールは頭では理解していても、気持ちはマリーンさんを信じたかったんだと思う。
「ノアール元気を出して。例え『地底の魔王』の力を借りたとしても、マリーンさんの残した魔術や医術は、本当に素晴らしい物だと思うわ。そしてマリーンさんがクリーガァの沢山の人々の命を救った事に間違いないわ」
私がそう慰めれば、ラインベルト審問官も私の言葉に同意する。
「そうですね。ピラカンザ伯爵の残した研究の全てに題が合った訳ではありません。世に出せる有益な研究成果も沢山ありましたし、我々シオン聖国の治癒神官も、ピラカンザ伯爵家のお陰で医療技術が更に向上したのは間違いありません。彼は偉大な医者だと思います」
「そうよ。ノアール」
そうして話していたら、リサが、お茶を持ってきた。
リサは、私が正式に公爵家の養女になってから、新たに付けてもらった侍女でカロリーナとは同じ時期に公爵家に入った事もあって2人は仲が良い。
カロリーナが休む時や、買い物に行く時は、リサが変わりに、私の世話に来てくれる。
そしてカロリーナは午前中から街に買い物に出掛けていて、まだ帰って来てないみたい。
お茶を入れてから、リサは一礼して下がった。
私はお茶を飲もうとしてティーカップを手に取ると、ラインベルト審問官が慌てた様子で私を止る。
そして驚きの一言を口にした!
「マリア公女。お待ち下さい。そのお茶に毒が入っている可能があります」
突然、そう言われて私は驚いた。
「ええっ?!まさか…?!」
私が驚いて答えると理由を話してくれた。
「本当です。私が身に着けている、このブローチが反応しています。このブローチに嵌められいる『聖石』は半径3m以内に毒物が有ると反応するのです。
このお茶とお菓子が運ばれて来るまで『聖石』は何の反応もしていませんでした。ですから、そのお茶とお菓子は危険です」
「そんな?!」
「私は職業柄どうしても命を狙われる事もあります。その為、シオン聖国の審問官は自分の身を守る為に、様々な力を持つ『聖石』を与えられアクセサリーに加工して身に付けています」
「そうなんですね。でも、どうしてリサが毒なんて…」
「マリア公女。お茶を持って来たメイドの仕業とは、まだ決まっておりません。先程の侍女の様子を見るに挙動不審な動きはありませんでした。何も知らずに毒物を運んで来た可能性もあります。申し訳ありませんが犯人を洗い出す為に、今から、私に、ご協力願います」
「わ、分かりました」
「ふふ」
私が緊張しながら答えると、ラインベルト審問官が小さな声で笑ったので、私は少し恥ずかしくなってしまった。
そんな私の様子に気がついたのか、ラインベルト審問官が少し申し訳なさそうに
口を開いた。
「失礼致しました。ただ最初にお会いした時も思ったのですが、貴女は本当に一所懸命で素直な方だと思いまして。この部屋に毒が運ばれて来た当初は、少しだけ貴女を疑いましたが、貴女の様子を見て、その可能性は無いと思ったから、毒の事を話したんです」
「確かに、マリアに隠し事なんて出来ませんものね」
「もう、ノアールまで…」
「それにしてもカロリーナの留守に厄介な事が起きましたわね」
そうしてラインベルト審問官は密かに護衛として連れて来た聖騎士を裏門へと向かわせた。
毒を入れた犯人が逃亡すると考えたからだ。
その後、私達は毒を飲んで苦しむ演技をする。
私達の以上に気が付いた公爵家の使用人達は、大混乱。
そして慌てて寝室を用意したり医者を呼んだりしてくれた。
犯人を炙りだす為とはいえ、皆には心配を掛けたので申し訳ない事をしてしまった。
当然、お茶を持って来たリサは公爵家の騎士達に拘束されて尋問を受ける事になった。
それから少しして裏門に居た聖騎士達が慌てて外に出ようとした人間を伴って、私達が休む部屋に入って来た。
その人物がカロリーナだったから、私もノアールも驚いて声も出ない。
カロリーナが毒を入れた犯人なんてあり得ないと思うけど、フレイヤ公爵家の使用人がシオン聖国の異端審問官に毒を持った。
その事実は間違い無い。
二国間の外交関係にも関わる事態に、私は困ってしまった。




