妖しい占い師
ーピラカンザ伯爵邸ー
謁見式から、一ヶ月が過ぎた。
あれから増々イザベルお嬢様の機嫌は悪くなる一方だ。
でも、それも仕方が無い。
何故なら連日の様に、ロザリアお嬢様とセインフォード殿下の記事が大衆紙に書かれているから…。
記事にはセインフォード殿下は、フレイヤ公爵家に2日に1回の頻度で訪問されているとか、先週の記事ではロイヤルガーデンのバラを持参し、ロザリアお嬢様に贈ったと書かれ、今日の大衆紙の記事はセインフォード殿下とロザリアお嬢様が王立歌劇場でデートとあった。
そして偶然にも、イザベルお嬢様も、昨日立歌劇場でオペラを鑑賞され、ロザリアお嬢様と再会してしまったらしい。
イザベルお嬢様の席は一番安い席で、パートナーも男爵令息。
そしてロザリアお嬢様の席は王族専用席で、ここは王族と公爵家の者にしか立ち入りが許されない場所だった。
私は王立歌劇場に入った事は無いから、話でしか聞いたことは無いけど舞台から正面2階に設けられた、この席は内装も調度品も一級品で揃えられた大変豪華な席だという。
その特別な席にロザリアお嬢様が座って居ただけでも、プライドの高いイザベルお嬢様には許せなかったと思う。
だけど、それに輪をかけて、オペラの幕間でロビーに出た時の出来事が、イザベルお嬢様には許せない事だったらしい。
オペラの幕間の時間は貴族に取っては、社交の時間。
ロビーに出て、貴族達は挨拶や会話を交わす。
基本的に身分の高い者から身分の低い者に声を掛けて会話を初めるのがマナーだから、ロザリアお嬢様が、イザベルお嬢様に話し掛けない限り、2人が会話する事は無い。
そしてロザリアお嬢様は、イザベルお嬢様に話し掛ける事は無く無視をしたらしい。
それがイザベルお嬢様の気に障ってしまった。
朝から機嫌が悪く、先程から物にも辺り散らしている。
最も、イザベルお嬢様も深窓の令嬢。
本人は力を込めてクッションを投げた見たいだけど、それで物が壊れる様な事は無い。
私は、イザベルお嬢様を宥めながら占い師の到着を待っていた。
そう、この日は、イザベルお嬢様のお気に入りの占い師がやってくる。
私は占いなんて信じていないけど、イザベルお嬢様は占いや、おまじないが大好きだ。
部屋をノックして、執事がイザベルお嬢様に占い師の到着を告げる。
「イザベルお嬢様。プロディ様がいらしゃいました」
「やっと来たわね。直ぐに部屋に行くわ」
そうして、イザベルお嬢様は、笑顔で占い師が待つ客間へと向かう。
◇◇◇◇
占い師がやってきた。
名前は、プロディ様。
茶褐色の肌に黒い髪と瞳を持ち、異民族の衣装を身に着けている事もあり、占い師の名に相応しく、とても神秘的に見えた。
そして占いの時には部屋にお香を焚き、大きな水晶玉を机に置く。
占い師の説明によれば、この水晶は『聖水』で清められた特別な力を持つ『聖石』で、知りたい事を尋ねれば占い師の口を借りて答えると言う。
『聖石』は確かに存在するが、大変貴重で高価だから異民族の占い師が入手出来るとは、正直思えない。
あの水晶が本当に『聖石』なのか怪しいと私は思っている。
それでも、イザベルお嬢様は、あの占い師の言う事を信じてやまない。
私は部屋の隅に控えいると2人の会話が聞こえてきた。
「お待たせ致しました。イザベルお嬢様。本日は何を占いましょうか?先週の様にイザベルお嬢様の恋占い?」
占い師がそう聞けば、イザベルお嬢様は真剣な表情で占い師に答える。
「いいえ。今日は、私の事よりも、ロザリアとセインフォード殿下の事を占って、姉として臣下としてあの2人が上手くいくか心配で」
イザベルお嬢様は、そう心配そうな表情で言ったけど心の中ではロザリアお嬢様の不幸を願っている。
そして占いがはじまった頃に、他のメイドがお茶を運んできた。
2人が使っているテーブルにお茶とお菓子が置かれる。
お茶を持って来たメイドは、それが終わると一礼して下がる。
そして、私もお香の香りが苦手だから、お茶を運んで来たメイド一緒に部屋を退出する事にした。
そんな時でもイザベルお嬢様と占い師が話しているのが、私の耳にも入ってくる。
「セインフォード殿下とロザリアお嬢様は前世からの恋人同士だった様です」
「前世?!」
「はい。あの2人は前世からの恋人同士。ですが残念ながら、その仲は引き裂かれ、悲恋に終わった様です。そして、その因縁は今世でも続いています。2人は、今世でも苦難が待ち受けいます」
「そうなのね!」
占い師がそう言うと、嬉々とした、イザベルお嬢様の声が聞こえてくる。
私はイザベルお嬢様と占い師の会話を聞いて思う。
そもそも、人生全てが上手く行く人なんてこの世にはいない。
占い師は誰にでも当てはまる様な事しか言って無いし、イザベルお嬢様が喜びそうな答えしか言わない。
それにも関わらず占いで高額な報酬を貰えるのだから羨まし事だ。
そう考えると、私は、あの占い師が詐欺師に見えた。




