とある侍女の憂鬱
ーピラカンザ伯爵邸ー
「なんなのよ!あの子!成金ジジイの愛人に売られたのでは無かったの?!なんでフレイヤ公爵家の養女!しかもセインフォード殿下と、ファーストダンスを踊るなんて!」
(はぁー。またイザベルお嬢様の癇癪がはじまった…)
私の名前はアシュリー。
ピラカンザ伯爵家の令嬢イザベルお嬢様付の侍女。
はっきり言ってイザベルお嬢様は気が強くて我儘な、お嬢様だ。
美しい金髪に、金緑色の瞳、そして整った顔立ちをしているから美人である事は間違い無い。
でも性格はきついし、年頃の令嬢らしく流行に敏感で浪費も大好き。
だから男性にはモテるけど未だに婚約者は居ない。
男性にとって恋人なら良いけど結婚は…。と思わせるタイプだ。
そんなイザベルお嬢様には妹のロザリアお嬢様がいる。
どちらのお嬢様の母親も、ピラカンザ伯爵夫人では無いから、この伯爵家がいかに複雑な事情を抱えているか分かる。
家長であるピラカンザ伯爵は医学に人生を捧げている方だ。
新薬開発の治験の為に、病を抱える奥様と結婚し、更には不妊治療の研究でイザベルお嬢様とロザリアお嬢様を作った。
そう、ピラカンザ伯爵家のイザベルお嬢様とロザリアお嬢様は、ピラカンザ伯爵が体外受精の研究で作った子供達だ。
貴族に取って跡継ぎの男子を儲けるのは義務に等しい。
自然に妊娠が難し夫婦の為に近年開発された方法が体外受精だ。
この不妊治療が広まれば国内の貴族達は、どれだけ救われるか。
国の未来に大きく関わる研究を前に、ピラカンザ伯爵は平然と倫理観を無視し研究を進め、お嬢様達が生まれた。
最も、その後イザベルお嬢様の両親は自然に妊娠して男子を授かり、人工的に生まれたイザベルお嬢様を嫌悪してお嬢様を捨てた。
そしてロザリアお嬢様の母親は病気で亡くなり誰も引き取り出が無かった。
そんなお嬢様達をピラカンザ伯爵は引き取り養育している。
それを考えるとピラカンザ伯爵にも多少の良心があったのかも知れない。
最もピラカンザ伯爵も夫人も、お嬢様達に愛情を持って接した姿は見た事は無いけど…。
お嬢様達が幼い頃は沢山の使用人に囲まれ、欲しい物は何でも買え与えられた恵まれた環境だった。
だけど近年ピラカンザ伯爵家は経済的に困難な状態が続いている。
何故ならピラカンザ伯爵が所長を務める国立医療研究所の研究費は国からの予算だけでは足りて無いらしく不足分を補う為に私財を投じている。
だから最近の伯爵家の家計は火の車。
欲しい物が買えない。
その事がイザベルお嬢様のイライラに拍車を掛けている。
そして、そのストレスをロザリアお嬢様を虐める事で解消して来た。
結果、ロザリアお嬢様は、ピラカンザ伯爵邸から家出した。
家出した、ロザリアお嬢様は路頭に迷う筈だった。
でも人生とは分からないもので、大衆紙の記事よればフレイヤ公爵領で病に倒れたセインフォード殿下の看護人とし献身的に尽くして殿下は病から回復し、そして、その健気な姿がフレイヤ公爵夫妻に気に入られロザリアお嬢様は養女になったのだから。
この大衆紙の記事が出るまでは、イザベルお嬢様も、ロザリアお嬢様の養女の話を詳しく聞かされていなかった。
ただロザリアお嬢様が高貴な貴族に気に入られ養女に望まれたから養女にだした。
その際に提示された条件として、ピラカンザ伯爵家の借金の一部の肩代わりと、今後ロザリアお嬢様に一切ピラカンザ伯爵家の者は関わらない事だと、伯爵様は、イザベルお嬢様に言った。
そして、それを知ったイザベルお嬢様は、「ロザリアも気の毒に、お父様にお金で売られたなんて…」そう同情するような事を言いながら、クスクスと笑っていた事を私は覚えている。
それが今日の大衆紙の記事で、ロザリアお嬢様が、フレイヤ公爵家の養女となり、謁見式で社交デビューを飾り、セインフォード殿下とファーストダンスを踊ったという記事が突如でた。
今まで下に見ていた、ロザリアお嬢様が公爵令嬢となり、イザベルお嬢様よりも上の存在になる。
プライドの高いイザベルお嬢様には許せない事だろ。
それに、セインフォード殿下とのファーストダンスもイザベルお嬢様の気に触ったと思う。
元々セインフォード殿下は、騎士として魔獣討伐に出向く事が多く、成人後、殆ど公式な場所出てこない。
この国の若いご令嬢のなら、王太子殿下や第二王子との結婚に一度は夢見るものだ。
そんなセインフォード殿下が、突然、謁見式に出席して、ロザリアお嬢様にファーストダンスを申し込む。
どう考えても、ロザリアお嬢様に思いを寄せているとしか思えない行動。
だからこそ大衆紙だって大きく扱ったのだ。
今は、まだ『恋人か?』と思わせぶりな書き方で収まっているが、今後、セインフォード殿下とロザリアお嬢様の婚約や結婚なんて話が出れば、増々イザベルお嬢様の癇癪は酷くなる。
そう思うと私は、とても憂鬱だった。




