審問官の到着
そして審問官一行が、フレイヤ公爵邸にやって来る日になった。
公爵邸は朝から準備に追われている。
現在公爵夫妻は、領地視察の為に不在で、私達がその留守を預かっていて、セインフォード殿下と私で審問官を出迎える事になった。
神殿の紋章が入った立派な馬車が公爵邸にやってくる。
そして屋敷の前で馬車が止まりドアが空けられ馬車から下りて来たのは、ダークブラウンの髪にダークブラウンの瞳をして若い女性だった。
護衛の聖騎士達と同じ隊服に身を包み髪を一つに高く結い上げ、凛々しい男装の麗人の姿に私は驚いた。
(ご年配の男性が来るのかと思っていたわ…)
そしてセインフォード殿下が一歩前に進み出て審問官を出迎える。
「遠路遥々、ようこそクリーガァに。私は、クリーガァ王国の第二王子セインフォード。我々は貴女を歓迎する」
「クリーガァの若き太陽。セインフォード殿下でには、初めてお目にかかります。私はシオン聖国、審問官エステラ·ラインベルトと申します」
「私を尋ねて来た事は王宮からの手紙が知っています。色々と込み入った話になるでしょうから応接室の方で話しをしましょう」
そう言ってセインフォード殿下が審問官を応接室へと案内する。
私は、その姿を見送っていたが審問官が私の前で歩みを止める。
「大変失礼ですが、貴女は、セインフォード殿下の看護人の方ですね?」
突然声を掛けられて、私は慌てて返事を返す。
「え?ええ…はい」
私が返事を返すと審問官は私にも同行を求めてきた。
「では貴女にも詳しく話を聞きたいので応接室に、ご同行願います」
そう問われ、私はセインフォード殿下の方を見る、すると殿下も審問官の求めに応じる。
「分かりました。彼女はマリア·フレイヤ。とても医学に秀でいるので、一時は確かに私の看護をしてくれていましたが、今は公爵家の養女であり公爵令嬢です。話を聞くのは構いませんが失礼の無い様に願いします」
「そうでしたか。それは知らぬ事とは言え大変失礼致しました。ではご同行願います」
「は、はい…」
(もしかしたら、私、火あぶりにされてしまうのかしら?!)
私は廊下を歩きながら不安に駆られる。
それはかつて、アルティミの建国のきっかけになった歴史に『審問官』も関係しているからだ。
帝国末期、帝位を継承する第一皇子の求婚を断った本物の『聖女』を、第一皇子と審問官によって、『偽聖女』として裁判に掛けられて処刑された。
その上で、その第一皇子は、お気に入りの愛人を聖女に仕立て上げて即位後に皇后とした。
処刑された聖女の死後、『聖水晶』は、新たな女性を『聖女』に選んだ。
当然、皇帝に即位した皇帝と偽聖女の皇后には都合が悪かった。
だから新たな『聖女』の存在を知り暗殺すべく刺客を差し向けた。
だけど弟の第三皇子が命を狙われた『聖女』を命掛けで守り、今のアルティミ王国となる土地へ命からがら逃げ落ち延びた。
そして『聖女』と第三皇子は、その後、無事に結ばれてアルティミ王国を建国した。
アルティミ王国には、その歴史が今でも本に書かれて、特に『聖女』の処刑に至り帝国滅亡とアルティミ建国までの過程は今でも歴史書に詳しく書かれいる。
『偽聖女』の汚名を着せられた『聖女』は酷い拷問を受け、鎖に繋がれ民衆の前に引きずられ、最後は民衆の集まる広場で『火あぶり』にされた。
その場面が歴史書の挿絵に書かれて、幼い私にはショッキングな内容だった。
だから『聖女』を偽者と認定して、処刑した審問官は恐怖の対象だ。
(ノアールの事もあるし、実は私も魔王城に行った事もあるのよね。それがバレて火あぶりになったらどうしましょう…)
そう考えると怖くて仕方なかった。
◇◇◇
王都を立って一週間。
フレイヤ公爵邸へやってきた。
クリーガァ側も、我々シオン聖国に密偵を放って色々と情報収集して居るが、それは我々シオン聖国も同じだ。
だから予め第二王子セインフォード·クリーガァの情報や、その周りの人間達の事も把握している。
その中で私が怪しいと思ったのは、ロザリア・ピラカンザと言う女性の存在だ。
ピラカンザ伯爵家。
150年前に天才医師と言われたマーリン・ピラカンザの末裔。
だが、その天才には黒い噂がある。
そう『地底の魔王』と取り引きして偉大な研究成果を残した言う噂だ。
当時の審問官も、その噂を元にピラカンザ家を調査したが、残念ながら肝心のマーリン·ピラカンザが病死していた為に、真相は未解決のままだった。
そのピラカンザ家の人間が第二王子の治療に当たり薬を作り病を治した。
これは偶然だろうか?
そう思うと一番怪しいのは、ロザリア・ピラカンザだ。
その上、彼女とセインフォード王子が恋仲だと言う話もある。
容姿に優れた王子が、愛を囁いて若い娘を誑かして、地底の魔王と取り引きする様に仕向けた可能性もある。
王子の方は娘が勝手にやった事だと罪を逃れられると余裕があるのか、平然としているが看護人の娘の方は、私が話し掛けた時から明らかに顔色が悪い。
『地底の魔王』と関わっていると私は直感した。
応接室に入ると私は単刀直入に用件を伝える。
「早速ですが、私の用件は簡単です。こちらの聖石をセインフォード殿下とマリア公女に左手で触れて頂きたい。それだけです」
聖石の事は想定していたのだろう。
「分かりました」
特に何の抵抗も無く、セインフォード王子は左手で聖石に触れた。
当然、聖石の反応は無いと思われたが予想に反して石が反応した。
その場にいた誰もが驚いた。
「え?そんなバカな」
「で、殿下?!」
そして、セインフォード王子の左手の甲には紋章が現れた!
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




