魔獣の襲撃
森の中を歩けば、ノアールが色々と教えてくれる。
「マリア、この樹の実はフローズンベリーと言って、冬の時期にしか手に入らない貴重な実です。甘くて美味しいですよ」
ノアールに教えてくれた木の実を私は一つ摘んで、そのまま口に入れてみる。
離宮にいた頃では、絶対に出来ない事だったから、私はドキドキした。
摘み立ての新鮮な木の実を噛み締めると、口の中一杯に甘い果汁が広がり、私は自然と言葉が出てしまう。
「ん?本当に美味しい〜!」
「沢山摘んでジャムにしても良いですわね。保存も効きますし」
「ええ。きっと甘酸っぱくて、パンと紅茶にも相性も抜群ね」
他にも森で取れるキノコや山菜等、色々と教えて貰い摘んでる内にカゴは一杯になった。
食料も手に入れたし、これで家に戻ろうとした時に、どこからか悲鳴が聞こえて来た。
「何かしら?悲鳴の方に行って見ましょう!ノアール」
「ええ。マリア」
私達は、急いで悲鳴がした方に向かう。
すると邪悪な姿をした獣が人を襲っていた。
「あれは魔狐ですわ!弱い魔獣ですけど、群れで人を襲うから厄介な魔獣ですわ!」
「あれが魔獣?!大変!助けないと!」
私達が話す声が魔獣にも聞こえたのか、私達の存在に気が付き魔獣が攻撃して来た。
だけど森の中を歩く前に、私が張った結界によって、魔獣は私達に危害を加える前に結界によって弾き飛ばされた。
そうして魔獣が怯んだ隙に、私は急いで『光攻撃魔術』を魔獣に向かって放った。
『光魔術』は主に治療やサポート系の魔法が多いが数少ないながら『攻撃魔法』も存在する。
『光よ。悪しきものを払いたまえ!閃光』
ただし光攻撃魔術は通常の攻撃魔術に比べても格段に威力が低い。
だから魔獣が撃退出来るか心配だった。
強い光の光線が魔獣を照らすと、魔獣は一目散に逃げ去った。
「はぁー!はぁ…。良かった」
私は、生まれて初めての魔獣に遭遇し、どうやら撃退に成功した。
魔物に襲われていた人が、立ち上がり、私達にお礼を言ってくる。
「あ、ありがとう。助かった。オレは直ぐそこの村に住んでるんだ」
「良かったら、一緒に村まで来てくれないか?お礼がしたい」
そして私達は村人に誘われるまま村に行く。
小さな田舎の村で皆さん良い人達ばかりで、私は森で収穫したキノコや木の実を村の皆さんに、おすそ分けをする。
他にも興味津々に私の事を色々と聞かれたので、森の近くの別荘で暫く過す事になった、王都から来た貴族だと言って、私は上手く誤魔化した。
(まぁ、この体の持ち主は、ノアールの話だと、貴族で、あの別荘の所有してる見たいだし嘘では無いわよね)
そして助けたお礼にと私は昼食をご馳走になり暗くなる前に家に帰った。
「ふぅ~。今日は色々あったわね」
リビングで、寛いで居るとノアールが真面目な声で話掛けてきた。
「マリア。一応、聞きたいのですが、貴女はこれからどうするのですか?」
突然のノアールの質問に私は戸惑った。
「え?う〜ん。そうね。出来れば、ずっとこの家に住んで暮らせればと思うんだけど…。無理かしら?」
「ロザリアはピラカンザ家の庶子で、正直、正妻や異母姉から嫌われて邪魔者扱いされてたから、ピラカンザ家に戻らなくても問題は無いでしょう。
それに、この別荘は、あたくしに取っては昔、暮らした思い出の場所でもありますが、今のピラカンザ家に取っては無用の長物ですし。ピラカンザ家の誰かがここに訪ねて来る事もない。
でもね。マリアは本当に、それで良いんですの?
若い娘が、こんな田舎で一人で暮らすのは良くありませんわ。
貴女はもう少し自分の置かれた状況をしっかりと認識すべきですわ。
後で、後悔して『魂が入れ替わったの。私が本当のアルティミの王太子妃よ!』
なんて言っても、誰も信じてくれませんわよ?
もうこの国で一生、生きて行くしかないんですわよ?良いんですの?アルティミ王国の王太子妃の貴女が、『聖水晶』に選ばれた、偉大な『聖女』が、この田舎で誰にも省みられず、ずっと暮らすんですわよ?」
ノアールが、私の事を、とても心配してくれているのが分かった。
でも、だからと言って私にはロザリアさんになって、ピラカンザ伯爵令嬢として生きるつもり無ければ、もう王侯貴族の様な権力者と関わり合いにはなりたくない。
だだ静かに平穏に『聖女のマリア』では無く『ただのマリア』として生きていきたい。
それが、私の望みだった。
「ええ。何も問題ないわ。私とって今が一番幸せなの。だから全然平気よ。絶対に後悔する事はないわ。スロライフ万歳だわ。それに、もし、この先き気が変わったら、その時、改めて、どうするか考えれば良いと思うわ!」
そう私は元々は孤児で平民だ。
『聖水晶』に選ばれ無ければ、多分、今頃は平民として質素に生活していたと思う。
そう私が自信を持って答えると、ノアールは、もう何も言わなくなった。
「そうですか…。まぁ貴女が幸せなら良いんです。あたくし、貴女の、そういう呑気な所は嫌いではありませんから…」
こうして、また平和な1日が終わっていった。