最上級の光魔術
セインは一度、目を開けて意識を取り戻した様に思えたが、残念ながら返事も無く、再び目を閉じてしまった。
それから少しして魔術師達が治療を辞め無言で医師達の方に顔を向けた…。
そうすると医師がセインの心音や脈を確認し、私の方に頭を下げて伝えてきた。
「残念ですが、セインフォード殿下ご逝去でございます」
その言葉を聞いて、私も周囲の騎士達もただ呆然とする。
(セインが死んだ…)
『王家の病』を患った日から、セインの死は覚悟をしていたつもりだったが、実際に甥の死を目の前にすれば悲しみが溢れる。
セインは亡くなる前に『王家の病』は治ったと言っていた。
そして、その言葉通り病人ではあり得ない活躍をして魔獣を倒した。
それなのに何故、こんな事に…。
どうしても納得が出来なかった。
その後、魔獣討伐は終わり私達は引き上げた。
いつもなら討伐が終わった後は騎士達も気が緩み、飲み会の話や休暇の過ごし方等、皆、そんな話で盛り上がるものだが今回は静かだ。
私も魔獣を一掃出来た喜びはなかった。
セインの死を兄夫妻や妻、そして甥達にも知らせなければならない。
そしてマリア嬢にも…。
セインの治療に一番力を尽くしてくれたのは彼女だった。
もしかしたら『聖水晶』の聖女であるマリア嬢なら、セインを救ってくれるかも知れないと密かに期待もかけていた。
だが私達は、まだ神から許されていないのだろう。
だから神はセインを天に召したのだと。
私はそう思った…。
◇◇◇
公爵閣下や討伐隊が戻ってきた。
だけど、その討伐でセインフォード殿下が亡くなったと知らせを受けた。
私は驚いてセインフォード殿下の遺体が安置されて居るという場所へ急いでノアールと一緒に向かった。
途中で色々な人と擦れ違うが皆が悲しみに暮れている。
それが余計に殿下の死を現実だと突きつける。
そして部屋に入ると冷たくなった殿下の遺体は棺にいれられ安置された。
近くに行ってソッと、その頬に触れれば酷い冷たい。
そして首には包帯が巻かれ軍服は、どす黒く変色した血に染まっていた。
本当に彼が亡くなってしまった事が分かった。
だけど私はセインフォード殿下とお別れなんてするつもりなんて無い。
私が絶対に助けられる。
そう思い私は近くにいた公爵閣下に話かけた。
「あの…。今から私が光魔術の最上級の魔術『蘇生術』を行います。勿論、これでセインフォード殿下が息を吹き返すかは分かりません。
確率は五分五分です。
だけど何もしないまま彼を見送る事は、私にには出来ません。お願いですやらせて下さい。私にチャンスを下さい」
そう言うと公爵閣下や周囲から驚きの声が上がる。
「マリア嬢。本当にセインを生き返えらせる事が可能なのか?」
「分かりません…。でもお願いします。やらせて下さい」
少しの沈黙の後、公爵閣下は許可をしてくれた。
「…分かった。頼む」
そんな会話を聞いて周囲はざわめく。
当然、中には私を詐欺師扱いして非難する声も聞こえる。
だから、私は大きな声で強く言った。
「申し訳ありません!この魔術はとても難易度が高くて、集中力がいるんです!暫くの間お静かにお願いします」
そう言うと周りの人達は、私の気迫に押されて、皆が黙ってそして誰もその場を動かなくなった。
そして私は自分の持つ全ての神聖力で魔法陣を描く。
強力な魔術を使う時は魔法陣が必須だからだ。
複雑な模様と輝く様な眩い光を放つ魔法陣これが出来てこそ蘇生魔術は発動する。
私はアルティミに居た頃も何度か蘇生魔術を起こなったが成功したのは一度だけだった。
残念ながら、人には神から定められた天寿と云うものがある。
どんなに光魔魔術を駆使しても、その天寿には逆らえない。
だから、もしこれがセインフォード殿下の天寿なら生き返る事は無い。
そして失敗の度に親族から酷く罵倒され、周囲の人達は、無能聖女だと私を嘲笑われた。
今回も失敗すれば公爵閣下を初め皆が私に失望し、私は公爵家を、この国を追い出されるかも知れない…。
でも、私は、このまま黙ってセインフォード殿下の死を受け入れるなんて出来なかった。
そうして私は魔法陣を完成させる。
後は発動の言霊を唱えるだけだ。
「天の光。海の恵。全ての命を育む万物よ。再び、この者に生きる力を与えよ!生命蘇生!」
そして発動した魔法陣が強力な光を放つち消えた頃、彼は息を吹き返した。
まだ意識は戻らないけど、私は『蘇生魔術』の成功を確信した。
(もう大丈夫。良かった。本当に良かった)
そして、そう思ったら酷く体の力が抜けた。
『蘇生魔術』で力を使い過ぎたので私は起きているが限界だった。
歩いて部屋に戻る事も出来そうにない。
淑女にあるまじき振る舞いだと分かりながらも、そのまま崩れ落ち床に横になってしまった。
そうすると、ずっと沈黙して動かずに、私を見守っていた皆が心配して声を掛けてきた。
「マリア!どうしましたの?!大丈夫ですか?!」
私は、ノアールの声に何とか返事を返す。
このまま完全に眠ってしまえば暫く起きる事は無い。
きっと、目覚めるまで皆が心配するから。
「ノアール…。心配は要らないわ…力を使い過ぎるとその反動で…眠くなるの、その本当に、ただ眠るだけで、なんと、も…ないわ、それより殿下を殿下お願い…ね」
そう伝えて、私は眠りについた。




