魔獣討伐
マリアに病を治してもらい、私は『黒い森』に急いだ。
既に叔父上は討伐隊を率いて出発していたからだ。
私は討伐隊に追い付くべく急いで厩舎へと向かった。
そこには私の愛馬が居るからだ。
私の愛馬の名前は『シュープリーム』。
シュープリームは最高の名馬だ。
その理由は、シュープリームが聖獣と普通の馬から生まれた混血馬だからだ。
聖獣は、マリアが連れている、ノアールの様に人の言葉を話し、高い魔力を持ち様々な魔術が使えると言われている。
だが『聖獣』は、主を定めて契約し、その契約者にしか従わないし力も、他者の為には力を使わないと言われている。
だが混血馬は違う。
主を定める事も無く、普通の馬よりも、ずっと脚が速く、そして力も強い。
何よりも人の言葉は話せないが人の言葉を理解しているので扱いやすいのだ。
私は、厩舎に居たシュープリームの姿を見つけて声を掛ける。
「シュープリーム。元気にしていたか?また、お前に乗れる日か来て嬉しいよ」
そう言って顔を撫でれば、シュープリームは嬉しそうに『ヒヒィン』と鳴く。
そして、私はシュープリームを厩舎から出して素早く轡や鞍を付けて魔獣の居る場所へと向かう。
普通の馬なら、魔獣を恐れて動か無くなるか、暴れていう事を聞かなくなるかだが、シュープリームは私を乗せて恐れる事なくひたすら魔獣が出現した場所へと走る。
そして森の中の開けた平野の場所で、討伐隊が大量に現れた魔獣と戦っていた。
魔獣は『ガルム』と呼ばれる黒い狼で群れを成して攻撃していた。
1人の騎士が、足を負傷し地面に尻もちを付きガルムに襲われそうになっているのが目に入った。
騎士は襲い掛かって来たガルムを見て悲鳴を上げる。
「うぁー!!」
私は、その騎士を助けるべく、シュープリームに指示をだした。
「あっちだ!シュープリーム!行くぞ!」
そう言うとシュープリームは素早く向きを変え、ガルムと騎士の間に割込む様に駆る。
そしてガルムの横を通り過ぎるタイミングに合わせて私はガルムの首を刎ねた。
どんな魔獣も首を刎ねれば即死するからだ。
私は、それを確認してから馬を下り助けた騎士に声をかける。
「無事か?」
騎士は慌てて体をお越し返事をする。
「で、殿下?!は、はい。問題ありません!」
だが言葉とは裏腹に足は酷い出血をし負傷していた。
恐らくガルムに足を噛みつかれ動けなくなってしまった所を襲われたのだろう。
怪我の状態から、これ以上の戦闘は不能と判断して私は近くにいた衛生兵達を呼んだ。
彼らは戦場で負傷した者達を素早く安全な場所に運ぶのが役目だ。
戦場では三人一組て班を作り行動する。
「衛生班!負傷者だ!彼を安全な場所へ」
そう声を掛けると、衛生兵達がやって来た。
負傷した騎士は彼らに支えられ、強力な結界が貼られた安全なテントへと向かった。
そこでは医療専門の魔術師や医師が協力して応急的な手当をする。
そして私もシュープリームを衛生兵に預けて剣を構えガルムを攻撃しようした時、私が来た事に気が付いいた叔父上が驚きながら声を掛けてきた。
「セインフォード!お前、どうしてここに?!シュープリームに乗って来たのか?!足は?!病は体は大丈夫なのか?!」
私の近くに走ってきて、そして矢継ぎ早に質問が飛んできた。
「はい。もうこの通り杖が無くてもあるけますし走れます。足に問題はありません。体も元気です熱もありません。叔父上には長い間ご心配をおかけしましたが、病は完全に完治しました」
私がそう答えれば叔父上は当たり前だが酷く驚く。
「な、なんだと。それは本当なのか?!」
「はい」
「一体、どうやって治したのだ?!」
その質問は絶対に聞かれると思っていたが、ここでは答えられないので、私は曖昧に答えた。
「……それはまあ…。なんて言うか話せば長くなるので…。今は戦闘中ですし、ここは戦いに集中しましょう」
私がそう言えば、叔父上も渋々と返事を返す。
「確かにそうだな。良いだろ。この戦いが終わったら、じっくりと詳しく聞かせてもらうからな」
「…はい。ええ。まぁ」
私は再び曖昧に答えて話を流し、そして叔父上は再び討伐隊の指揮に戻っていった。
病を治した方法を叔父上に聞かれフッとマリアとのキスを思い出してしまった。
思い出して自分でも顔が少し熱を帯びたのが分かる。
だがここは戦場だ。
私は頭を軽く振って邪な気持ちを落ち着かせ冷静になり、それから大声で討伐隊を鼓舞した。
「私が来たからには、もう大丈夫だ!ガルム等恐れるに足らない!皆、力を合わせて魔獣を一掃するぞ!」
私が騎士達を鼓舞すれば「おうぅー!」声を上げて、再び騎士達は覇気を取り戻し、果敢に魔獣達と戦い出した。
そしてガルムの群れが減り出した頃、右側の前列で戦っていた、騎士が叫び声を上げた。
「巨大なガルムだぁー!中央に行ったぞ」
他のガルムに比べても、倍以上の体格をしたガルムが森の中から突如姿を現し、そして迷うことなく真っ直ぐ私を狙って襲いかかってきた。
どうやら、この『ガルム』が、マリアが言っていた魔王が作った強力な魔獣の様だ。
私は、その巨体のガルムの相手をするべく剣を構え、他の騎士に指示をする。
「皆下がれ。このガルムは、私が相手をする!」
そう言い終わると同時に、ガルムは、私を目掛けて再び攻撃をして来た。
その攻撃を剣で防いだか、それでもガルムの猛攻は収まらず、私はひたすら攻撃を剣て防ぎながら耐えた。
防戦一方では拉致があかないと判断した私は、ここで得意の風魔術を使うべく魔力を使い魔法陣を展開させる。
そして魔法陣が完成して私は風魔術を放つ。
「蒼穹よ。我に力を!風の刃となって敵を討て!」
風魔術が放たれると突風が吹きガルムの体を刻む。
その攻撃が、ガルムの動きを一瞬止め、そして隙を生んだ。
私は、その隙を見逃がさず剣を振り上げて、ガルムの首を刎ねた。
それで戦闘は終わったと誰もが思った。
周囲も巨体のガルムを倒した事で歓声を上げる。
だから油断してしまった。
この魔獣は魔王が作った特別な魔獣。
だからなのか首を刎ねても直ぐに死ぬ事は無かった。
そして何と首だけになっても動き出して私の首元目掛けて噛み付いて来た!!
それは一瞬の出来事だった。
その攻撃で、私は意識を失い倒れたらしく気が付いた時には、敷物の上にに寝かされ魔術師達が集まり私に治療魔術をかけている最中だった。
そして横には叔父上が必死に私に声を掛けている。
私は、叔父上の呼び声に返事を返そうと試みたが、再び意識が朦朧として声が出ない…。
そして薄れゆく意識の中で真っ先に思い浮かんだのはマリアの事だった。
病を治してくれた、お礼も、私の気持ちも、私はマリアに何一つ、まともに伝えてない…。
(もう一度、君にあって私は…)
そう思い、私は必死に体を動かそうとするが、もう体に力が入らなかった…。




