こ、これは治療です。深い意味はありません
私は、ノアールの話を、ただ黙って聞いていた。
「あたくしは、何故、ロザリアがアルティミの王太子妃である、貴女と入れ替わったのかが、正直ずっと疑問でした。でも、まぁ一応、ロザリアも、お年頃ですから素敵な王子様との結婚に夢見て、とも考えましたが…。でも、マリアとの入れ替わりですら魔王が仕組んだ事だったんですね。しかも、ただセインフォード殿下を助けて魔獣と闘わせたいとか、そんな下らない事の為に!」
そう言うと、突然怒り出したので、私は落ち着くようにいった。
「落ち着いてノアール。それに理由はなんであれ、私は、入れ替わってから沢山の優しい人達と出会って今とても幸せよ」
「貴女に、そう言って貰えると、あたくしも気が楽になりますわ。それで蒸し返す様で申し訳ありませんが、結局、セインフォード殿下の事はどうしますの?」
「ゔっ…。それは///その、色々と心の準備が…」
結局は、そこに戻ってしまう…。
「まぁ。困った子ですわね。でも、まだ時間は、ありますからね。ゆっくりと心の準備をしなさいな」
ノアールは、少し呆れる様に、私にそう言った。
そして、私達は黒い森の家を後にした。
◇◇◇
だけど、あれから時間が過ぎるのは、アッという間だった。
私はずっと悩んで、何も出来ないまま時間だけが虚しく過ぎていった。
最近では意識をし過ぎてしまい、まともに殿下の顔すら直視出来ない。
自分でも心臓の音がうるさい位に鳴っているのが分かる。
そしてついに強力な魔獣が現れる日になってしまった。
その日の公爵邸は朝から大変な騒ぎだった。
突如、『黒い森』を覆う様に真っ黒な霧が現れたからだ。
霧の量は魔獣の強さに比例する。
大量の魔霧の報告に公爵様も周囲の人達も慌てて討伐の準備をする。
更に周辺の村には、万が一に備えて避難の指示も出される。
事態は私が想像していた以上に、とても深刻だ。
そんな中で強力な魔獣が出現する可能性があると聞いてセインフォード殿下は病の中で討伐に出掛けようと準備をしていた。
勿論、周囲の人達は止めるが、本人は「問題無い」と言い張って準備を進めている。
だけど相当に無理をしているのが誰の目にも明らかだ。
魔王の言う通り、私とセインフォード殿下がキスすれば、殿下の病は治り討伐に出れるかも知れない。
殿下を止められ無いなら、せめて体調を万全にしてあげたい。
私は、そう思い意を決しって、セインフォード殿下に魔王との接触した事や治療の話をする事にした。
「殿下。討伐に出る前に大切なお話があります。少しだけ時間をください」
そうして私は殿下に頼み込んで二人っきりにして貰い全てを打ち明けた。
私の話を聞いて殿下も戸惑っているのがわかる。
「ですから魔獣討伐に行く前に//その、一度、魔王に教えて貰った治療方法を試してみませんか?」
「え//いや、それは、しかし」
「そ、その//これは、ち、治療です。ただ口と口が触れるだけで深い意味はありません。」
私がそう言うと殿下も心が決まったのか返事が返ってきた。
「…分かった。頼む…」
「……はい//」
そして私は殿下と向き合い、キスをしようと顔を近づけたけど…。
どうしても意識してしまって、寸前で動きが止まってしまう。
(ど、どうしても緊張しちゃう///もう討伐隊出発まで時間が無いのに…)
そうして私が、ずっと固まっていたら殿下から突然声を掛けられた。
「ーすまない。無礼を許して欲しい」
「え?」
そう言われた後、私は肩を抱きしめられ、殿下からキスをされた。
私は驚きの余り目を見開き、そして口を塞がれた息苦しさに戸惑っいたが、少しして解放された。
恥ずかしさの余り手で顔を覆い息を整えて、殿下の方を見る。
そうすると殿下は、とても驚い様子で呟いた。
「……うそだろう」
その言葉を聞いて、私は、病が治らなかったのかと慌てて確認する。
「だ、大丈夫ですか?!」
「ああ。信じられない位に体が楽になった。足の痛みも無い。体が元に戻った…」
信じられないという様子で私の問いに答えてくれた。
そう言われ、私も慌てて殿下の様子を確かめれば顔色も良く、額に手を当てて確認したが熱も完全に引いていた。
それを確認して「…本当に良かった」私は笑顔でそう答えた。
どうやら魔王が言った事は真実で殿下の病は本当に治ってしまったのだ。
そして殿下と目が合うと私に謝罪して来た。
「ーマリア。その、強引な真似をしてすまなかった」
「いえ。こちらこそモタモタしてしまって///申し訳ありません」
「とにかく礼を言う。私を助けてくれてありがとう」
そして殿下は魔獣討伐へと向かったのだった。




