黒い森の由来
私が公爵邸に来てから1週間がたった。
セインフォード殿下の容態は可もなく不可もなく、小康状態が続いている。
ただ本人は病気が発症した頃よりも、『とても体調が良いい』と言っているので、私としては一先ずは安心だ。
そして最初の晩餐から戻っ日に、私はノアールに養女の件を相談した。
ノアール曰く『マリアは世間知らずで危なっかしいですから、公爵家に後見になってもった方が良いと思いますわ』との事だった。
私自身は、しっかりと自立して暮らしていた積りだったけど、ノアールから見れば『心配でたまりませんわ』と言うレベルだったみたい。
そして、更にノアールはヒートアップして喋り続けた。
『マリア。確かに貴女の生活魔術の腕も上がって来ましたが、最初は、あたくしハラハラでしたよ。良く料理も焦がしましたし…。
それにロザリアのドレスを売る時だって二束三文に叩かれて騙されそうになったでは、ありませんか?
お金なんて今まで稼いだ事も無ければ使った事も無いのでしょう?
あの時は、あたくしや村の人達が指摘したから、商人の方もその後、適正な価格でドレスを引き取ってくれましたが、貴女だけなら絶対に騙されてましたわよ。世の中には悪い人が沢山、居るんですよ!』
ノアールの言う事は大体は当たっているので、私は何も言え無かった。
私は孤児院で育ったが、子供の頃はお金の事なんて考えた事なんて無かったし、聖女になってからは、王宮での生活、残念ながら買い物さえ自分でした事がな無い。
でも厳しい言葉の後には、私を励ましてくれたし現実的な意見もしっかりと言ってくれた。
『それに貴女の所作や公爵夫妻の挨拶を見ても、あたくしにはマリアは貴族の令嬢としてやって行けると思いますわ。えぇ。長年、伯爵家に居た、あたくしが言うのだから間違いありません。もっと自分に自信をお持ちなさい!
それに貴女の体は、ロザリア・ピラカンザですもの、これまでの様に、これからも神聖力を使って人を助けていたら必ず沢山の人の注目を集めるでしょう。
その力を隠しきれませんよ。
その時にピラカンザ家が貴女を利用するかも知れません。
何せあの家は、今や没落寸前ですから…。だから今の内に、ピラカンザ家とキチンと縁を切って置いた方が良いと、あたくしも思いますわ』
迷っていた私の背中をノアールが押してくれたので、私は養女の話を受ける事にした。
そうして私が翌日、公爵夫妻にお話すると、夫妻は勿論セインフォード殿下も喜んでくれたので、結果的には良かったと思う。。
手続きも色々あるので、今日、明日という訳にはいかないが、私は、こうして公爵家の養女になる事になった。
私は生まれて初めて親と呼べる存在が出来事は嬉しく思う。
そしてなりよりも、良かったのは養女になったからと言って、私の行動はアルティミの様に特別な制限も無く、セインフォード殿下と『黒い森』を調査したり『黒い森』で見つけた珍しい植物を採集して、公爵家の庭で育てる手伝いを自由にさせて貰える事だ。
だから公爵家での生活は、アルティミとは違って、とても楽しかった。
一応、最初は私達が『黒い森』に入るのを反対して居た公爵夫妻も、私の『神聖力』で張った結界や、ノアールの森の知識を信頼して最近では笑顔で送り出してくれる。
そして、今日も私達は森の調査をしていた。
「今日は少し森の奥に行って見ようと思う」
「はい。分かりました」
そうして1時間程、歩けば大きな白い実を付けた低木が目に入る。
その白い大きな果実を見つけたセインフォード殿下は、とても嬉しそうな表情になった。
「マリア。この果実はとても美味しいんだ!」
そう私に教えてくれた。
そしてノアールが詳しく果実の説明をする。
「コーシュの実ですわね。高級果実として貴族達にも人気の果物ですわ。この黒い森でしか採れない上に森にも滅多に生えて無い珍しい木ですから中々食べられませんの。ここでコーシュの木を見つけたのはラッキーですわね」
「そうなのね」
セインフォード殿下が、少し申し訳無さそうに、私に声を掛けてきた。
「マリア。この実を持って帰っても大丈夫かい?後、枝も一応、採集していこう。挿し木してみたい」
病気で弱った体では、この大きな実を持って帰るのは無理なのだろう。
その点私は健康だし、いざとなれば身体強化魔術もある。
「はい。大丈夫です」
私はそう返事してからコーシュ実をハサミで収穫する。木の背丈が低いので実も枝も簡単に採れた。
その間にセインフォード殿下は、地図にコーシュの実がなっている木の位置を地図に記していく。
今日こんな風に色々と森で収穫した食べ物や珍しい植物がカゴに溜まっていく。
だけど今日はいつもと違って突然、黒い霧の様なものが辺りに立ち込めてきた。
その異変に最初に気が付いたのはノアールだった。
「あら?魔霧がうっすらと掛かってますわ」
「本当だ」
「魔霧??」
「ああ。マリアは初めて見るのか。この黒い霧の様な現象を魔霧と呼んでいる。そして、この黒い霧が沢山集まり固まると魔獣になるんだ。そしてこの黒い霧は闇の神ヴラドが世界の穢れを、この森に集めて魔法を掛けて魔獣にしているらしい」
「まぁ」
この世界は多神教だ。
その神々の頂点に立つのが『創世と想像の神トゥラトス』そして現在、私達の一番の信仰の対象となっている神が『光と豊穣の女神アルティミ』
私の神聖力も彼女の祝福によって与えられてたギフトだ。
闇の神ヴラドは、アルティミの弟神にあたる。
そして『創世の神トゥラス』から地下の世界の支配を任せられた。
そのヴラドは子供の神様でときどき人間の世界に姿を現しては悪戯をすると言われている。
ただし神に取っては、ほんの悪戯でも、人間に取っては飛んでも無いに災いになってしまうらしく、だから別名を『地底の魔王』なんて呼ばれたりもしている。
最も世界を滅ぼす様な事は無いので、そう言う意味では平和的な魔王様だと思う。
「では魔獣も悪戯なんですか?」
私がそう尋ねると、ノアールが怒りながら答えてくれた。
「そうですわ!強い魔獣と人間を闘わせて楽しんでいるんですわ。悪趣味ですわ。ヴラドに取っては闘技感覚の遊びでも、人間に取っては命取りになりますし、魔獣には獣型の他に翼を持った魔獣もいますのよ。
ときにはキメラとかドラコンとか危険な魔獣が生まれたりしますのよ!その度に、どれだけの人々が犠牲になるか!」
ノアールの話を聞くと、クリーヴァの魔獣被害の深刻さが分かる。
そして、その後を引き継ぐかの様に、セインフォード殿下が冷静に説明してくれた。
「強い魔獣も問題だけど何より問題なのが生まれた魔獣が『黒い森』を離れて他の場所へ移動するのが、一番の問題だな。だからクリーヴァに取って、この『黒い森』は国境近くの場所でも重要監視地域だ」
「そうなんですね…」
「魔獣は黒い霧が薄い状態では直ぐに発生してないが、この霧が時間が立つに連れて、濃縮されて固まって生まれるのが魔獣。そして、この黒い霧が一年中、森の何処かで発生するから、この森は昔から『黒い森と』呼ばれている」
「まぁ。それで『黒い森』なんですね」
「魔霧の発生が確認出来た以上は暫くの間は森に入れないな。それに魔獣に備えて討伐の準備が必要になる。マリア。今日の調査は、ここまでにして戻ろう」
「はい」
「それが良いですわね」
そうして私達は森から引き上げた。
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