プロローグ
一人の少女が、鼻歌を歌いながら楽しそうに台所に立っている。
「燃え上がれ炎よ!」
そう言うと『コンロ』に火がパッと付いた。
「今日は何を作ろうかしら?」
これは、ある日、聖女から別人に体が入れ替わった少女の話しである。
◇◇◇
私の名前はマリア。
アルティミ王国の聖女。
この国での聖女の称号を与えられるのは一人の女性だけ。
そのただ一人の『聖女』の役割は、人々を癒やす事と、そして魔獣と呼ばれる凶暴な魔物から人々を護る為に、国の全体に強力な結界を維持すること。
この役目は、百人に1人しか生まれない希少な魔力と言われる神聖力を持ち、その中でも『聖水晶』言う遥か昔から国に伝わる神々の力を宿すと伝わる『聖物』に選ばれた女性にしか出来ない役目。
その為、『聖水晶』に選ばれた女性を人々は『聖女』と呼び崇めてきた。
王族達は、そんな特別な力を持つ聖女を他国に渡さない為に、聖女を妃として王族に迎えて来た歴史が、この国にはある。
最も、強い魔力保持者の殆どは王侯貴族である為、聖女もまた王侯貴族出身である場合が多い。
だけど『聖水晶』が『聖女』に選らんだのは、孤児の私だった。
私は生まれて直ぐに孤児院の前に捨てられ保護された赤子。
孤児院の生活は、決して豊かでは無かったけど、それなりに幸せだった。
この世界では、誰でも多かれ、少なかれ魔力を持っている。
ただし極稀に魔力とは別に神からの祝福とされる『神聖力』を持つて生まれる者も存在する。
そして私は生まれながらに希少な『神聖力』も持っていた。
そんな平凡な幸せが終わったのは私が7歳の時。
王妃である聖女様が病気で亡くなられ国中から神聖力を持つ女性が集められた。
当然、幼い私も『神聖力』の持ち主として国の方針に従った。
そして『聖水晶』は、新たな『聖女』として私を選んでしまったのだ。
その後、私は新たな『聖女』として王宮に連れていかれ、2歳年上の王太子殿下と無理やり婚約させられた。
宮殿で王太子ルーファス殿下と私は初めて対面した。
目が合って直ぐにルーファス殿下は冷たい目で私を睨みつけた。
「冴えない田舎娘だな…。なぜ私の妃が…。王侯貴族の令嬢では無くこんな平民の娘なんだ!!まして孤児なんて!」
そう言って、私に付き添う神官や女官達に不満をぶつける。
彼らは怯えながらも答えだ。
「それは『聖水晶』が、この娘を『聖女』に選んだからです。神のご意思でごさいます。そして『聖女』を妃として迎えるのが、この国の王族に課せられた義務でございます」
そう言われて、ルーファス殿下は苦い顔する。
「クッ…。分かった。もういい。今日からその娘を離宮に閉じ込めて、妃教育を徹底しろ!王妃の身分に相応しい教養と立ちい振る舞いを徹底的に身に着けさせろ!身に付けるまで、決して人前に出すな!!」
こうして私は離宮で暮らす事なった。
離宮での暮らしは衣食住に困る様な暮しでは無かったけど、毎日、厳しいお妃教育と『聖女』の努めとしてを果たす為に、神殿に行って『聖水晶』祈りを捧げ、結界を維持するだけの日々。
それ以外の外出も許可されず、私には一切の自由な時間は無かった…。
◇◇◇
それから9年後。
16歳になった私は、ルーファス殿下と結婚式を上げる。
ー神殿ー
神殿の鐘が鳴り響く。
不安な気持を抱えながら、私はバァージンロードを1人歩く。
9年ぶりに姿を見たルーファス殿下は成長して大人になっていた。
でもその態度は、幼い時と変わらず私を冷たい目で睨む。
私がいくら努力をしても、きっと彼は私が嫌いなのだろう。
(本当にルーファス殿下と夫婦としてやっていけるのかしら…)
そんな思いを抱えながら歩いていると、突然全てが真っ暗になり、目の前には、見知らぬ私と同じ位の歳の女の人が立っていた。
私の顔にそっと触れられ、私は驚き女の人を見る。
目が合った瞬間何か背中から、ゾッとすると感覚が私を襲った。
そして『貴方の体がを頂くわ…』
そう言われ驚いた瞬間、意識が無くなり、そして直ぐに気が付いた時には、何故か私が私の目の前に立っていた。
そして今度は目の前の私が遠くへと去っていく。
その後、私は、どこか遠くに飛ばされるのを感じ、そこで再び意識を失った。
そして目が覚めると、暗い部屋に居た。
「う〜ん?ここは、どこかしら?」
訳が分からず、起き上がって部屋を見渡していたら、足元から見知らぬ声が聞こえてきた。
「お目覚めになりまして?」
驚いてその声の方を見てたら目の前には『黒猫』が、ちょこん座って私の方を『ジー』と見ていた。
他に人の気配も無いので、私は半信半疑で猫ちゃんに話しかける。
「えっと…?もしかして私に話し掛けて来たのは貴方なの?!猫ちゃん?」
そう聞けば、猫ちゃんは再び喋った。
「ええ。そうですわ」
「驚くのも無理ありませんが、あたくし、ただの猫ではありませんの…。あたくしは『聖獣』ですわ」
『聖獣』の存在なら知っている。
彼らは、私達と同じく魔力を持ち人の言葉を話し理解する特別な生き物。
神が、魔獣に苦しむ人間達を助ける為に使わした使いとも言われている。
ただ私は離宮に閉じ込められていたし、『聖獣』を実際に目にする機会はなかった。
だから、どうして接すればいいか分からない。
「えっと……」
困っていると、猫ちゃんの方から再び話し掛けてきた。
「そうね。貴女は何も事情が分からないものね。あたくしが説明して差し上げますわ」
そう言われて、私は猫ちゃんの話を聞く事にした。
「ええ」
「分かりやすく言うと、貴女は『魂交換魔術』で、体と魂を入れ替えられてしまったの。その『魂交換魔術』そしてその魔術を教えたのは、あたくしですの。
その体の持ち主の名前は、ロザリア ピラカンザ伯爵令嬢。
あたくしは長い間、ピラカンザ家の聖獣でした。
そしてロザリアに無理やり『魂交換魔術』の手伝いをさせられましたの。
その魔術の犠牲になったのが貴女です。
あたくしは許されらない事をしました。どんな罰でも受け入れます。貴女のお好きになさって…」
話を聞き終わって、私は頭の中で話を整理する。
「えっと。つまりこの体の持ち主さんが、私の体と魂を交換したって事ね?元に戻る方法はあるかしら?」
「残念だけど、一度、交換に成功したら…。2度とは戻りませんの………」
「本当に?そ、それじゃあ!私は、この体の持ち主になったって事よね??」
「ええ。……まぁ…」
「それは、つまり自由に生きて良いってことよね?」
「ええ…そ、そうですわね…」
「ありがとう!とっても嬉しいわ!それに、この体から凄い魔力を感じる。これなら、きっと私は色々な魔法を使えるわ」
以前の体は、聖神力は高くても魔力の量はここまで高くなかった。
「ええ。あの女は認めたくは無いですが魔力の強さは並外れています。それはあたくしが保証します」
「そうなのね?凄いわ!」
『燃え上がれ炎よ!』
離宮の侍女の真似をして呪文を唱える。
火の魔法を使えば、想像以上の火力で家の全てのロウソクに火が灯る。
薄暗い室内が、蝋燭の火のお陰で明るくなった。
「凄い魔力!家中のロウソクに火が灯るなんて!それに誰にも怒られないわ」
高貴な者は、身の回りの世話は全て人に任せるだと教えられて来た。
初めて自分でロウソクを灯し、それを誰も咎めない。
それが、私が自由になった事をより実感させた。
私が何とも言えない感動に浸っていると、ため息が聞こえてきた。
「…はぁ~。」
「どうしたの猫さん?」
「……気が抜けたましたの。あたくし、貴女には当然、恨まれるとばかり思っていましたから…。最悪、貴女の魔法で殺される事も覚悟していまたのよ」
「そんな酷い事はしないわ!寧ろ、この体をくださった人や、猫さんには、とても、とても感謝しいるくらいよ」
私は自由になれたのだから…。
「そうですか…。それで、これからの事なんですけど、貴女が嫌でなければ、この先は、ずっと貴女とご一緒いに居たいと思ってますの?いかがしら?」
自由になったのは嬉しいげと、正直一人ぼっちは不安だった。
だから猫さんの申し出はありがたい。
「まぁ?本当に?嬉しいわ。ふふふ。これから、よろしくね。猫さん。あ!猫さん貴女のお名前は?」
「あたくし達『聖獣』に名前なんてありません。貴女のお好きに呼んでく出さって結構でしてよ。そして、それが『聖獣』との正式な契約になりますの。どうかしら、あたくしと契約をしませんこと?」
(聖獣は時々、自ら気に入った人間と契約を結び、色々と力を貸してくれると聞いていたけど、私と契約をしてくれるなんて思っても見なかったわ)
「勿論よ。私、一人より猫さんと一緒に居た方が、とても心強いし、きっと楽しいわ」
そして私は、契約を結ぶべく猫さんの名前を真剣に考える。
「う〜ん。真っ黒な毛並みだから…。『ノアール』なんてどうかしら?異国の言葉で『黒』って意味よ」
「あたくしの毛色、そのまんまですわね…。単純ですこと…」
「ごめんなさい。気に入らないなら付け直すわ」
「そんな事は一言も言ってません。良いでしょう受け入れて差し上げます」
「良かった。私の名前は『マリア』よ。これからよろしくね。『ノアール』」
「あたくしの方こそ、よろしくお願い致しますわね」
こうして私の新生活は、突然はじまった。
お読み頂きありがとうございました。
不定期更新ですが、頑張って更新します。
よろしくお願いします。