お前を殺せる日まで
人はいつ死ぬと思う、とはかの有名な漫画の名台詞。
「人に忘れられた時」その医者はそう続けた。だとすればあの男はいつ死んでくれるんだろうか。
深夜のスマートフォンは心身ともに毒だ。目は冴えるし体は重くなるし、思い出したくもない奴の名前が目に入る。
アイツが憎い。今すぐ殺してやりたい。
私にゴムのような身体があれば、私に三振りの日本刀があれば、私に空を歩く脚力があれば、今すぐあいつを殺しに向かうだろう。きっと、跡形もない程にボコボコにして、消し去って、殺してやるんだ。アイツが死んでくれるだけでどれだけ心が軽くなることだろう。想像するだけでワクワクして、そして虚しくなった。
私はただのひ弱な人間で、無力で、気持ちは沈んだままだ。気持ちだけが先走ってどうしようもない。
分かっている。アイツを殺せないのは、私を殺すことだからだ。既にズタズタな私に大穴が空いてしまうから、アイツを今殺す訳にはいかないんだ。殺したいのに、忘れたいのに、あの気持ちを忘れてしまうのが怖い。わかっている。
わかっているから、やるせない。人生とはこうも上手くいかないものか。それもこれも全部アイツのせいだ。あんな奴を好きなものか。好きだったものか。そう思えば思うほどズタズタな私のどこかが悲鳴をあげる。過去を消し去ることも許してくれないのか、そうかお前はどこまでも邪魔で、許せなくて、でも好きだったんだ。
いつかお前を殺せる日がくるまで、私がお前を忘れるまで、私はお前を憎みながら生きてやる。その日が来たから、「全く、いい人生だった!」って笑ってやるんだ。それまで死んでくれるなよ、だってお前を忘れなきゃ私には生きる意味が無くなってしまうから。