第40話 再突入
「さて……これからどうしたものか」
イザナミとかいう探検隊と別れて数分のこと、あっしは再び霧が立ち込めつつあるフロアで途方に暮れていた。
このラビリンスとやらの特性はまったくもって知らんが、不定期で別の空間に飛ばされてはすぐに戻る。
ラビリンスに戻ってきたら、今までとは全く違う地形に様変わりという寸法なのだ。
多分あいつらの話を聞くに、外のモンスターがここに入ってくる時に構造が変わるのだろう。
まぁここは霧で周りが見えないから、違いは分かりにくいのだが……
……それはさておき。
あっしが別空間に飛ばされた時、構造が変わった時、きっとその時がイザナミ突入のタイミング。
あっしはそれまで、なにをしてればいいのだろうか。
今まで通りほら穴に隠れてやり過ごす?
いやいや、肝心のサクラたちに見つけてもらえなければ終わりなのだ。
なら、その辺をてきとうに歩き回る?
……あっしがこれまで通り他のモンスターに襲われないという保証がない。
一度敵対行動を取ったのだ、見逃してくれると考えるのは希望的観測すぎる。
どうしたものか……。
霧もいつこのフロアを包み切るか分からない、隠れる選択肢も現実的でない、かといってそこらを歩き回って奇襲に遭えば死ぬのは明白。
八方塞がり、詰み。
そんな結論に至りかけた時、あっしの首元がドクンと脈打った。
この地獄で産まれたことを表す、憎き鬼の烙印の鼓動が……あっしに手を差し伸べてきたのだ。
◇◇◇◇◇
「すぅぅ……はぁ……」
ガルタは腕を大きく広げ、深呼吸をする。
なんでも魔素を吸って回復してるんだそうだ。
魔素ってそんな酸素みたいに吸えるもんなのか……?
……正直馬鹿らしく見えるが、ここはガルタに倣って俺も深呼吸しよう。
早く回復して、チギリを迎えに行かないと。
あいつだっていつ死ぬか分からない。
次の攻略ではアイテムをできるだけ回収してかつ、目につくモンスターもできるだけ殺していかなくちゃならない。
時間のかかる攻略だ。
準備時間もなるべく減らしていかないと……手遅れになりかねない。
「先輩」
「わっ」
突然耳のあたりにみょんと何かが触れ、ビクッと震えて振り向く。
視界に映るのは鞭のように身体を伸ばしたサクラの姿。
「暴走はなしっすよ」
「っ……」
「先輩自体が危ないっていうのが一番っすけど……師匠のあんな顔……もう見たくないんすよ」
「ガルタの……? それってどういう……」
「二匹ともー! 準備できた?」
聞き慣れた快活な声を聞き、無意識に息と笑いが零れた。
俺は笑いかけたその表情のままガルタの方を向く。
「俺は大丈夫だ。二匹こそ大丈夫なのか? もう少し回復の時間をとっても……」
「だいじょうぶい! モンスターは回復が早いからね。腕だってほら、もうだいじょぶ!」
そう言いながらニコニコ顔で腕をぶんぶん回すガルタ。
「あれ? でもちょっとちぎれそうかも」
「おい……」
「嘘嘘冗談! もうウサミったら~。そんなに僕のことが心配なのぉ?」
「当たり前だろ。もうあんなの……」
腕が無くてフラフラで、ちぎれた腕がすぐ近くに落ちてて、立ってるのだってつらいのに無理に笑って、俺が苦しそうにすればすぐに顔を歪めて……
俺はギリギリと音が鳴るくらい自分の歯を強く噛む。
「……ガルタ」
「うん?」
「……いや、なんでもない」
……今、言うことじゃない。
今は集中、全力でラビリンスを攻略することだけを考えろ……。
俺はまた、深呼吸する。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。
「よし、行こう。二匹とも」
「うん!」
俺はまた、化け物の腹の中に入ろうと決意を固めた。
ガルタも肘を伸ばしたりと準備運動をしながら入口の前に立つ。
サクラはその後ろで、大きくため息を吐いた。
「……似た者同士っすね。ほんと、不器用なんすから……」
サクラもまた、不退転の決意をもってキリタチの谷を睨みつける。
「今行くっすよ……チギリ」




