第30話 意味
「中々やるのだな……」
ガリッ。ガリッ。
あっしは前歯でリンガの実を必死に削りながらサクラを眺める。
同族が殺されるのを見るのはやはり、何度見てもいい気持ちはしないのだ。
……だが、今はそうせねばこちらが死ぬ。
あっしはもう、死にたくない。
リンガの実の欠片をウサミの口に入れては飲ませ、削り、入れては飲ませ、削り──────
それを続けて、やっと前足の骨が再生してきた。
再生しかけの赤い肉が骨の周りに現れ始め、呼吸も次第に穏やかになってくる。
とはいえまだ油断はできないが。
「はやく……起きるのだよ」
早く、起きるのだ…………貴様のことは別にどうでもいいが、こっちはもう……
「はっ……はっ……チュウリン……どう、っすか?」
サクラがこちらに視線を向ける。
口から不規則に白い息が昇り、頭に巻いた緑のスカーフが解けかけている。
「……まだ、かかるのだよ」
どうやら、先程のスキルは多くの魔素を消費するようなのだ。
一度の発動でかなり息が上がっている。
あっしの鼓動が大きく、早くなってくる。
サクラが戦えなくなれば、次はあっしが戦う番。
戦ったことなんてないのに。
あっしはただ、外に出たいだけなのに。
それに……
「なら……もっと時間を稼がないとっすね……!」
あっしには分からない。
なぜ、このサクラとかいう奴はこんなに頑張る?
死にたくないから?
こいつは、外から来たモンスターだ。
やろうと思えば脱出だって……この、アイテムボックスのアイテムを使えばできるだろう。
あっしは地面に転がるアイテムボックスに足を乗せる。
リンガの実を想像しながら。
アイテムボックスは青く輝き、すぐにリンガの実が出てきた。
あっしはまたそれに、前歯を突き立てる。
ガリッ、ガリッ、ガリッ。
もう、何度木の実を削ったか分からない。
歯茎からは血が滲み、果汁と血が混ざって最悪の味が口内に広がる。
サクラの良い香りを嗅いでいなければ、鉄臭さと青臭い木の実の匂いで狂っていたかもしれない。
「モチだまっ!!」
サクラは再びスキルを発動した。
三体のゴロックは跳び上がってそれを回避し、大きな音を立てながらこちらに転がってくる。
もう学習されたのか……
「はっ……絶対、通さないっすよ……」
身体が揺れている。
おそらく……魔素酔いなのだ。
サクラはゴロックに向かっていき、そして…………
「うぐっ……!?」
体当たりで弾き飛ばされた。
バウンドして、凸凹な地面を転がる。
粘性のある身体に砂埃が引っ付き、黒く燻んでいる。
それでも彼は立ち上がり、またゴロックに向かっていく。
「っは……っは……」
もう真っ直ぐ進むこともできず、ジグザグ動きながら弾んで進む。
もう……やめろ……
「はぁぁぁぁ……!!」
力んで、震えながらゴロックを睨みつける。
やめるのだ…………もう、やめてくれなのだ……
サクラに迫るゴロックの転がる音が、心臓の鼓動と重なる。
ゴロゴロゴロゴロゴロ。
ドッドッドッドッドッ。
サクラに、ゴロックの体当たりが突き刺さる。
身体が大きく凹み、力無く後ろに吹き飛ばされた。
「ぐあっ……」
顔で地面を擦り、ピクピクと痙攣しながらまだ立ちあがろうとする。
……あまりにも、意味がない。
意味がなく、痛々しい。
意味がないだけならまだ良い。
なぜ、そんな目に遭ってまで……
「はぁっ……っふ……」
また、立ち上がった。
「なぜ……!」
そう、口から溢した時。
「げほっ……っは……」
「……! おい! 起きたのか!?」
この、ウサミとかいうやつが咳き込んだ。
いつまで寝てるんだ、お前が、お前が起きないと、起きろ!
ウサミは未だ治り切らず、足先の骨が剥き出しで、毛も生えそろっていない肉を自身で見て首を傾げる。
「っは……あ、あ……?」
ついで、あっしの顔を見た。
その瞬間、酷く顔を青ざめさせて震え出す。
「や……やめて……もう、噛まないで……」
「そんなこと言っている場合では……」
「っひ!?」
あっしが声を掛けると、両前足で耳を覆って疼くまる。
「貴様……!」
貴様が、貴様が起きなければ、サクラは何のために…………!!
あっしは前足に力を込めて唸る。
「チュウリン……!」
後ろからするその掠れた声に、あっしは振り向く。
ゆっくりと口角を上げ、身体を伸ばし……
「ナイス、ファイトっす……!」
グーサインを掲げた。
何が、ナイスファイトだ。
貴様の方が、よっぽど……くそっ……
「……あっしでは、ウサミとやらは起こせない。バトン、タッチなのだ」
あっしは震える足を堪え、アイテムボックスを首から下げ……転がってくるゴロックを睨みつけた。




