第29話 しっぱいはせいこうのもと
オイラは、弱い。
だから……お二匹のことが羨ましくてたまらなかった。
一体何度思ったことだろう。
あぁ……ガルタ師匠はいいな。
なんでも噛みちぎる、白く輝く牙。
鋭く伸びる、立派な爪。
それと、馬鹿力。
あぁ……ウサミ先輩はいいな。
どこまでも跳んでいける、屈強な足。
小さな音も聞き分ける、大きな耳。
見たこともない、魔素の出力。
それと比べて……オイラは。
まんまるで、ふにゃりと伸びるだけで、柔らかくて、臆病で、のろくて、勝手に暴走して……リンガの実一つ潰す力さえない。
死にかけのウサミ先輩を前にして、ただ虚空を見つめることしかできなかった……弱虫。
父ちゃんと母ちゃんの言っていることは正しかった。
『お前には無理だ』
『あなたには危険な目に遭って欲しくないの』
『弱すぎる』
『お願いだから……』
『返り討ちに遭うだけだ』
『あなたに……』
『お前に……』
『『探検隊は向いていない』』
たはは……分かりきってた、ことだったすね。
オイラが弱かったせいで、ウサミ先輩の前足がもがれ、噛みちぎられ、血まみれにされた。
なら……どうすればいい?
強く、なる。
強くなりたい。
けど、無理なんす。モチもんは……オイラは、弱いっすから。
オイラじゃあ、今迫ってきてる六体のモンスターには到底勝てない。
一体ならまだしも、六体同時に相手をするなんて。
万に一つも、勝ち目なんてないっす。
……けど。
「スキル発動……」
今は……勝たなくてもいい!
「モチだまっ!!」
オイラは直上に跳び上がってスキルを発動。餅の弾を六つ発射したっす。
びよんと伸びる餅の弾丸、殺傷能力はゼロ。ダメージを与えることはできない。
けど、目的はダメージじゃないっす。
「ゴッ……」
「ゴゴ……」
転がりながらこちらに向かってくるモンスター六体、その進路を予測して地面に餅を発射。
二体のゴロックをその場に拘束することに成功したっす。
しかし……
「ちうっ!」
動きの素早いチュウリン三体には当たらず、ゴロックも一体取り逃す始末。
狙いが甘かったすかね……。
モチだまをもう一度発動する?
いや、二度同じことをしたとして通用するかは大分怪しいっすよね。
オイラの使えるスキルはこれ以外には…………
……いや。
オイラたちは第六フロアまで上ってきた。
この手でたくさんのモンスターを殺した。
EXPを、得てきた。
こんなオイラでも……新しいスキルの一つくらい使えるっす!
素早いチュウリンたちは砂利を巻き上げながら、もう五メートル圏内くらいには近づいてきている。
動きの遅いゴロックは少し後ろからついてきている。
残された猶予は……スキル発動一回分の時間のみ。
つまり…………
「絶対に、失敗できない……」
口からこぼれたその言葉が耳に入り込んだ時。
オイラの頭に去来するものがあった。
自分の失敗のせいで足がもげ、白くてサラサラの毛並みが赤黒く染まり、泣きながら身体を上下させて呼吸するウサミ先輩の姿。
そしてオイラを体当たりで吹っ飛ばす直前……見てしまったっす。
自分の口を噛んで必死に涙を堪える、ウサミ先輩の顔を。
きっと、怖くて泣きそうになっていたはずっす。
それでも、先輩は助けにきてくれた。助けられてしまった。
あそこで苦しむべきは、考えなしに突っ込んだオイラだった。
今、後ろには先輩だけじゃない。
助けてくれたチュウリン、強敵を一匹で引き受けて戦っているガルタ師匠。
オイラがここで、止めなければ、全て瓦解する。
もし、もしっす。
もしここで失敗、失敗したら…………
「スキル……発動」
違う……違うだろ…………しっかりするっす、自分!!
「……む? 何やらかぐわしい香りが……」
もし、もし成功すれば…………!
「ブロッサムダンプリング!!」
成功すれば、またみんなで笑える!
オイラの身体から、華やかな香りが流れ出る。
風に乗って、どこまでも。
その香りは、心などないはずのモンスターたちの動きを一瞬、ほんの一瞬止めた。
香りが発せられたのと同時、ピンク色の丸い弾丸がまた六つ発射された。
動きの止まったモンスターの顔面を覆うように、その弾丸が着弾した。
それは完全に、鼻の穴と口……呼吸できる場所を塞ぐことのできる位置!
チュウリンたちはそれを外そうと、前足で餅を引っ張る。
が、手にも餅が引っ付いて離れなくなる。
全身を使ってゴロゴロと転がり、全力でもがくも…………
「……! ……────」
息、絶えた。
三体のチュウリンは仰向けに倒れ、光の粒子と化した。
……オイラ、失敗しなかったっす。
今度は、誰かを守れたっす。
「……へへ」
たった一回の成功。
春風にも似た甘くてあったかい空気が漂うラビリンスで、オイラはそれを噛み締めた。




