表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

第29話 しっぱいはせいこうのもと

 オイラは、弱い。

 だから……お二匹のことが羨ましくてたまらなかった。

 一体何度思ったことだろう。


 あぁ……ガルタ師匠はいいな。

 なんでも噛みちぎる、白く輝く牙。

 鋭く伸びる、立派な爪。

 それと、馬鹿力。


 あぁ……ウサミ先輩はいいな。

 どこまでも跳んでいける、屈強な足。

 小さな音も聞き分ける、大きな耳。

 見たこともない、魔素の出力。


 それと比べて……オイラは。

 まんまるで、ふにゃりと伸びるだけで、柔らかくて、臆病で、のろくて、勝手に暴走して……リンガの実一つ潰す力さえない。

 死にかけのウサミ先輩を前にして、ただ虚空を見つめることしかできなかった……弱虫。

 

 父ちゃんと母ちゃんの言っていることは正しかった。


『お前には無理だ』

『あなたには危険な目に遭って欲しくないの』

『弱すぎる』

『お願いだから……』

『返り討ちに遭うだけだ』

『あなたに……』

『お前に……』


『『探検隊は向いていない』』


 たはは……分かりきってた、ことだったすね。

 オイラが弱かったせいで、ウサミ先輩の前足がもがれ、噛みちぎられ、血まみれにされた。


 なら……どうすればいい?

 強く、なる。

 強くなりたい。

 けど、無理なんす。モチもんは……オイラは、弱いっすから。

 オイラじゃあ、今迫ってきてる六体のモンスターには到底勝てない。

 一体ならまだしも、六体同時に相手をするなんて。

 万に一つも、勝ち目なんてないっす。


 ……けど。


「スキル発動……」


 今は……勝たなくてもいい!


「モチだまっ!!」


 オイラは直上に跳び上がってスキルを発動。餅の弾を六つ発射したっす。

 びよんと伸びる餅の弾丸、殺傷能力はゼロ。ダメージを与えることはできない。

 けど、目的はダメージじゃないっす。


「ゴッ……」

「ゴゴ……」


 転がりながらこちらに向かってくるモンスター六体、その進路を予測して地面に餅を発射。

 二体のゴロックをその場に拘束することに成功したっす。

 しかし……


「ちうっ!」


 動きの素早いチュウリン三体には当たらず、ゴロックも一体取り逃す始末。

 狙いが甘かったすかね……。


 モチだまをもう一度発動する?

 いや、二度同じことをしたとして通用するかは大分怪しいっすよね。

 オイラの使えるスキルはこれ以外には…………

 ……いや。

 オイラたちは第六フロアまで上ってきた。

 この手でたくさんのモンスターを殺した。

 EXPを、得てきた。

 こんなオイラでも……新しいスキルの一つくらい使えるっす!


 素早いチュウリンたちは砂利を巻き上げながら、もう五メートル圏内くらいには近づいてきている。

 動きの遅いゴロックは少し後ろからついてきている。

 残された猶予は……スキル発動一回分の時間のみ。

 つまり…………


「絶対に、失敗できない……」


 口からこぼれたその言葉が耳に入り込んだ時。

 オイラの頭に去来するものがあった。


 自分の失敗のせいで足がもげ、白くてサラサラの毛並みが赤黒く染まり、泣きながら身体を上下させて呼吸するウサミ先輩の姿。

 そしてオイラを体当たりで吹っ飛ばす直前……見てしまったっす。

 自分の口を噛んで必死に涙を堪える、ウサミ先輩の顔を。

 きっと、怖くて泣きそうになっていたはずっす。

 それでも、先輩は助けにきてくれた。助けられてしまった。

 あそこで苦しむべきは、考えなしに突っ込んだオイラだった。

 今、後ろには先輩だけじゃない。

 助けてくれたチュウリン、強敵を一匹で引き受けて戦っているガルタ師匠。

 オイラがここで、止めなければ、全て瓦解する。


 もし、もしっす。

 もしここで失敗、失敗したら…………


「スキル……発動」


 違う……違うだろ…………しっかりするっす、自分!!


「……む? 何やらかぐわしい香りが……」


 もし、もし成功すれば…………!


「ブロッサムダンプリング!!」


 成功すれば、またみんなで笑える!


 オイラの身体から、華やかな香りが流れ出る。

 風に乗って、どこまでも。

 その香りは、心などないはずのモンスターたちの動きを一瞬、ほんの一瞬止めた。


 香りが発せられたのと同時、ピンク色の丸い弾丸がまた六つ発射された。

 動きの止まったモンスターの顔面を覆うように、その弾丸が着弾した。

 それは完全に、鼻の穴と口……呼吸できる場所を塞ぐことのできる位置!


 チュウリンたちはそれを外そうと、前足で餅を引っ張る。

 が、手にも餅が引っ付いて離れなくなる。

 全身を使ってゴロゴロと転がり、全力でもがくも…………


「……! ……────」


 息、絶えた。


 三体のチュウリンは仰向けに倒れ、光の粒子と化した。


 ……オイラ、失敗しなかったっす。

 今度は、誰かを守れたっす。


「……へへ」


 たった一回の成功。

 春風にも似た甘くてあったかい空気が漂うラビリンスで、オイラはそれを噛み締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ