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第28話 痛くても怖くても許せなくても

「……サクラ、これをウサミに」


 僕は首から下げたアイテムボックスの紐を引きちぎり、サクラの前に投げる。


「ウサミは……モンスターは、これくらいじゃ死ねないよ。サクラ」

「……!!」


 サクラは砂利を巻き上げる勢いで顔を上げ、アイテムボックスを手に取る。


 そう、モンスターは簡単には死なない。死ねない。

 だって、あの時は…………

 ……とりあえず、これで……ウサミの身体()助かるはず。

 あとは…………


「お、おい……これは……どうするのだ……」


 チュウリンの震える声には、恐怖の色が深く滲んでいる。

 無理もない。


「ちう……」

「ゴロロ……」


 黒霧が割れ……六体もモンスターが出てきたのだから。

 左手の岩陰から二体、正面から四体。

 耳がもげたのと、飛び出た前歯が紅く染まって肉片がこびりついたチュウリンがいる。


 あいつらが……ウサミを…………


 僕は手のひらを地面に向け……五本の指から鋭く爪を伸ばす。


「チュウリン……サクラと協力して、あっちを頼んでもいいかな」

「あ、あっしは……」

「無理ならここで死ぬだけだよ」

「そ、そんな無茶な……」


 ……大丈夫、味方のチュウリンはラビリンスで産まれた、意思を得たモンスター。

 僕たちは戦い方とか、そういうものは本能で理解できる……そういうふうに、できてるんだから。


 ……もう、二匹のことを気にしてられない。

 目の前のオニが強すぎて、手が離せなくなるから? 違う。

 僕の視界が真っ赤で……心がどろどろと重たく渦巻いて…………もう、他の色なんて、存在なんて目にも入らないから。


 僕の身体から魔素が迸り、キラキラと星空が広がるように溢れ出る。

 腰を低くして、オニをまっすぐ捉えながら……


「避けるなよ……」


 地面を蹴り出した。

 湾曲して伸びる僕の爪は魔素で覆われて紫色に輝き、巨大化する。

 オニは後ろに下がりながら腕を素早く動かし……緑色の五芒星が空に出現した。


 逃げるなよ……待てよ……お前が、お前が……ウサミのことを半殺しにしたお前が…………!


「逃げるなぁ ゛!!!」


 オニの描いた五芒星の周辺が歪み……その歪みが刃の形と成り、そのままこちらに飛んできた。

 見える。こんなもの弾き返せる。


 僕は右手の爪を立てて、刃を弾き返そうと振りかぶる。


 これを弾いて懐に入る……そしてズタズタに引き裂いて、中身を抉り出す。


 紫に輝く爪と、歪みの斬撃が衝突。



──────ガッ……ギギギ……



 多量の魔素を使って厚くコーティングした爪。

 並の攻撃では拮抗どころか押すことも難しい。

 それなのに……


 バリッ。


「……っ」


 四本、爪が剥がれた。

 僕の爪を剥がして飛んでいく斬撃は後ろの地面に着弾し、岩を砕いて白煙を上げる。

 指からはしとどに血が流れ、ボタボタと音を立てて落ちる。


 だから……なんだ……


 僕は手に魔素を集中させて血を止め、再び爪を生やす。


「はぁっ……はぁ……」


 ラビリンス内で自力治療はやっぱり燃費が悪い…………

 四の五の言うな。

 ウサミは血の海に沈んでも、前足がなくなっても、角が折れても、僕たちのために全力で体当たりした。

 じゃあ僕は?

 爪がもげたくらいで、痛いと口に出していいわけがない。思っていいわけがない。


 僕はまた地面を蹴ってオニを追いかけた。



◇◇◇◇◇



「先輩……先輩……」


 オイラはうわごとのようにただそのフレーズを繰り返す。


 先輩、先輩、せんぱい、センパイ…………


 先輩のリンガの実より赤い口の中に、リンガの実を入れる。

 けど、先輩の顎は動かない。

 苦しそうに呻くだけ。もう、噛むだけの力も残っていないというのか。


 なら……絞って……


 オイラは身体の一部を伸ばし、紐で縛るようにリンガの実を締め付ける。

 全身がプルプル震えるくらい締める。びくともしない。焦りで涙が滲む。さらに力を込める。

 ぶちっ。

 力を入れすぎてオイラの一部が弾けた。

 それでもリンガの実は軋みもしない。


 早く、早くこれを食べさせないと先輩が……先輩が…………


 凶暴なモンスターに追われているような圧力が胸にかかり、頭がぼやぼやしてくる。


 早く、早く、早く早く早く…………!


「……貸すのだ。貴様の力ではできん」


 チュウリンはオイラの手から乱暴にリンガの実をぶんどり、前歯で削り出した。

 それを先輩の口に少しずつ入れていく。

 その最中、金色の瞳をオイラに向けて喋り出す。


「……あっしは、戦ったことがない。だが、戦わねば死んでしまうのだ。この、ウサミとかいうやつも」

「……」

「サクラとか言ったか……貴様、時間を稼げ」

「へ……」

「あっしはまず外に出たいのだよ。分かるかね? そのためにも、貴様らにここで死んでもらっては困るのだよ。だから必ず……この……えっと、ウサミ?を助けるのだ。それまで、時間を稼げと言っているのだよ。分かるかね?」


 チュウリンも焦っているのか、早口で似たような言葉を繰り返している。


 ……一匹で、ずっとここに居て。

 会ってほとんど時間も経ってない、一緒になにかしたわけでもないオイラたちと戦おうとしてくれている。

 死にかけの先輩を見て絶望するだけのオイラに、時間を稼げと頼み事をしてくれている。

 もうこれ以上……オイラを頼りにしてくれたモンスターに、酷い目に遭ってほしくない……!

 だから……


「時間稼ぎ……オイラに任せるっす!」


 だからオイラは……戦い続ける。

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