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第24話 地獄の印

「? ゼンセ? なんだねそれは」

「えっと、生まれ変わりっていうか……」

「はっ、今はそんなファンタジーな話をしている場合ではないのだよ。無駄話をしている時間はないと何度言えば分かるのだね?」

「ご、ごめんなさい……」


 切り替えきれていない俺が全面的に悪いとはいえ、棘がある……なんか悲しくなってきた……。


 ……というか、俺はなにを思ってこれを聞いたんだろう。

 元の……あの場所に戻りたいって、思ってんのかな。

 そんなわけ……ない、と思う。


 俺は首を振って無理やり思考を散らせ、チュウリンをジッと見つめる。


 なんか、他のチュウリンとちょっと違うような……?


「……チュウリン、首元を見せてもらってもいいかな」

「はぁ? なんであっしがそんなことを……」

「お願い」


 チュウリンはガルタのバカ正直なお願いに少したじろぎ、ブツブツと呟きながら顔を上げて首を見せる。

 

「こ、これは……」


 赤い……模様?

 赤い丸に、歪な角が二つ生えたような……ビー玉くらいの小さなものだ。

 禍々しくて、見ていていい気分のするものではない。

 鬼……みたいな?


「……ちう」

「!」


 チュウリンの首元、鬼のような模様に気を取られて……俺は気づかなかった。

 パラパラと小石が落ちる音がしていたことに。


「させないっすよ」


 突然サクラが跳び上がり、俺の頭上を通り抜けていく。

 俺が呆然とそれを目で追うと……敵のチュウリンにまとわりつくサクラの姿があった。

 口と鼻が完全に塞がれ、呻き声を上げながら転がってもがいている。

 いきなりのことで俺は声を出すことが出来ず、口をパクパクとさせることしかできない。


「先輩……ごめんなさい。オイラが弱いから、いけないんすよね」

「え」

「オイラが弱いから、先輩が無理したんすよね。オイラがあの時、庇う以外の手段をとれれば……」


 間髪入れず、サクラは身体を伸縮させてチュウリンの口と鼻を塞いだまま首を絞め上げる。

 チュウリンの首が上を向き、天に縋るように前足を伸ばす。


「だから、オイラが無理すればいいっすよね。そうすれば先輩は無理しないっすもんね」

「そんなの……」

「もう決めたことっす」


 サクラは語気とともに力を強め……チュウリンはビクビクと痙攣しながら地面にへたりこんだ。

 俺はサクラから初めて感じる圧に唇を結ぶだけで何も口に出せず……そうしている内にチュウリンの身体は光の粒子になって消えた。


「……とりあえず、穴から出ようか」



◇◇◇◇◇



 俺たちは洞穴から這い出て、四方を見回す。

 濃く漂っていた霧は俺によって吹き飛ばされたようで……今も、周辺に霧は見えない。


「各々思うところはあるだろうけど……とりあえず進もう。一匹戦力が増えたことで進みやすくなったはず」

「おおおおおい、待ちたまえよ。その戦力というのはも、もももしかして……あっしのことを言っているのかね?」

「そうだけど……」


 チュウリンは素早い動きで後退し、ブンブンと首を振る。


「あ、あっしは突然目覚めて逃げ回って隠れていただけで……た、戦ったことなどないのだぞ……! 無理に決まって……」

「けど、僕たちも君を守りながら進むほど余裕はないんだ。それに、その模様は……」


 ガルタがなにかを言う前に、突然チュウリンの身体が紅く光る。

 もっと言えば、首元が光った。

 首からぼんやりと放たれる光は地面に反射し、チュウリンの全身が光で包まれる。


「まずい……! チュウリン、他に隠れ場所は!!」

「ど、どうしたのだ急にそんなに慌てて……今のが最後の洞穴なのだよ」

「くっ……みんな、岩陰に隠れて!! 早く!!」


 さっきまで冷静だったガルタの額から急に汗が流れ、呼吸が荒くなる。

 この慌て様は……イモもんに捕まった時以来だ。

 全く状況が飲み込めなくても、ガルタに呼応するように俺も汗が止まらなくなる。


「む、向こうに大きな岩場があるのだ!」


 チュウリンはピューっと効果音がつきそうな程素早く走り出し、俺たちは必死にそれについていく。

 ガルタにできるだけ物音をさせずにかつ急ぐよう指示され、俺たちはそれに従って岩場を登る。

 途中で身体を丸くして震えるチュウリンを見つけ、俺たちも同じ岩の裏に入る。

 この辺りでは一際大きな岩で、四人集まっても全然余裕がある。

 チュウリンの鬼の模様は未だ光ったままで……むしろ光が強まっている気がする。


 ガルタはなにか知っているようだが……


「どこに……早く見つけないと……」


 ガルタは瞳孔を思い切り開き、肩が上がって力んでいるのが分かる。

 岩陰から慎重に顔を出し、登ってきた岩々をギョロギョロと見回している。


 普段は綿みたいに軽くててきとうなやつなのに……霧も晴れたしこの階層でそんな厄介なことになることはあまり……


「……ん?」

 

 俺もなにかしないとという焦燥感で、岩陰から顔を出した。

 その視線の先に偶然か必然か、明らかに異質な存在が踊っていた。


「ヒトヒト……シクシク……」


 俺たちと同じくらいの小さな身体に、不釣り合いな大きさの鉄の棒を抱え、赤色の般若の仮面を身に付けている。

 ほぼ太い棒のような腕、足は無機質で……ただその器官として役割を果たせれば良いのだと言わんばかり。

 そして、頭から生えた金色の捻れた角。

 

 あれは…………鬼?

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