第2話 戦闘
「ウサミだからウサギってか……? はは、笑えねぇ」
俺は湖に映る自分と思われる像……イッカクウサギの姿をまじまじと眺める。
白色の体毛に赤色の目。
そして額に生えた立派な一本角はユニコーンを思わせるほど立派だ。
……こんな姿になっても、顔の四分の一くらいを占領する痣は健在……顔の左上部の体毛だけははっきりと境界が分けられているように茶色の体毛が生え、その下には紫がかった醜い痣が広がっている。
太陽の光で瞬くように輝く湖に写るその姿は、とても偽物とは思えない。
って、そんな呑気なことを考えている場合では無い。
このリアル感は現実か……?
いや……まだ、夢の線がある。
こういう時のテンプレ通り俺は頬をつねろうと、手……いや、前足を頬に持ってくる。
「……もふもふ、もちもち…………」
しかし痛みを感じる前に自分のモフモフさと肌のモチモチ加減に驚いた。
地面と接していた前足が頬の毛に触れ、土の粒が髭に引っ付く。
湖際の土だったからか少し湿っていて、白色の毛が少しグレーに変色する。
兎に角も、このリアル感が夢とは思えない。
今のこの状況が夢の可能性はほぼ消えたと言っていい……限りなく夢であってほしいのだが。
そうして俺が逆に冷静になっている間、ガルタは肩を閉じて辺りをソワソワと見回している。
「ウサミ、ここは危険だ。早くここから逃げないと!」
「危険? そういえばここ、見覚えがあるような……」
タイガルの出てくるゲーム……モンスターラビリンスだったか。
そんでこの風景……チュートリアルダンジョンの深緑の森か?
確かこの後の展開は……うーん…………
「ピェー!」
「うわっ!? イモもんだ!」
このよく分からない現状を打破しようと記憶を掘り出している真っ只中にイモもん、芋虫のモンスターが飛び出してきた。
そうだった、チュートリアルとしてモンスターが一匹出てくるんだったな。
というか待て、冷静に考えてる場合じゃないのでは……
「ウサミ! 戦おう!」
「逃げるんじゃなかったのか?」
「敵に背中を見せて逃げたら逆に危ないよ。ここで倒すのが一番だ」
「ふむ、一理あるな。ガルタ、ここは協力して倒そう」
「最初からそのつもりだよ!」
俺とガルタは背中を合わせてイモもんに向き合う。
こんなわけの分からない状況だが、俺は割とこの状況を受け入れられていた。
受け入れているというよりか、考えても無駄だと割り切っているのかもしれない。
ここで少年誌の主人公みたいに脳死でワクワクできたらどれだけよかったことか。
攻撃をくらったら痛いかもしれないし、人間の時でさえ戦ったことなんてないのに今はこんな身体だし……言い出せばキリがないほど怖い理由が出てくる。
もしかしたら、死ぬことだって──────
「いやいやいや、そんなことあってたまるか」
俺はそんな最悪な考えを頭を振ってかき消し、再びイモもんに向き合う。
自分の意思に反する嫌な考えが、ぐるぐると頭を混乱させている間に、ガルタが前に踏み込む。
「よーし! スキル発動! ワイルドネイル!」
ガルタがそう言うと、両手の爪が巨大化。
ギラリと白く輝くその爪はなんだって切り裂いてしまいそうだ。
そんな爪を携えたガルタがイモもんに向かって突貫する。
先程までの優しい表情とは打って変わって、文字通り虎のような獣の顔だ。
正直かっこいい。
「はぁっ!」
「ピェー!」
ガルタは思い切り両手をクロスするように振りかぶる。
イモもんは身体を転がしてそれを躱す。
そしてスキルの発動直後で不安定な体勢のガルタに向けて糸をはいた。
「や、やばい!?」
ガルタは為す術なく糸に巻き取られ、地面に横たわる。
こ、こんなにあっさり!?
てか待ってくれ、これ、どうすれば……
「く、くそ! 離せー!」
「う、どうすれば……」
ガルタは脱出しようと必死にもがくが、それは無駄だと言わんばかりに糸は更に複雑に絡み合っていく。
それを見たイモもんは這ってガルタに接近する。
や、やばい……このままじゃガルタがやられる……!?
「う、ウサミー! 助けてよー!」
「そ、そんなこと言われたって俺、戦ったこと……!」
「ピェー!」
「う、うわぁぁぁぁ!!?」