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第19話 キリタチ

「……ん?」


粉々に砕け散ったゴロックの破片が空に溶けるように消えていき……光の粒子が浮かび出る。

それらは俺たち三人に吸い込まれていき……やがて収まった。


今の……キールを倒した時にもあったな。


「これは……」

「今のはEXP。モンスターを殺すことで得られるポイントだよ」

「これを集めることでオイラたちは強くなれるんすよ」

「というか、そんなことも知らないなんて……ほんとにどうやって生きてきたのさウサミ」

「いや……まぁ、な」


他のモンスターを殺すことでEXP、経験値を得てレベルアップをする。

大体のゲームにあるシステムだな、モンスターラビリンスもそうだった。

この世界では経験値が可視化されているのか。


殺して、強くなる。

ゲームだとなんとも思わない行為だったのに、いざこうして自分で実行すると……なぜこんなにも胸が苦しいのだろう…………


「それにしても、ゴロックの背後に近づく時のウサミ凄かったね! 足音一つしなかったよ?」

「……そう、だな」


いじめっ子のいる教室の前を通る時とか、誰にも会わずに帰りたい時とか…………

足音を鳴らさずに歩くようにするのは……もう染み付いた習慣だ。

まさかこんなところで役立つとは。

正直思うところはある……が、死ぬよりは断然マシだ。

使えるものは、なんでも使う。……死にたく、ないから。


「そうしたら少しは……あの人生にも意味があったと思えるしな」

「あの人生?」

「あぁ、なんでもない。それよりもアイテム回収をしよう」


俺たちは第一フロアにある目についたアイテムを大体回収し、階段を使って次のフロアへ進んだ。

できる限りの接敵を避け、どうしてもの時は不意打ちで処理して経験値を得る。

そんなこんなあり、良い流れでキリタチの谷を進んで行った。


このままいけば依頼達成も難しくない……そう思った矢先のこと。


俺たちは第六フロアに足を踏み入れた。


「な、なんすかこれ……前が……見えないっすよ……」


階段を抜けた途端、辺りには一寸先も見えないような霧に包まれた。


「これは……霧だね」

「キリタチの谷……切り立った谷って意味だけじゃなくて、霧がたっている谷って意味でもあったのか。これは厄介だな……」


キリタチの谷、第六フロア。

フロア全体を覆い隠すように立ち込める霧は辺りの視界を完全に失くし、ここまで積み上げてきた良い流れさえ……底なしの不安に上塗りされてしまいそうだ。

その不安からか、霧が異形の化け物を形作っているようにさえ見える。


「……今度は僕たちが不意打ちされる番みたいだ」

「ここは……三匹背中合わせ進んでいくっていうのはどうっすか?」


……サクラの案が正直一番安定安全ではあると思う。

ここまでアイテムを丁寧に回収してきたおかげで多少不測の事態に備えることができる。

ただそれだと移動速度が遅すぎるし、蓄えたアイテムが足りなくなる可能性もある。

あと何階上がれば最上階なのかも分からないし……アイテムが底を尽きてなぶり殺し……なんてことも考えられる。

ここは移動速度をできる限り落とさず、それでいて安全に実行できる策がベスト。


「でもそんなのどうやって……あ」


そうだ、前世の記憶を頼ろう。

俺はこのゲームを一度クリア済みなんだ。

幼少期の記憶ゆえ曖昧だが、スキルの種類や効果は一通り覚えている。

あまりにリアルで……ここがゲームの世界であることを忘れていた。

ゲームと異なることも多いこの世界だが、この知識は俺にとって強力な武器だ。

活用しない手は無い。


こんな時に使えるスキルは……決めた。

あれならレベルが低くても使えるだろう。


「二人とも、これから俺がスキルを使ってこの事態を解決する。初めて使うスキルだから、周囲の警戒を頼めるか?」

「おっけー! 良い策が浮かんだんだね、こっちは任せて!」

「ウサミ先輩には指一本触れさせないっすよ!」

「……ありがとう、ガルタ、サクラ」


……安心して、お願いできる。頼れる。

対価を要求されることも、突っぱねられることもない。

なんとかするという、安全の保証もない俺の言葉。たったそれだけで、なんで…………


「サクラ、怪しいと思ったらすぐに下がるんだよ。近距離は任せて」

「頼もしいっす、師匠!」


信じて待ってくれるのだろう。

……分からない。


…………俺が、成功させないと。

二人が、待ってくれてる。


「すぅぅ……はぁぁ……」


……よし。


この世界に来て、何度かホーンタックルを使った。

スキル発動にはもう慣れた、はず。

これから使うのは攻撃スキルと違って対象を定める必要もないし、使うのは簡単だろう。


フロアがどれくらい大きいか分かんないから使う魔素ちょい多めで……

……敵も見えないし、二人が守ってくれてるからスキル発動宣言もして問題ないな。


俺は魔素を掬い、首を上げて角を掲げる。


「……スキル発動! ソニックウェーブ!」



──────キィィィィィン



角を大きく震わせ、超音波を周囲に飛ばす。

これは音の反射を利用してアイテムや敵の位置を把握する有能スキルで、昔よく使ったのを覚えている。

このスキルなら霧の中だろうと……視界がなくとも、敵モンスターの位置を把握することができる。


これで……!


「「「ゴロゴロ……」」」

「「「ちう……」」」


これで、この状況もなんとかなる。

そんな希望的観測は……一瞬で打ち砕かれた。


「…………やばい、かも」


震えた声が息とともに漏れる。

辺りを反響して聞こえてくるのは、何かが蠢く音。

霧の中、俺たち以外には、当然……


「ウサミ?」


霧に囲まれた暗闇で、迫ってくる気配をただ一人感じていた。

俺のちっぽけな胸から、青白い恐怖の感情が溢れ出てくる。


……俺たちは、囲まれた。

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