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第17話 おおきな入口

「────……ゥウサミぃぃぃぃぃぃ!!!」

「おわっ!?」


レースの車が近づいてくるみたいな声で叫ぶガルタが跳んできた。

身体を押し潰す勢いで覆い被さってきて、ギュゥゥっと強く抱きしめられる。


「痛い痛い痛い!? は、離せ!」

「ううぅぅぅウサミぃぃ……生きててよがったよ ゛ぉ……」

「ほんと、どこまで跳んでるんすか……」


ホーンタックルを使ってからしばらく経ち、俺はガルタとサクラに合流した。

というか迎えに来てくれた。

ガルタをグイグイと押し返しながら、俺は件の木を指す。


「いやぁ、スキルってすごいんだな。まさか木が真っ二つに倒れるとは思わなかったよ」

「へ!? 木が真っ二つに!?」

「あぁ、ほら。これだよこれ」


俺がちょいちょいと木を指していると、突然ガルタの腕から力が抜けた。

そしてガルタとサクラは青ざめた顔でガタガタと震えだし、互いに顔を見合わせる。

次いで二人はブリキのようなぎこちない動きで俺の方を見る。


「……えーっと、ちなみに、どれくらいの魔素を使ったっすか?」

「ん? そうだな……イメージに過ぎないが、両手が一杯になるくらいだな」


俺は前足を合わせて器を作って掬うジェスチャーをする。

サクラはそれを見て身体を傾げてうんうんと唸り出す。


「うーーーん……その程度の量じゃこんなことにはならないはずなんすけど……」

「というかウサミ、手ないじゃん」

「え?」


なに言って……


「ガルタ師匠、それは揚げ足をとるって言うっすよ。前足のことだって分かるじゃないっすか」

「あ! 確かにそっか」


……手が、ない。

そうだ、手がない。


俺は自分の前足を見る。

……小さい。


……俺はホーンタックルを使う時、なにを思い浮かべた?

自分が人間だった時の、大きな手。

それで魔素の流れをいっぱいに掬い上げて……


「あ、そういうことか」


俺がスキルを使う時イメージしたのは、人間の手。

しかし本来ならば、俺はイッカクウサギの前足をイメージしなければならなかった。

というかそうすることしかできないはずだった。

手をイメージしろと言われて、自分と違う生物の手を真っ先に思い浮かべる奴はいない。

イッカクウサギの身の丈に合わない人間の手をイメージしてスキルを使ったことにより、相対的に多くの魔素が消費されたのだろう。


軽く予測を立ててみたが、大体合ってるだろうな。

ただこれを話したところで二匹とも信じてくれるとは思えない……

現に、ガルタと最初会った時には俺が人間だって信じてくれなかった。

当たり前のことなのだけど。


だから俺は軽く誤魔化すことにした。


「まぁまぁ、最初は魔素の使いすぎで暴走することがよくあるんだろ? 今回はちょっとその規模が大きかっただけだきっと」

「うーん……まぁ今はそれで納得するしかないっすね」

「ウサミすごいね! これならラビリンス攻略も楽勝じゃない?」

「いやいや、こんなのラビリンス内で使ったら倒れるっすよ。ここがラビリンスの外だからウサミ先輩は無事なんすよ」

「あ、そっか」


倒れる……?

なんで?


俺が訝しげにしているのに気付いたのか、サクラは説明してくれる。


「あ、言い忘れてたっすね。ラビリンスの中では魔素の回復速度が著しく低下するっす。モンスターは生命力がめちゃめちゃ高いっすから基本死ぬことはないんすけど、ラビリンス内ではそれが制限されるんすよ」

「つまり、ラビリンス内で今の感覚のままスキルを使えば……」

「魔素の使いすぎで倒れるっすね。きっと角だって折れてるっすよ?」

「ひえぇ……」


お、恐ろしい……


俺は目線を角の方に向けてプルプルと震える。


ま、まぁラビリンス内でも木の実を食べれば角は再生するんだろうが……

魔素は人間の血液みたいなもんだとさっき自分で納得したばかりなのに、それを使いすぎたらどうなるかも分からないとは……

流石に考えなしすぎた……。


「少し使いすぎ程度なら魔素酔い程度で済むんだけどあの量だと……まぁ倒れちゃうね」

「魔素酔い……乗り物酔いみたいなことか?」

「そうそう。ちょっと気分が悪くなっちゃうんだよね」


頭がぼーっとして、身体が重くなって……戦闘中の魔素酔いは命取りだな。

消費魔素量の調節には細心の注意を払わねば。

細心の注意を払うと一口にいっても、そんな簡単なことではないんだろうな……

消費魔素量を増やせばスキルの威力が上がるというし、まさにちょうどいい塩梅というやつが求められる。

まさか異世界に来てまでそんなさじ加減を求められるとは、なんとめんどうな…………


「……とはいえ、生きるためには四の五の言ってられないからな」


俺がそう脳の中で独り言を繰り広げていると、ガルタがある一点を見つめてあっと声をあげる。


「あっ! もうキリタチの谷目の前じゃん!」

「ほんとっす! ウサミ先輩お手柄っすよ!」

「え? あっさりすぎないか?」


そんなに跳んだ角度が良かったのだろうか…………


俺は二人の指さす先を見る。

ゲームでよくある、ダンジョンへ続く洞穴みたいな入口。

歪に凸凹した岩肌、先が見えない暗闇に続く、人工物とはかけ離れた自然の道。

俺にはそれが口を大きく開けて待つ肉食獣のように見えて……口に含んだ唾を音をたてて飲み込んだ。


「さぁ……突入だ」

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