第13話 探検隊イザナミ
チーム名……
「全く考えてなかったね」
「大事っすよチーム名! これから有名になったら○○のガルタとか○○のウサミとか言われるんすよ!」
「じゃあウサミ! よろしく!」
「はぁ!? なんで俺なんだよ……」
いきなりチーム名を決めろと言われても困る……。
うーん……どうしようかな……。
…………こういうのは考えてもしょうがない系だな。
頭の中に降ってきたものをてきとうに採用しよう。
………………
「……イザナミ、なんてどうだ? 俺の故郷を産んだと言われる神様の名前だ」
正確に言えば違うのだが。
それにしても一番最初に出てくる単語がイザナミとは……我ながら末期の厨二病だな……。
「イザナミ……いいね! なんかかっこいい!」
「賛成っす!」
俺の厨二病な案に二匹はあっさりと賛成する。
自分で名付けておいてなんだが、少し気恥ずかしくなってきた…………
今からでも取りやめようかな……
「ではぁ、イザナミで登録しますよぉ」
あ、もうそういう空気じゃないや……まぁ、そんな気にするほどでもないでしょ……うん……。
べークが突然静止し、辺りをうねうねしていた触手たちも沈黙。
その数秒後、触手たちは一糸乱れぬ動きで俺たちの目の前に放射状に集まり出した。
「もももももも…………ごごごごがぱぁ!!」
そしてイヴキの謎の奇声を皮切りに触手たちはなにかを形作るように、またうねうねと動き回る。
それらは徐々に形を為していき……やがて桃の形となった。
……次いで眩く白い光がギルド全体を覆う。
「眩しっ……」
俺たちは反射的に手で光を遮る。
しばらくして光が晴れると、そこには……
「……はいぃ、これでぇ、探検隊イザナミぃ、登録完了ですぅ。では、こちらをお受け取りくださいねぇ」
紐に繋がれた水色のビー玉のようなものが一つ、イヴキの触手に現れていた。
これは……ネックレス?
「こちらはぁ、アイテムボックスですぅ。こぉんなに小さいですがぁ、アイテムやお金ぇ、色々収納することが可能ですよぉ」
「おぉ、それはすごいっす!」
「ですがぁ、盗まれたら終わりぃ、なんてことにならないようぅ、貴重品は保管しておきましょうねぇ。アイテムボックスが盗まれてしまいぃ、依頼も受けられずぅ、お金もなくぅ、ホームレスになった方もいますのでぇ……」
「っき、気をつけるっす……」
サクラがそれを聞いて青ざめてからシワシワと萎む。
なんだか紙風船みたいで面白い。
「じゃあこれは責任持って僕が首にかけておくね」
「不安だ……」
「不安っすね……」
「ちょっとぉ!! なんでよぉ!!」
ガルタは地団駄を踏んで頬をぷーっと膨らませる。
冗談は置いといて、アイテムボックスが盗まれる場合もあるのか。
ゲームではそんなイベントはなかったが、こんなにリアルな世界だ…………犯罪者だって当然いるだろう。
というか、こんなビー玉普通に失くしそうだ。
ビー玉サイズでなんでも詰められる道具なんて、高値で取り扱われるに決まっている。
こんなものを全探検隊に支給できるということは……ギルドは相当に溜め込んでいることが分かる。
「ではぁ、早速依頼をお請けになりますかぁ?」
「え? もう受けられるのか?」
「はいぃ、皆さんは既に探検隊ですのでぇ。依頼を受けることになんの支障もぉ、ございませんよぉ」
そう言いながらイヴキは触手を一本伸ばし、壁を指す。
俺たちの視線はつられるようにそちらに向いた。
これは……掲示板?
その壁には木でできた掲示板が大きな釘一本で止められていて、乱雑に紙が貼ってある。
整理されてないのが丸分かりだぞ……。
紙同士が重なったり、斜めに貼られていたり……これ、大丈夫なのか……?
「こちらがぁ、依頼掲示板ですぅ。こちらからぁ、ルーキーランクでも請けられる依頼をご自由にぃ、選択してくださいねぇ。お迷いの場合はワタシが選びますのでぇ、その際はお声がけくださいねぇ。ふひっ」
ねっとりとした笑い声で、顔の三つの点が不気味な笑顔を形作っている。
絶対にクリア出来ない依頼とか押し付けてきそうだ……
不安な気持ちが膨らむばかりの俺とは打って変わり、ガルタとサクラはウキウキで掲示板を眺めている……なんか、もっと緊張感持った方がいいんじゃないか……?
「ウサミウサミ! この大蛇に突き刺さった伝説の剣を手に入れる依頼にしよう!」
「そんなやばそうなもの却下だ。というかシルバーランク以上じゃないと受けられないじゃないか」
「ウサミ先輩! この謎の氷河地帯ラビリンスの調査にしましょうっす!」
「未知のラビリンスなんて危なすぎるだろう……そもそもこの依頼はゴールドランク以上じゃないと受けられないみたいだぞ」
どうやら二人には依頼を選ぶセンスがないらしい。
ここは俺がいい感じの依頼をチョイスして……
「お、木の実をとりにいく依頼なんて簡単そうじゃないか。どれどれ、条件は……」
「……プラチナランク以上、だね」
「……ウサミ先輩、それはないっすよ」
「うぐっ」
心の中で二匹をセンスがないとバカにしたせいで、その言葉で受けるダメージがでかい…………
しゅんと肩を落とす俺の頭にスライムのようなぷにぷにな感触が乗る。
「そんな時のためのぉ、ワタシですよぉ。皆さんにぴったりな依頼を選んでぇ、差し上げますよぉ」
「イヴキ……お願いしてもいいか?」
「はいぃ、ギルド職員としてぇ、皆さんをサポートいたしますぅ。ふひっ」
イヴキはぼんやり輝く頭部の三つの点の光を強めると、次にグルグルと回転させる。
数秒その状態が続き、点の回転が終わったかと思えば、目にも止まらぬ速さで触手が伸びて掲示板から一枚の紙がなくなった。
な、なにが起きたんだ……?
残像しか見えなかったんだけど……
「こちらがぁ、ぴったりかと思われますぅ」
いつの間にかイヴキの触手の先には依頼書が握られており……それを俺の前に差し出してくる。
俺は混乱しながらそれを受け取り、目を通す。
「どれどれ……場所は、キリタチの谷。キラキラとしたものを集める習性があるモンスター、キラーバードに私の友人が攫われてしまいました。どうか友人を救出してください……だそうだ」
読み終えて依頼書から顔を上げると、不安そうに小さくなるガルタとサクラの顔が目に入る。
「え……キリタチの谷……? そこって結構厳しいラビリンスじゃなかった?」
「はいっす。初心者探検隊が尽く返り討ちに遭って逃げ帰ってきたり……そのまま、亡くなったなんて話も聞くっすね」
「……イヴキ、俺たちがそんなラビリンスを攻略できるのか?」
俺は二匹の話を聞いて一気に不安になり、イヴキの無機質な丸い目を見て訊ねる。
イヴキは下の点をくにゃりと曲げながら迷うことなく頷き、こう言った。
「はいぃ。イザナミの皆さんであればぁ、キリタチの谷を攻略しぃ、依頼を達成できると信じていますよぉ。ギルド職員としてぇ、分不相応な依頼を勧めることはないとぉ、誓いましょうぅ。ふひっ」