第12話 友達なら
「登録!」
「お願いしまっす!」
二匹がちょっとムキになってやる気を出してくれて、カウンターから乗り出す勢いでリーキャッチに話しかける。
二匹がいないと俺は何もできないだろうからな、どんな意図であれこうやって先導してくれると助かる。
「かわいらしぃ、御三方ですねぇ。探検隊登録ぅ、という事でよろしいですかぁ……?」
「うん! お願い!」
「ではぁ、こちらのスカーフをお受け取りぃ、くださいねぇ」
リーキャッチはこちらを向いたまま触手だけを裏の方に回し、黄緑色のスカーフを三枚、俺たちの前に置いた。
「こちらはぁ、ルーキーランクの印の緑のスカーフですぅ。ランクというのはポイントで決まっていてぇ、依頼をこなすごとに溜まっていきますぅ……」
「難易度によってもらえるポイントが違うんだよね」
「はいぃ、その通りですぅ……依頼以外にもぉ、なにか功績を打ち立てればポイントが入ることがぁ、ありますよぉ。ふひっ……」
ふむ……大体ゲームと同じシステムだな。
確かランクは下から、ルーキーランク、ブロンズランク、シルバーランク、ゴールドランク、プラチナランク、ダイヤモンドランク。
伝説のシークレットランクという隠し要素もあったはずだ。
まぁ、今の俺たちには縁遠い話だな。
「なにかぁ、ご質問はありますかぁ?」
「……依頼中で負った怪我や、依頼を失敗した場合のことについて教えて欲しい」
「分かりましたぁ。依頼中で負った怪我に関してはぁ、当ギルドは一切ぃ、責任を負いかねますぅ。ですがぁ、モンスターは基本的に生命力が強いのでぇ、体の欠損などがなければ木の実や薬で治りますしぃ。問題ないかと思われますよぉ……ふひっ」
「……そういえば、そうだったな」
まさかこのリアル感で、そんなゲーム内での常識が適用されるとは。
ゲームではHPが残り一になっても、身体の欠損とかそんなグロいことにはなってなかったが、実際にそういう場面に直面する可能性もあると……ただ、逆に言えば欠損さえなければ木の実や回復薬で治ると。
なんとも便利な身体である……が、生命力が強いということは逆に死にたくても死ねないパターンも…………
……考えたくもない。
「次にぃ、依頼の失敗についてですねぇ。依頼内容や難易度に関してはぁ、ワタシが探検隊の実力や特徴に応じて適した依頼を提示することが可能ですのでぇ、そちらを利用すれば失敗することはほとんどないかと思われますぅ」
「へぇ! そんなことができるんだ」
「はいぃ。ただ、ワタシが依頼を選び、皆さんが失敗した場合にも……我々ギルドが責任を負うことはございませんん……ご容赦くださいぃ」
「それはつまり……探検隊側が全ての責任を負うってことか?」
「はいぃ。その認識で問題ありませんよぉ」
「分かった。リーキャッチ、ありがとう」
「いえぇ。あぁ、名乗り遅れてしまいましたがぁ、ワタシはリーキャッチのぉ、イヴキですぅ……以後ぉ、お見知り置きをぉ。ふひっ!」
「あぁ、俺はにん……イッカクウサギのウサミだ。よろしくな」
俺は前足を前に差し出し、イヴキの触手と握手する。
ぬるぬるべとべとしているかと思ったが全くそんなことはなく、ツルツルのグミを触っているような感覚だ。
「おお、なんかウサミ先輩がリーダーみたいになってるっす」
「な、なんだとー!? ……でも、確かにウサミにならリーダー任せられるね」
「勘弁してくれ、俺はそういう器じゃない」
なんでそんなあっさりと納得しそうになるんだ、全く。
俺はリーダーなんて御免だ……。
ガルタがリーダーをやるべきだ……俺は前足でグイグイとガルタの背中を押す。
「ではぁ、お二匹でリーダーをやるのはどうでしょうかぁ?」
「え? そんなことできるの?」
「はいぃ。別に規約違反ではありませんよぉ」
「じゃあそれがいいっすよ! そうしましょうっす!」
「ちょ、なんでそうなるんだ。サクラだけ仲間はずれみたいじゃないか」
「いやいや、これからきっと仲間が増えていくっすよ? そうなると初期メンバーのウサミ先輩とガルタ師匠がリーダーになるのは自然な流れっす」
「よく分かんないけどそうだよウサミ!」
「よく分からないのに同意するんじゃない」
……リーダーなんて柄じゃないし、やりたくない……責任を負いたくない、命の責任なんてなおさらだ。
依頼を失敗した時、怪我した時、なにかを破損した時……そして、死者が出た時。
考えたくもないが、リーダーだからといってガルタ一匹が責められる場面も想像つく。
それを分かっていながら、俺はこのままで、逃げていていいのだろうか。
そうやって逃げてきたから、俺は今自分のことが好きになれないんじゃないだろうか。
…………。
「……分かった、二匹でリーダーやろう」
覚悟なんて、到底できていない。
逃げないって決意もできていない。
けど……友達だったら、きっとこうする。
「ほんと!? ありがとうウサミー!」
「おっ……」
リーダーをやるという俺の一言を聞いてガルタの目はいつものようにキラキラと輝き、俺に向かって飛びかかってきた。
倒れるかと思ったが、俺は四足地について安定しているので倒れることはなかった。
前までの二足の身体じゃ倒れていただろう。
「これからがんばろうね!」
「あぁ、やるからには全力だ。サクラも、がんばろうな」
「はいっす! お二匹に負けないくらいがんばるっすよ!」
抱きつかれている俺とガルタの間にサクラも乱入してきて、身体がもみくちゃにされる。
ガルタのチクチクした硬い毛がざらざらして痛いし……サクラの伸びる身体が全身に触れて暑い…………
でも……ぽかぽかして、気持ちいい気がする。
今更、こんな気持ちになれるなんてな…………
こんな思い、俺なんかがしてもいいんだろうか。
今の自分は、どれだけ恵まれているんだろう。
俺は二匹を交互に見て無意識に頬が緩む。
「ではぁ、ウサミさんとぉ、ガルタさんがリーダぁ、ということでよろしいですかぁ?」
「うん! ウサミ、いいよね?」
「……あぁ、それで頼む」
「分かりましたぁ。それではぁ、チーム名はどうされますかぁ?」
「「「チーム名……」」」
俺たち三人は顔を見合わせ、沈黙が流れた。