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第11話 探検隊ぃ、ギルドぉ……

「……落ち着いた、もう大丈夫」

「分かった」


ガルタはゆっくりと俺の身体から腕を離し、最後に頭を撫でる。

俺の頭はそれを追うように少し前に出ようとするが、ハッとしてすぐに戻した。


「ギルド、行こっか」

「うん……ごめん、こんなとこ見せて……」

「謝る必要なんてないじゃん、ほら、早く行こ!」

「ちょっ、おい」


ガルタは俺の隣に並び、横から強引に俺と肩を組んで前進する。

よろけるような形で反射的に足が前に出た。


「転ぶ、転ぶから! おい! ガルタ!」

「大丈夫大丈夫、この辺の地面柔らかいし!」

「そういう問題じゃねぇよ! サクラ助けて!」

「仲良しっすねぇ」

「子どもを見守るおばあちゃんみたいなこと言うな、待って、ほんとにころ、うわっ!?」

「おぉっ!?」


すぐに足がもつれ、ガルタを巻き添えにすっ転んでしまう。


こっちは運動不足なんだぞ、全く……


身体が滑り、土煙が舞って少し咽せる。

サクラはそれを見て弾みながら地べたに伏せる俺たちの方に寄ってくる。


「もう、なにやってんすか。手貸すっすよ」

「いてて……手を貸してくれるならその前に止めてくれても良くないか……?」


俺は文句を言いながらビヨンと伸びてきたサクラの手(?)を掴む。

打ち粉でもされているのか、餅なのにベタつかないしむしろサラサラしている。


「いやっすよ。仲良しなお二匹を邪魔なんてできないっす」

「サクラ、分かってるぅ」

「別に仲良しじゃ……うん?」


サクラの手を引っ張って立ち上がると、今いる場所が暗くなっていることに気づいた。


影だ。


影が伸びてきている方へ視線を向けると、木造の大きな洋風の建物が見えた。

見上げられるほど大きな扉には取っ手の金色の丸いリングがついていて、緑の波線の模様がペイントされている。

丸い形の屋根は開きかけの蓋みたいになっていて、そこから鳥のモンスターが出入りしている様子が見られる。


ここが……


「お、いつの間にか着いてた! 探検隊ギルド!」

「おぉ、これが……! 遂に憧れのギルドに……!」

「おぉ……」


ゲームではドット絵だったものを、今こうして現実で見ることができるとは……なんだかテーマパークに来たような気分だ。


「それじゃあ、行こう!」


「「「せぇ、のっ……!」」」


三匹で扉に身体を押し付け、押す。

ギギィィと、重厚な音とともにゆっくりと前に進む。


「おぉ……」


扉を抜けてギルドに入ると、昔ゲームで見た懐かしの光景が目の前に広がっていた。

渦を巻いた紫の謎の観葉植物、無駄にでかい弧を描いた木造のカウンター、ドラゴンのモンスターの銅像、天井にぶら下がり、蝋燭が立てられた大きなシャンデリア。

なにからなにまで、ゲーム内と変わらず……それでいて、全く違うものを見ているような感覚。

きっと、今の俺の目はキラキラと輝いているに違いない。


呆気に取られて感動していると、突然カウンターの裏手からねちゃねちゃと何かが這っている音が聞こえてきた。


な、なんだ……?


その音は徐々に近づいてきて……


「ようこそぉ……探検隊ぃ、ギルドへぇ………ふひっ」


……これは、なんの冗談だろうか。


全身真っ青なタコ型のモンスターが触手をうねうねとしならせながら受付のカウンターから出てきた。

タコ型と言っても、その大きさは三メートルほどであり、顔から伸びる触手は地面を不規則に捉えている。

実際のウサギよりはかなり大きいとはいえ、今の俺からするとデカすぎる。

顔のパーツが三つの点だけで構成されており、身体の大きさに比べれば豆のようなものだ。

逆三角形に点が配置されているだけなのに顔に見えて、シミュラクラ現象ってこういうことかぁと謎に感心してしまう。

ふひっという息の音がすると下の点が伸び、くにゃりと曲って笑顔になる。

それにしてもすごい、同人誌に出てくるようなヌルヌルとした触手だ。

これは、一度体感……


「ってやるわけねぇだろ何考えてんだ俺は」


反射的に一人ノリツッコミを口に出しているうちに、いつの間にかタコ型のモンスター……確か、リーキャッチだったか?

リーキャッチが目の前まで来ていた。

俺とリーキャッチは互いにまじまじと見つめ合う。


うーん、ギルド受付のモンスターってこいつだったっけなぁ。

幼少期の記憶だからか曖昧だ。


「おやぁ……ふむふむぅ……あなた方はぁ、探検隊ギルドにぃ、登録しにきたのですねぇ?」

「あぁ……ほら、ガルタ。一応お前がリーダーになるんだろうし相手はガルタが…………ん?」


そういえば、二人が妙に静かだな……ガルタは大はしゃぎで飛び回ってでもいるかと思ったが…………


変だなと思って俺は振り向いて二人の状態を確認する。


……サクラとガルタが白目を剥いて直立状態でフリーズしている。

これは……気絶している……?

おいおい……一人モンスターを見ただけで気絶とか勘弁してくれよ……。


「……こんなんで探検隊できるのか?」

「どうされますかぁ……?」

「あー……起こすんで受付で待っていてもらえると助かる」

「かしこまり、ましたぁ。では、お待ちしていますねぇ」


そう言い残して、リーキャッチは受付のカウンターへと戻った。


なんだか不気味な視線が向けられているような気がするが、気にしないでおこう。


「はぁ……ほら、起きろ二匹とも。怖いのは分かるが、こんくらいで気絶するな」

「「う、うーん……」」」」


俺は二匹の身体を揺らす。


「……おはよう」

「あ、あれ? なんで僕寝てたの?」

「どちらかというと気絶じゃないか? ほら、怖くても登録しなきゃいけないんだからさっさと受付いくぞ」


二人はパチパチと瞬きしながら顔を見合わせ、首を傾げる。


「確かに見た目には驚いたっすけど、そんな怖いっすかね……」

「怖くないならなんで気絶なんてするんだ。これくらいで気絶してたら探検隊なんてできないんじゃないか?」

「むぅ! 言ったねウサミ! ここから挽回しようねサクラ!」

「はいっす! 先輩の胆力を見習うっす!」


ガルタとサクラが受付に向かい、俺もそれに着いていく。

リーキャッチは触手をうねうねさせながら、相変わらずなんとも不気味な顔で俺たちをジーッと見つめている。

二匹はその視線を正面からまっすぐ受け止め……


「登録!」

「お願いしまっす!」

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