蝉時雨
子供の頃家の周りではニイニイゼミが主流だった
小型の蝉で名前の通りニイニイ甲高い声で鳴いていた
例にもれず蝉捕りをしていたが収穫はほぼこのニイニイゼミだった
子供の頃に勝手につけるランキングの蝉編ではニイニイゼミには失礼ながら最下位だった
それぐらいそこいらじゅうに居た
ランキング下から2位はミンミンゼミだった
これまた小型の蝉でミ~ンミ~ンと甲高い声で鳴く
ただ、蝉と言えばこの蝉を思い出す
テレビで蝉時雨が流れる場面はいつもカンカン照りの暑い時で、その時の蝉の効果音がこのミンミンゼミが多かったと思っている
そして何故かこの声を聞くと紅葉の下で素麺が食べたくなるのもCMの影響だと思う
ここまでは小型と思っている蝉
ここからがランキングも上がって勝手に値打ちを感じる蝉たちの登場だ
アブラゼミはこれを捕まえると「おお!アブラゼミだ!」と言ってしまう
ジージーと品良く鳴く
何故品良くと書いたかは後ほど解る
この蝉は近所で捕れる大型の蝉のスタンダードだった
ニイニイゼミやミンミンゼミに混じってある程度の個体数はいた
そして当時蝉のチャンピオンで最高格付けされていたのがクマゼミだ
これは都会ではなかなかいない蝉でこれを捕まえられるのは数年に一回ぐらいだったかも知れない
これを捕まえると「おおおおおお!クマゼミ捕ったぞ!」と叫ぶぐらい値打ちがあった
なんせデカイ!超重量級!
まあ、何でもクマとつくものは大きいものだ
この蝉は体も大きいが鳴き声も大きい
そしてアブラゼミと違い鳴き声に品が無い
最近はなんと家の周りではこのクマゼミしか見かけない
どうやら生態系が大幅に変わったようだ
開いた窓の網戸に止まって鳴かれるとそれはそれはもう騒音でしかない
子供の頃に捕まえたぞ!と叫んでいたのに今はうるさい!と叫んでしまう
前にバーベキューが許可されている近所の公園でバーベキューをしていた時に、横に立っている木の下から上までとんでもない数のクマゼミが止まっているのを見て驚愕したことがある
あれはホラー級だった
盆の頃に墓参りに行く
うちの墓地は山の中の霊園にある
するとこの辺りにいる蝉はアブラゼミが標準になる
さらにあのツクツクボウシの鳴き声も聞くことができる
ツクツクボウシツクツクボウシと慌ただしく複雑に鳴いて、何かあるとトッポジージョトッポジージョと聴こえる鳴き方に変わる
家の近所にはけしていない蝉の一つだ
そして深い山奥で聴けるのがヒグラシだ
これはもう蝉と言うジャンルをこえた鳴き方だと思っている
郷愁を誘う鳴き声に夏はいっさい感じない
ヒグラシの声が聴くことができた時なんか妙に得した気分になるのは何故だろう
地中で7~8年生きて、地上に出て羽化してから1週間の命と言われている蝉
こう考えると彼らにとって本当のアイデンティティはどちらにあるんだろうと思ってしまう
だって地上に比べて地中が長すぎるんだものね
蝉が鳴き出すと梅雨明けだと感じる
今でもその感覚は通用していることに安堵する
蝉は桜の花と同じように必死に耐えて一斉にパッと花開き短い期間で散ってしまう
やはり蝉は羽化してからが輝いているんだろう