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チープな散歩

たすたすたす。



私達は荒廃した街中を進む。夜の暗闇に立ち並ぶビルの壁は煤け、車道には渋滞に巻き込まれたまま放置された車両が埋め尽くされている。そのどれもが錆び付き、朽ちて、もう動きそうなものはない。かつては多くの人が往来する電気街だったのだが、荒れ果てた様子を見ると長い間街として機能していないようだった。



じゃりじゃりじゃり。



小型端末を眺めながら私の左を歩く人型を、周囲の警戒を怠らずに見てみる。


人間で言うところの13歳くらいの背丈に、淡い紫色の髪はセミロング、肌は死んでいるように白い。眠そうな癖に目付きは鋭く、中の水色の瞳がかわいらしくもあり少しこわくもある。両手が出ない位にだぼっとした桃色のパーカーの胸には緑のビビッドカラーでグラフィティ風に「代打」と書かれており、何の代打かわからない。長いパーカーがワンピースの役割を果たしているので、下は履いていない。穿いていない。靴は白いスニーカーを履いていて、これまで色々な所へ行ったのにその白さは変わることを知らない。のんちゃんはずっとこの格好をしていて、違う服装をしているのを見たことがない。ちなみにゾンビ。ゾンビといっても臭くはない。体温が冷たいことと力が強すぎることを除けば、普通の女の子。



「結構歩いたよね」



私は自動小銃を抱え直してから、ひょぃっと端末を覗いて言った。画面には今日遠足することになった目的の場所までの道筋が示されている。青色の丸が現在私達がいる地点、赤い丸が目的の場所。2つの丸は最短ルートで結ばれていて、道を外れたとしてもすぐに修正したルートを表示してくれるので迷うことはない。



「ん、歩いた。でもあとちょっとで着く」



人型、のんちゃんは端末から目を離さずに答えた。左手にはピンク色のバッドを握り、地面に引きずっている。



「てかさ、なんでりおんはアンドロイドなのにマップは私が見ないといけないん?機械ならマップくらいすいすいダウンロードして、道案内なんて簡単にできんじゃない?」



根も葉もないことを言われた。今のはアンドロイドとロボットと機械を混同している発言だ。



のんちゃんに言われた通り、私りおんはアンドロイド。頭の右側にやや大きめな真空管がぶっ刺さってるけど、特に計算が出来るとか、頭がいいとかはない。機械なのに思考力は普通に人並み。性別的には女の子。


のんちゃんとあまり変わらない身長で、黒髪を纏めてツインテール、肌は死人のように白い。切れ長で目つきの悪い目にはピンク色の瞳が収まり、見た人に与える印象は悪いが、私としてはこれはこれでかわいいと思っている。どくろが前面に大きく描かれた長袖の黒Tシャツと紺色のミニスカートに、左足は白黒のボーダーハイソックス、左足は黒いハイソックスを合わせている。靴は8ホールの革靴。私は気がついたらずっとこの服装のまま過ごしていて、最後に他の服に着替えたのは8年前。


私はアンドロイドだから不潔じゃない。服を汚した時だって、ランドリーで私ごと洗ってるし。



まあそれはいい。



「骨格とか関節とか、身体の中身は好きなだけ改造できるけど、私の脳は旧式だから、そういうのは全然できないっていうね。ネットにも接続できない。あはは」



「りおん、今年いくつだよ」



あ。



「いくつでしょー?」



そっぽを向いて目を泳がせる。しまった。しまった。のんちゃんには私の製造年数を秘密にしていたのに、まさかこんなところで。



「ふーん?」



のんちゃんが悪戯っぽく笑って、歩きながらもたれかかってきた。やばい。どうにか話を逸らさなければ。



「そそそそんなことより、もうとっくに危険な場所だよ。いつなんか出てきてもおかしくないし。どうでもいいこと話してて襲われたら大変だよー?」


「大変なことにはならねえだろ。私達は不死身。不死身なやつが2人、完全武装してんだから、どんなことが起きても弾き返せる」


「それはそーだけどねー」



実際どんなことが起きるかはわからないよー?とは言わない。今の言葉は私を信頼してくれてるって意味だから、無駄なことは言わない。ふふん。



「で、今どんな感じ?」



私の気分がよくなったところでまたひょぃっと画面を覗いてみた。途中人間の死体が何体かあったけど、何事もなくすんなり歩いてこれたので、赤丸は30mくらい先のT字路を左に曲がって、40m行ったところの右側にあるみたい。画面から目を離すと、私達は、なんて呼ぶのかわからないけど、上を電車が走る大きめな橋の下にいて、橋を抜けた先には背の低いビルに囲まれたT字路が見えた。



「ここを左ー」


「わかっとる」



目的地が近くなったので、持っていた自動小銃を肩に担いでるんるんで歩いていく。



「さっきはあんなこと言ったけど、油断はするなよ」


「油断はしてないよー。ただわくわくしてるだけ」


「それを油断と言うんだろ」



T字路を曲がり、40mくらい進むと、赤丸地点が目の前になった。



「ついたーいぇーい」



はしゃぐ私と退屈そうにしているのんちゃんは、ビルの根元に開けられた地下へと続く階段の横に、「ハラキリゲームセンター」と書かれた小さめなネオンの看板の前に立っていた。

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