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東光学園の引退試合・一年目 海聖高校編 第四話

七回の表になり、先ほど代打だった鯰尾がマウンドに立ち、投球練習では球速こそ大したことはなかったが、ここで七番の志村から代打が送られた。


代打には大きな一発が望まれる中村鋼兵が送られ、中田よりも鈍足で守備が甘いのだが打撃に至っては勝負強さがウリの太った選手だ。


食べる事は体への投資であるがモットーで、中田が覚醒し始める前まではレギュラーだったので充分いい選手だ。


鯰尾は面白くなってきましたね……と笑顔を見せ、不気味がった中村をすぐにツーストライクに追い込んだ。


「こいつ……見た目以上にコントロールがよすぎるな。こうなったら一発を狙うよりも堅実に攻めるか」


「こいつは見た感じ足が遅くて塁に出られたら代走を出すだろう。なら打たれないようにしなければならないな。となればツーストライクと余裕だし少しだけアウトコースに外すぞ」


「賢明ですね。私もそう思ったところです。これで引っかかってくれればラッキーですがね!」


「変化球……?しまった!ストレートだ!くっ!」


「マズい……詰まったのはいいがセカンドとライトの間だ!どっちか積極的に捕りに行ってくれ!」


「これは間に合わない……!」


「ごめんなさい……!」


ポテン!


中村の詰まった打球はセカンドとライトの間に上手く落ち、運よくポテンヒットで出塁した。


中村は安心したのか大きなため息を吐き、代走で島田に交代した。


島田はまだ手首のケガから直っていなかったが、走塁だけなら出来ると本人からも申し出で自ら代走要因となったのだ。


鯰尾は冷静さを保ってマウンドに戻り、次の夜月と勝負する。


「夜月はまだ不安定な一年坊主だ。現に今日はノーヒットで抑え切っている。増谷が頑張った分、先輩のお前も頑張らないといけないな」


「インコース攻めですか。彼はインコースが弱点でしたね。その戦法で三振に抑え切りましょう!」


「うっ……!」


「ストライク!」


「ナイスボール!」


「今のスライダーは変化球か?それとも天然スライダーか?どっちにしろ嫌なピッチャーだな」


「今ので左バッターにとってのインコース攻めが頭によぎってるだろう。このままインコース攻めしつつ、最後はアウトコースで見逃してもらおう」


「夜月くんは中学時代はあまり試合に出ていない、いわば試合の勘が鈍ってるはずです。実戦慣れしている私たちを打ち崩す事は……出来ませんよね!」


「クソッ……!」


「ストライク・ツー!」


「このまま俺だけ貢献できないまま終わるのか……?嫌だ……先輩たちが引退する今、俺が打たなきゃ不安で引退できねえ……!ふぅ~……さあ来い!」


「ホームベースから離れた……?アウトコースで見逃しをさせる作戦としてはありがたいが、遠慮なく三振奪わせてもらうぞ」


「ふふふ……君との勝負、もっとしたかったですが終わりにしましょうね!」


「アウトコースか……そう来ると思ってたんだよ!」


「何だと……!?」


カキーン!


夜月のフルスイングは左中間を大きく抜け、代走の島田は一気に三塁を蹴ってホームへ走る。


夜月は二塁でストップしてツーベースヒット。


島田はホームに無事に帰って3対2となる。


鯰尾はコントロールがウリだが、球速は小野よりも遅いのでどうしても速球慣れしている東光学園にとっては打ちやすいものだ。


最初こそ球速の落差に苦戦をするが、鯰尾の投球に慣れてくると遅い球に対応できるようになり、いわば鯰尾は短期決戦型の打たせて取るピッチングなのだ。


海王は慌てて三振を取ろうとした結果、鯰尾のスタイルとしては相性が悪いやり方だったので打ち崩すのは簡単だった。


海聖の監督はそれに気付いて慌ててピッチャーを交代し、センターの鈴木がマウンドに立ち、センターに鮎川が守備に着いた。


鈴木は器用貧乏ではあるが、外野手なだけあって球速もそれなりにあったので、後続の大島とホセ、我那覇が簡単に打ちとられてしまった。


七回のウラで海聖の攻撃では、一番の砂野が出塁し、二番の鈴木が送りバントを決めるも、宇坪のタイミングで東光学園はピッチャーを交代する。


「ここで松井政樹か……」


「あいつ球速は遅いのに何故か打てないんだよな……」


「あれ?何か頼りなさそうな子がマウンドに立ったぞ?」


「私はあーゆー頼りない男はあんまり好きじゃないんだよな……」


「弥は自分より強い男が好きだもんな」


「あ、だからって兄貴のことがタイプってわけじゃねーから」


「なん……だと……!?」


「もうー、相変わらず容赦ないなー」


海聖高校のアルプススタンドのボケはさておき、松井のピッチングは完璧ともいえるもので、簡単に三者連続凡退にしてみせた。


八回の表で鈴木は引き続きマウンドに立ち、渡辺とロビンに連続安打を許す。


しかし中田と天童が三振、島田から交代した新田がデッドっボールで出塁し、夜月の打席が回ってきた。


しかし夜月の打席で新田がうっかり海王の牽制に引っかかってしまい……


「アウト!」


「おいー!」


「新田ー!そういうボケはいらんぞー!」


「違う違う!あのキャッチャー牽制が上手かったんだって!」


「正直あの牽制は俺でも引っかかるな……」


「ホセでさえ引っかかるなんてどんだけ上手いんだよ!」


「やった!ナイス牽制!」


「左打ちだから投げづらかったぜ……ん?あいつら何でベンチにいるんだ……?」


「集合!次の回の守備で鈴木、海王、お前らは交代だ。ピッチャーに鷹宮、キャッチャーに大庭に交代する」


「鷹宮、お前野球できるのか……?」


「さあな、面白そうだから出てみただけだ。それに……次の回にあいつと勝負してみたかったしな」


「そうか……とりあえず素人なんだから怪我すんなよ?」


「おう」


「炬の投球は体育で受けた事はあるけど、試合で受けるのは初めてだなあ」


「大庭、負けたらお前らのせいなんて言わねえ。だが本当に怪我だけはすんじゃねえぞ」


「そこは大丈夫だよ。俺がきっちりコントロールするからね」


九回の表からは炬と大庭がバッテリーを組むことになっているが、急な申し出なのに部員たちは何故か誰も反対しなかった。


それもそのはず、この二人は学校内でとんでもないほどの権力を持っており、教師や校長でさえも頭を下げるほどの学園の権力者なのだ。


もし逆らおうものなら……とそこまで恐怖政治ではないが、数々の強豪な部活の助っ人で活躍したのもあってか、あまりにも信頼されてしまっているのだ。


八回のウラの攻撃では入鹿と潮田、海老名がまさかの初球から手を出して凡退し、松井の変則ストレートに苦戦を強いられていた。


九回の表になり、ついに炬がマウンドに立つ。


「あの、君たち……高野連の登録はしていないはずだが……?」


「ああ、確かに俺たち二人は高野連に登録してないし、実際に野球部に入っているわけじゃねえ。でも……こんな楽しい試合を混ざりたいって思うのが普通なんじゃないのか?」


「だからって君たち素人に怪我でもされたら……」


「すみません審判さん、彼らをあまり舐めない方がいいですよ?それに……俺はあの二人とは知り合いですから、俺がなんとか言ってみます」


「はあ……しかし……」


「まあまあいいんじゃないの?夜月もそう言ってるし、それに投球練習を見る限りでは鷹宮くんと大庭くんだっけ?あれは超高校級の実力を持ってる気がするな。せっかくのスポーツ祭りなんだ、せっかくだし試合終了後には体験会も兼ねてやらせてあげましょう」


「まあ……主催の石黒監督がそうおっしゃるならそうしましょう……。プレイ!」


「久しぶりだね、夜月」


「大庭先輩……お久しぶりです」


「野球部にはもう慣れた?」


「おかげで恵まれた環境で野球をやってますよ。みんないい人ばっかりですし」


パシッ!


「ストライク!」


「炬も東光学園にお前がいると聞いて、その東光学園がうちと試合をするって聞いたときさ、夜月とまた会えるし一度勝負してみたかったって言ってたんだ」


「そうだったんですね。だから急遽海聖高校が引退試合を申請したんですね」


「それに俺たち二人は高校三年生だ。来年からは卒業してしまう。最後の思い出作りに付き合ってくれないか?」


パシッ!


「ボール!」


「フルカウントか……」


「あいつ確か知り合いって言ってたな?何の知り合いなんだろう?」


「じゃあとことん付き合いますよ。その代わり……勝つのは俺たちです」


「面白くなってきたね……。炬、あえてこいつの得意なコースに放ってやろう」


「ど真ん中のストレートか。いいぜ、やってやるぜ。それっ!」


「ど真ん中……!?でも球威が凄いぞ!」


「力むな……これは大会なんかじゃない……!自分らしいコンパクトなスイングを心がければ……いける!」


カキーン!


炬の放ったボールは夜月のバットの芯に上手く当たり、そのままスタンドインしてホームランとなった。


夜月は拳を高く上げて雄叫びを上げ、炬は夜月の姿を見て東光学園は将来強いチームになると確信した。


その後はピッチャーの松井から山岡に代打で交代してツーベース、代走で中島に交代してホセがセーフティバントし、我那覇がスクイズを決めて4対2に。


渡辺のタイムリーヒット、ロビンのスリーランホームラン、中田のソロホームラン、天童も連続安打で出塁して一気に10対2となった。


バッターが一周したところで炬のエンジンがかかり、夜月を三振、中島をゲッツーで抑え切る。


ピッチャーは抑えの斉藤敦に交代し、トルネード投法から放られる球威のある速い球に海聖はぞっとした。


しかし引退してから投げてなかったのか、コントロールが定まらなかった。


九番の代打の内海鯨にツーベースを許すと、一番の砂野にフォアボールを許してしまう。


さらに二番の大庭には……


「それっと!」


「あーっ!」


「おいおい斉藤!投げなかったから鈍ったか!?」


「くそー!俺のボールは打たれないはずなのにー!」


内海からの代走の江曽龍太郎にホームインを許すも、大庭は落ち着いて二塁でストップしたが、渡辺の送球が思ったよりも伸びて三塁に進んだ砂野はアウトになる。


しかし斉藤は打たれたことで目が覚めたのか、次の宇坪には三振で抑え切った。


そしてあと一人のところで四番バッターは……


つづく!

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