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遺言  作者: 縷々
8/8

最後に

故郷の景色が見えた時、心が少し重くなった。

あんなに必死に説得して頑張ると言っていたのにたった三か月で帰郷とは笑えない。

家に帰れば母は喜んでいた。私が帰ってきたのが嬉しかったようだ。父も怒る事なく歓迎してくれた。

複雑な気持ちだった。色々と。

たった三か月、けれどそれは大きな変化をもたらしていた。

私と彼が初めて食事をしたお店は閉店して別の店舗になっていた。

他にも見たことないお店がたくさんあった。それを彼に言いたくなった。

けどもう言えないことが嫌な現実を突きつけられているようで辛かった。

何よりも一番大きかったのは景色の色あせ具合だ。

彼といた日々はよくある恋愛小説や漫画の様に本当に世界が輝いて見えた。

いつも一人で通っていた道も、家族と遊びに行った場所なんかも彼がいるだけできらきらしていた。通い慣れた場所だってまるで初めて来たかのようなドキドキがあった。

それなのに今はどうだろう。まるで灰色の世界を見ているようだった。一年前、彼と出会うまで見ていた景色なはずだ。でも思い出せない。一年は短いようで長かった。一年前の私を全く思い出せないのだ。

あの時私は彼がいなくても生きていた。死にたいと思いながら、願いながらもなんとか時の流れに身を任せてどうにか生きながらえていた。辛い、悲しい、そんな感情にだって慣れてもうちょっとの事では何とも思わなくなっていた。

一人なんて痛くもかゆくもなかった。

それなのに今はどうだろう?

隣に彼がいない、話す相手がいない、心が躍らない、景色は死んでいる。

どうやって私は生きていたのか全く分からなくなった。

そして私は笑い方さえも分からなくなっていた。写真に写る彼と私は幸せそうに笑っている。

それなのに今の私は頬が引きつるだけで全く笑えない。

私はまたあの時手に入れた自信を無くした。

それどこか前以上に自分がどうしようもないブスに見え始めた。目は死んでいて笑顔がない。

当然だ。こんなにも酷い顔があってたまる物か。

せっかく手に入れたものを私は全部失った。本当に一つ残らず。

どうすればいいのか、どうすればよかったのか今もずっと考えている。

けれど答えは無いしわからない。確認しようもない。

来ない未来を考えても意味はないとわかっているけれどやはり考えてしまう。

考えるなと頭を打ち付けても思考は消えてはくれない。

いっそのこと彼との記憶を全部なくしてしまえればいいのにとすら思う。

彼と出会わなければ私は完璧なロボットになれていたはずだ。

感情を殺せた。希望も未来も見ていなかった。

あの頃の方がまだマシだった。やっぱり幸せなんていらなかった。

やっぱりあの時死んでいれば……

そう思う日々が続いた。彼を殺したい程憎む夜もあった。

眠れない日々が続いた。今もずっと苦しめられている。

彼は私にとって完璧すぎた。

存在が大きすぎた。

離れてから半年、彼の事も、もう一つの可能性も、死という存在も……考えない日はなかった。

無駄な事だと切り捨てても蛆のように湧いてくる。

私はもう疲れた。働くという事も、人間関係も、恋愛も全て。

人間は酷く残酷な生き物だ。もちろん私も含めて。そしてこの世界もまた残酷だ。

私はずっと囚われているというのに時は刻一刻と流れていく。いつまでも私は過去にとらわれている。

未来に進めないでいる。

どうしてくれる?どうしようもできない。

わかっているのにわからない。とても気持ち悪い事だ。

せめて自分の生死くらい簡単に選ばせてくれたらどんなに楽だろうか。

感情さえなければ、心さえなければ楽だろう。

記憶がなくなってしまえれば私はきっと生まれ変われるだろう。

そう思いながらもやはり彼の存在、彼との思い出を抱いていたい私もいる。

どうすればいいのだろう。本当に苦しい。

だから私は死ぬと決めた。だからこれを書いた。

けれどやはり死ぬのは怖い。死の先が無でも消滅でも構わない。

だけどどうしても死ぬ時の痛みが怖いのだ。私は本当に臆病者だ。死にたいのに死ぬ勇気がないなんて笑わせてくれる。

本当に大嫌いだ。

私なんて死ねばいい。

私だけは絶対にこの手で殺してやる。


いつかは。絶対。


少し思い出して心が乱れてしまった……

こんなに長々と書き綴るつもりはなかった。

けれど誰にもわかってもらえなかった心も言えなかったことも少しでも誰かに理解されたらそれはそれで嬉しい。

もしこれを私の家族、親族が見たら卒倒するかもしれないが……

けれどその時にはもう私はいないかもしれない。

勿論まだ生きているかもしれない。

どうなるかはわからない。

これを書いていて少し整理できたからかもしれない。

嫌なことはたくさんあった。いい事なんて本当に一握りだった。

可能なら生まれたくなかった。

さっさと死にたかった。

こんな事を考えてしまう私を許してほしい。

そしてこの弱さを誰かのせいにしてしまう弱さを許してほしい。

多くは望まない。

ただ感情も記憶も時間もない場所でゆっくりと眠れることを祈ってこれを終わりにしようと思う。

まだ書けていない事もあるけれどそれはもういい。

どうせ傍から見ればどれもどうでもいい他人事、些細で下らない出来事ばかりなのだから。



では、さようなら

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