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遺言  作者: 縷々
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絶望への入り口

高校に入学した。誰もいないそこで私は暴力女、口の悪さを封印した。

誰にでもニコニコ笑いかけて汚い言葉なんて何一つ吐かなかった。

「きもい」という言葉も「なんか怖いね」とオブラートに包んで言ったりもした。

そしてすぐに好意を抱かれた。全然タイプじゃない男だった。

別に最初は気にもならなかった。けれど明らかな目線と異常な程のメールのやり取りに自分に自信のない私でも「あ、この人私の事が好きなんだ……」とすぐに分かった。今まで恋愛なんてしてこなかった。

私を異性として、女性として見る人なんていなかった。

当然だ。口が悪い。態度も悪い。暴力的。短気。いいところなんて何一つないんだから。

この生活だってそうだ。全てを隠して猫を被っている状態。すなわち私は嘘つきなのだ。

その男が可哀想だと思った。こんな私なんかに騙されて好きになってしまうなんて時間の無駄だと思った。それと同時にうざったいとも思った。休み時間になれば送られてくるあからさまで情熱的な視線。私の記憶に残らないような些細なしぐさを急に褒めてくる行動。邪魔くさいと思った。学校では全然話さないくせに家に帰るとメールで朝から晩まで話をする。会話が途切れるとまたすぐ違う話を寄こしてくる。

そんな日々が一週間続いた。入学してから一週間だ。まさかこんなことになるとは思っていなかったがこれが一年、いや、一か月続くだけでも相当な苦痛だと思い私は早々に終わらせようと思った。

何よりそれは向こうの為になると自分を正当化していた。

そしてそれは思い描いた通りすぐに終わらせることが出来た。とても簡単だった。席が後ろだった、ただそれだけで話すようになった女子とクラスの男子が付き合い始めたというのを女の方から聞いた。それを利用させてもらったのだ。

「××くんが○○ちゃんに告白したんだって」

そう話題を振ると「俺も頑張らないと」と返事が来たのだ。こうも簡単にこの話に食いつき自分の事を持ち出してくるとは正直思わなかったがそのまま会話を続けた。

「どういう事?誰か好きな人がいるの?」と。

分かっていながら聞いた。

「神崎さん」

ただ一言、私の苗字を言ってきた。本当に性格が悪いと自分でも思う。この時私は人生最高に悪い顔で笑っていたと自覚している。これでやっと終わらせれると。

でもただ一つだけどうしても気になって聞きたいことが私にはあった。

「どうして?どこが好きなの?」

全身コンプレックスの私だ。当然私の何がいいのか全く分からなかった。

まず顔は可愛くも綺麗でもない。胸は大きくないし身長が高い分可愛げもないだろう。体形は細い部類に入るだろうがお腹は必要もない肉を無駄に蓄えているし家族にもやし、電信柱と言われるくらいだ。もはや腹以外はガリガリの域なのだろう。

そして中身も最悪で性格悪いことから始まり平気で嘘もつくしそもそも誰かと一緒に居ることは例え家族でもストレスだった。自分より下の人間は見下すし誰かを自分のいいように利用したりもする。私は最低最悪の人間なのだ。そんな女の何がいいのか。

そんなことを考えていた私の元に返ってきた答えに思わず拍子抜けしてしまった。

「優しいから。」

ただそれだけなのかそれ以外にもあるが言い表せなかったのかは知らないがそれで好きになれる理由が分からなかった。何より私は優しくないのだ。優しい人から一番程遠い所にいる人間だ。

改めて私はやめておけと思った。もし私が嫌いではないからと付き合ったとしてもいい事なんて何一つないだろう。そう思った。だから私は猫を被らずに本当の私の言葉で返した。

「私は優しくなんかない。猫かぶりしてるだけ。アンタが見てる私は全部偽物」だと。

それでも向こうは引かなかった。それでもいい。神崎さんが好きなんだと。

正直ものすごく戸惑った。訳が分からなかった。理解できなかった。

それから私は彼に向かって暴言を吐いた。そうしてやっと身を引いた。

それから三年間彼と話すことはなかったし目が合った時は睨みつけていた。

よくわからないけど、傷付けてしまっただろうけど、私と付き合うよりかは浅い傷で済んだのだろうと自分を言い聞かせた。

高校での大きな出来事は最初のこれだけ。あとは多少面倒事に巻き込まれたりもしたが特に何もなく終わった。姉もそうだが口を揃えて高校が一番楽しい、この時にできた友達が一番長い付き合いだと聞いていたけれど、楽しいどころか友達一人出来やしなかった。

まぁ私が拒否していただけかもしれないが……

そして高校最後の就職活動で私は社会の闇に飲まれることになる。

本当に地獄だった。

クラスの中で早々に就職活動を始めたが人の目を見て話す、大きな声を出す事が大の苦手な私は面接に躓き一向に内定が貰えなかった。姉は祖父のコネという事もあったが給料の良い会社に入社した。もちろん一発でだ。それに比べて私は三回ほど落ちた。そしてその頃には卒業間際だった。

母はとても焦っていた。私ももちろん焦った。最初の企業の時は担任に落ちたと言われた時母の悲しそうな怒鳴り声が過って思わず泣いてしまったものだ。流石に二社目になると母の対応がどういうものかわかったので泣きはしなかったが。四社目でやっと内定が貰えた。職場体験に行った時は緊張のあまり倒れそうで、それが顔に出てしまっていないか不安だったし面接時に会社の教訓のようなものを音読させられ、読めない漢字があって聞いてしまったが問題なかったようで安心した。

就職に関しての不安は最後の最後まで付きまとったが無事その不安も消え卒業できた。

新しい環境はいつだって苦手だった。

けれどたまに手を抜きながら、回避しながらなんとなくでやってきた。

これからもそうなると思っていた。

姉の様に、母の様に、父の様になんだかんだ会社の文句を言いながら決まった時間に起きて出社し仕事をこなし退社する。そして残り少ない一日の時間を自分の時間に使いリラックスとストレス発散する。

そんな日々が訪れると思っていた。けれどやはり社会はそんな優しいものではなかった。

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