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Ep.80 審判

 あのあとの展開への感想を一言で表すと、『軽薄男キャラを軽んじるなかれ』。これに尽きると思う。


 こんな裏カジノに身を浸してるだけあってマジシャンの方もかなりの手練れに見えたけれど、それを嘲笑うかのように全部の勝負で圧勝したるー君(ルドルフさん)は、なんならあくびさえ漏らしてるくらいの余裕っぷりだった。正直ガイア以外興味も無かったのですっかり忘れていたけれど、彼も乙女ゲームの攻略対象ヒーローの一人。そのスペックは伊達じゃないらしい。


 ただ……、勝利したことを盾にマジシャンに本部とやらへの案内を迫っていた姿だけ見ると、正直どっちが悪者かわからないなと思ってしまいました。言わないけど。


「……セレンちゃん、なんか失礼な事考えてるでしょ」


 バレてる!!


「イエ、ソンナコトナイデスヨ?」


 わざとらしく目を逸らしつつ片言で答えた私に呆れ混じりにクスッと笑って、るー君は目的地の入り口を思い切り蹴破った。

 けたたましい音がして開けた壁の先に現れたのは、魔術で巧妙に隠されていた高価な物の裏取引専用の特設カジノ。あのマジシャンから聞き出した通りだ。

 ディーラーも客も関係無く一斉に集まった視線に感じるのは、あからさまな敵意と殺気。それはそうだ。こんなの殴り込みと変わらないもんね。


(まぁだからって、ここまで来て怖じ気づくわけないですけど)


「不躾な入場をお許し下さい。責任者の方はいらっしゃるかしら?」


 るー君が用意してくれた扇を開いて口元を隠しながら、高圧的に声を張る。私が貴族のお嬢様(カモ)だと、ここのディーラーにわからせる為だ。数秒間を置いてから、一番身なりの良いディーラーがにこやかに立ち上がる。


「これはこれは、ずいぶんと可愛らしいお客様で。ここの景品に貴女にお似合いのドレスや装飾品アクセサリーはございませんよ?」


 暗に場違いだと示すディーラーの言葉に、周りからも下品な笑い声が上がる。それを振り払うように音を立てて扇を閉じ、ディーラーの鼻先に突きつけた。


「お気遣いは無用ですわ。わたくしはただ、これを修繕出来る魔法薬ポーションが欲しいのです」


 キャンベル公爵家から持ち出した例の資料の切れ端をチラッと見せると、明らかにディーラーの顔色が変わった。驚いたようなその顔が、獲物を値踏みするような下卑た笑みに変わる。


「珍しいものをお持ちですね。本来紹介状の無いお客様の参加はご遠慮しているのですが……今回は特別に許しましょう」


 ニタリと笑って差し出されたチップは、たったの三枚。それを、私ではなくるー君が恭しく受け取った。あたかもお嬢様に仕える騎士のように。敵さんへのミスリードは万全だ。彼等は恐らく。私が高位貴族の娘だと思い込んだだろう。 


「貴女方のお目当ての魔法薬を得る為には私に勝利するしかありません。挑戦料はチップ500枚ですが……そちらを元手に精々頑張ってくださいね」


 出来るわけがない、と。本心が見えかくれするディーラーが元の位置に帰っていく。それを見送り、るー君と目をあわせて肩を竦める。馬鹿にされたものだと。


 それから、るー君がもらったチップを500枚に増やすまで一時間もかからなかった。







「これは驚きました……。まさか貴女のような可憐な方がこれ程の手練れをお連れとは」


「御託は結構。こっちも時間が無いんでね、さっさと勝負を始めようか」


 ものの一時間で増やしたチップを台に置き、るー君がディーラーに勝負の内容を問う。単純な話、提示された内容はただの勝ち抜き戦だった。ルーレット、ポーカー、ブラックジャック、クラップスにバカラ。順番にディーラーと勝負して、こちらのチップがディーラーの手持ちを下回らなければOK。

 それで欲しい景品を賭けた、“ジャッジメント”に挑めると。


「……どう思う?」


「順調に進みすぎてあからさまに怪しいけど……ここまで来たら行くしかないでしょ」


 『絶対離れないでよ』と念押ししたるー君が、ディーラーとの勝負に挑む。そして、拍子抜けする位にあっさり、勝ち抜いた。


「お見事です。流石……と、言っておきましょうか」


(これだけ大敗しておいて、観客もディーラーも笑顔のまま……。やっぱり怪しい)


 何とも言えない雰囲気の中、ジャッジメントが始まる。


「こちらが、貴女方の目当ての物です」


 コトリとテーブルに置かれたのは、特殊な装飾がついたガラスの小瓶。素人目にも高価な品だとわかる。ただ。


「ーー……実際に中身が本物かどうかは見た目では分かりませんわね」


「はは、手厳しいですね。では……少々失礼して」


 私達の持つ資料のページから一枚破りとり、ディーラーが瓶の中身を一滴紙面に垂らす。パァッと一瞬輝いたそのページは、刷り立てのように甦った。瓶のままではぼんやりしていたそれから、今はしっかりと魔力を感じる、多分ガラスも魔力遮断の効果のある特殊な品なんだろう。これは本物の魔法薬ポーションだ。


「ご納得頂けたようで何よりです。では改めて、ジャッジメントを始めましょうか。ルールは至って簡単です。」


 取り出されたのは繊細な絵柄のタロットカードが2枚。太陽の絵と、月の絵だ。ただ材質は紙ではなく、布地で出来ている。


(これ、裏も表も全部刺繍だわ……どうやったらこんなに素晴らしいものが出来るのかしら)


 思わずまじまじとカードを見る私にフッと笑い、ディーラーがその二枚の絵柄をこちらによく見せるようカードを構える。


「こちらはかの魔術大陸フェアリーテイルから仕入れた特殊な糸の刺繍で作られた世界に一枚ずつしかないタロットで、同じものはこの世に二枚とありません。挑戦者には、シャッフルした後に伏せたこのカード二枚から、太陽の絵柄を当てていただきます」


 それから、と言葉を切って。ディーラーの指が真っ直ぐに私を指差した。


「この勝負だけは、主である貴女に挑戦して頂きましょう」


「ーっ!!」


 裏面は全く同じ柄の二枚のカードを見、その後るー君と顔を見合わせる。これまで物理的なイカサマ、魔術具によるトリック、観客からの仕込みから何から、あらゆる不正が蔓延るような場で勝負をさせてきておいて、決勝とも言える最後の最後がこんな、運任せなやり方だなんて怪しい。わざわざ私を指名してきた辺り、罠だとしか思えない。

 そう訝しむ私達に、ディーラーが挑発的な笑みで話を進める。


「どうします、怖じ気づきましたか?」


「……っ、いいえ」


 ここまで来ておめおめ逃げ帰るような弱虫じゃ、何も救えないモブのままだ。

 でも私だって、魔術絡みの不正なら無効化の力で阻止出来るし、技術的な不正の見抜き方はずっとるー君の勝負を見て少しは分かってきたんだから。


「その勝負、受けて立ちます!」


 この世界の主要人物である大切な人(ガイア)達を助けたいなら、虎穴にだって入ってやる!!


     ~Ep.80 審判ジャッジメント


 


  『己で選んだ道がきっと、再会に繋がると信じて』


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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