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Ep.62 『それは流石に反則だろう』

 ヒロインであるアイシラちゃんと和解してから数日後、私はガイアにある頼みごとをしていた。


「恋華祭りの夜に貴族会で開かれる夜会に出たい!?」


「う、うん!駄目……かな?」


「うっ……!」


 アイシラちゃんにそうしてみろって習った通りにちらっと真下から窺うように見上げると、ガイアが胸を押さえて顔を背けた。具合良くないのかな?


 そう、今街を賑わせている恋華祭りだけど、実は現実のバレンタインと同じである要人に所縁がある日でもありまして。貴族社会ではこの日に盛大なパーティーをするのが慣例なのです。ちなみに、乙女ゲームの期間中なら学校でも夜会があって、ここで甘々なスチル有りイベントが起きます。ガイアのスチル見たかったです。……ってそうじゃなくて!


「……今のセレンの立場は非常に不安定で、いつ悪意ある人間に絡まれるかもわからない。俺は反対だ」


 咳払いをして気を取り直したガイアがキリッとした表情で言う。言い分は尤もだ……けど、今回はちょっと私も退けない。何故ならば。


「でも、その夜会の席にはアイシラさんと第一皇子殿下も、……そして、ナターリエ様も出席なさるのでしょう? 」


「ーっ!」


 ぐっとガイアが押し黙る。やっぱり、彼も知ってたんだ……。そうだよね、アイシラちゃんがくれた情報通りなら、ナターリエ様はその夜会のエスコートをガイアに今依頼してる筈だから。


「それだけの要人が集まる夜会よ、警備は大半がそちらに回されて、王宮内と言えど私が居る辺りは手薄になるかも知れないわ。それなら、いっそ常に一目がある夜会会場の方が安心だと思うの」


「それは、確かにそうかも知れないが……」


「でしょう?それにね、ガイアに調べて欲しいこともあるから、出来ればエスコートして欲しいなと思って……」


「調べて欲しいこと?」


 アイシラちゃんから受けた依頼の件だ。指紋や目立った汚れが付かないようにご丁寧に漆でコーティングされた封書を取り出して見せると、ガイアの表情が一瞬で普通の青年から騎士のものに変わる。


「セレン、これはどこで入手した?」


「アイシラさんから預かったわ。彼女の元に届いたそうなの」


「……なるほど」


 険しい表情のガイアが慣れた手付きで革の手袋をはめてから封書を受け取る。一瞬キュンとしてしまったけど私は悪くないと思うの。だってなんか、男の人がシックな手袋をする瞬間て妙に絵になるんだもの……!


「この計画が事実なら、確かに見過ごすわけにはいかないな……だがそれなら尚更、お前を巻き込む訳には……!」


「これだけ大規模な犯罪だよ?阻止できたらかなりの功績になるでしょう?それこそ、『剥奪された爵位も返して貰える位に』」


「……っ!」


「もう、期限までも時間がない。私、ガイアに居なくなって欲しくないもん、ただ黙って見てるなんて出来ない!まして罪のない人々が傷つくようなこんな計画を知って、見てみぬふりなんてごめんだわ!」


「~~っ!……はぁ、そうだった。普段はふわふわしてるくせに、お前いざって時は尋常じゃなく芯が強いんだったな……」


 困った様子で短くなった黒髪をかきあげるガイアをじいっと見つめ続ける。一瞬、ガイアが聞き取れない位の声で何かを呟いた。


「ったく勘弁してくれよ、惚れ直しちまうだろ」


「えっ?」


「……何でもない。お前の言い分はわかった。この件に関してはすぐに調査を始める」


「ーっ!じゃあ!」


「だが、お前の夜会への参加はやっぱり駄目だ!」


「なんで!?」


「陰謀がある場なら余計に危険すぎる!何かあったらどうするんだ!?」


 『絶対に駄目だ』と腕を組んで顔を背けられてしまった。こうなったガイアは強情だ、困ったなぁ……!


「失礼、お邪魔するわよー」


「ーっ!誰だ!」


「えっ……アイシラちゃん!?」


 と、何とそこにノックも無しにまたアイシラちゃんが入ってきて、あろうことか私の腕にぎゅーっと抱きついた。一瞬でガイアの眉間にシワがよる。


(うわぁ、ガイア礼儀知らずとか嫌いなんだね、滅茶苦茶怒ってる……!)


「……何なんだお前……君は。セレンに対して、馴れ馴れしい」


「あら、一介の騎士様が恋人でもない女の友情に文句付ける気?女同士なんだからいいじゃない、ねーセレ!」


「はっ!?」


「えっ!?あ、うん、そう……だね?」


 何がなんだかわからないまま、勢いに飲まれて頷いてしまう。えっと、アイシラちゃん結局何しに来たの?


「……俺だって、そんな呼び方したことないのに…………!」


 あと、心なしかガイアの背後がメラメラ燃えているような気がするんですが!だ、大丈夫かな……!


「さっきから黙って聞いてりゃあんた、偉くみみっちい男ね。他ならぬ本人が行くっつってんだから行かせてあげればいいじゃない!」


「……君か、セレンに妙な案を吹き込んだのは。一体何と言って彼女を丸め込んだんだ。セレンを返せ」


「『返せ』って別にあんたのものじゃないでしょ?それに丸め込んだなんて失礼しちゃう。ただ困り事を相談した後で、『夜会なら彼もいつもとは違った正装になるから新鮮なんじゃない?』って話でちょっと盛り上がっただけだし。ね~、見てみたいよね、セレ?」


「……!う、うん!」


 そんな話実際にはした覚えないけど、ガイアの礼服、確かに見たい……!


「……っ!そ、そんな目で見ても駄目だ!当日は部屋で安全にしているべきだ!」


「あーぁ……残念ねぇセレ。セレだってこんな清楚なお堅い私服ばっかじゃなくて、たまには綺麗なドレスとか着てみたかったでしょうに。あんた着やせしてるだけでスタイル良いからきっと化けるわよー」


「きゃっ!あっ、アイシラちゃんたらどこ触ってるのーっ!?」


「……っ!」


 正面から一瞬唾を飲むような音がした気もしたけど、アイシラちゃんの手がお胸やらお尻やらを狙ってくるのでそれどころじゃない。きゃっきゃと絡み合う私達の前で、痺れを切らしたガイアがバンッと机を叩いた。


「~~っ!そんな誘惑に引っ掛かるものか!俺は絶対に認めないぞ!」


「そんなぁ……!」


「はぁ……ヘタレのくせに強情ねぇ。しゃーないわ。セレ、ちょっと耳かして」


「う、うん!」


 さっと私の顔を引き寄せたアイシラちゃんがヒソヒソ囁く。


「そっ、そんなの恥ずかしいよ……!」


「大丈夫よ、絶対上手く行くから!ほら、やってこい!!」


 ぎょっとした私の背中をバシッと叩いて、アイシラちゃんが親指をたてた。確かにこのままじゃ不利なままだし……ええい、こうなったら自棄だ!


「がっ、ガイア!」


「ーっ!?」


 ガイアのたくましい右腕に両腕でしがみついていつにないくらいぎゅーっと密着する。そのまま上を見上げると、あからさまにたじろぐ彼の顔がそこにあった。


「連れていってくれるなら、お礼に《《何でも言うこと聞く》》から……!ねっ、お願い!」


「は……?ーーー…………………………っ!?」


「が、ガイア!ガイアどうしたの!?しっかりしてーっ!!!」


 たっっっぷり間を置いてから石みたく硬直してしまった彼の身体を必死に揺さぶる私の後ろで、アイシラちゃんが良くやったと言わんばかりのピースサインをしていた……。


   ~Ep.62 『それは流石に反則だろう』~


  『翌朝、《《当日は絶対の絶対に俺の側を離れないように》》との念押し付きでガイアからドレスを送られたセレンだった』


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