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Ep.36 秘密の花は地下に咲く·後編

「おいっ、大丈夫か!?」




 額に激突した本の衝撃で芝生に再び転がった私にガイアが手を差し出す。彼の手に助け起こされつつ、私に激突した後すぐそばの地面に落っこちた謎の本を拾い上げた。


 私が額に喰らったダメージの強さ(=ぶつかられた額にしっかりコブが出来ちゃう固さ)からわかるように、辺りを揺蕩う他の本と違ってこの一冊はずいぶんと分厚く、重たい。


 黒地に金色の縁取りがされた表紙も仰々しく、あからさまに“特別”な本のようだった。




「ガイア、この本……開けてもいい?」




 手に持っても再び飛び出す素振りのない本を片手に確認すると、ガイアも構わないと頷いた。




 二人して息を呑んで、仰々しい表紙にそっと、指をかける。




「……あ、あれ?」




 しかし、開いた最初の1ページを見て拍子抜けした。唖然としたままパラパラと、最初から最後まで大量にあるページを流し見る。




 そして、思わず互いに顔を見合わせた。




「この分厚さで、最初から最後まで白紙って……そんなことあるかな?」




「……いや、普通はあり得ない、筈、だが……いやでも、お祖父様も割りとボケた一面がある方だったしなぁ」




 期待が外れてがっかりしたような、でも怖いものじゃなくてほっとしたような微妙な気持ちになる。真っ白なページとにらめっこして唸っている私にガイアが苦笑して、とりあえず一旦帰ろうと提案しかけたその時。




 ドォォンッと言う低い爆音と共に、急に地面が大きく揺れた。




「きゃぁぁぁぁっ!!?」




「セレン!大丈夫だ、落ち着け!!」




 強い力で抱き寄せられて、彼の腕の中で揺れが収まるのを待つ。妙に長く感じた数十秒の揺れの後、ガイアが厳しい表情のまま私の肩に手を置いた。




「今の揺れ、まさか地震……?」




「……わからない。だが、自然な揺れでは無かったように思うし、揺れの際に聞こえた音は地鳴りとは違っていた。まして、魔力結界の中にまで影響があるくらいだ。上で何かあったと考えた方がいいだろう。魔物に襲撃されたか、それとも財宝狙いの賊か……」




 『とにかく、一度様子を見てくる』と、そう一人で立ち上がろうとするガイア。その腕に、思わずしがみついた。




「待って!!一人で行くなんて危ないわ、私も……「駄目だ!!!」ーっ!」




 いつになく……、それこそ、敵視されていた最初の頃よりも鋭い声音で遮られて、ビクッと肩が跳ねる。


 一瞬怯んだけど、滲んだ視界を誤魔化すように目元を擦って歩き出そうとしている彼の手を掴んだ。




「……どうして駄目なの?戦えないし足手まといだから?」




「ーっ!いや、それは違……っ。いや、今は止めようぜ……こんな話。ワガママ言わないで少しここで待っててくれ」





 ふいと目をそらして逃げようとするその姿と言葉に、ここ最近ずっと我慢していた何かが弾けた。




「ワガママって何!?違うならどうして、いつも危険な時に限って貴方は私達を遠ざけようとするの!こんなに側に居るのに、どうして一番大切な部分で拒絶すっ「“いつも側に居てくれる”お前だからこそ、失いたくないんだよ!!」……っ!!」




 最後まで捲し立てる前に、強い力で引き寄せられて。あ、と思う間すら無く、彼の腕の中に閉じ込められた。驚いて固まる私の背中に腕を回して、ガイアがすがりつくように肩に顔を埋めてくる。『ごめん』と絞り出すように耳元で囁かれた吐息の熱さにぞくりと感じた何かを誤魔化すように、小さく首を横に振る。




「私こそ、勝手に熱くなっちゃって、困らせてごめんなさい……」




「いや、お前が謝ることは無いさ。全部俺が悪いんだ。最近の俺の態度じゃ、セレンが拒絶されたと感じたのも無理は無い」




 そこで力無く項垂れたまま一旦言葉を切ったかと思えば、抱き締められる力が更に強まった。いっそ少し痛いくらいなのに、不思議と、恐くない。


 身動きもほとんど取れない位の抱擁を受け止めたまま右手を伸ばして彼の漆黒の髪を撫でると、ガイアの身体が一瞬、すくまった。




「……嫌な思いさせて悪かった。それでも、耐えられないんだ……!大切な人を、俺が原因でまた失うなんて、想像したくもない……!」




「……っ!」




 消え入りそうに震えたその言葉は、一緒に過ごして来た一年間で初めて聞く、彼の弱音だった。




(あぁ、そうか。そうだった、ガイアが何より恐れていたのは……)




「大丈夫、ひとりぼっちになんかしないよ」




「……っ!」




 精一杯腕を伸ばして、いつもより小さく感じるガイアをぎゅうっと抱き締め返した。


 彼よりずっと小さいこの身体では、頼りないかも知れないけれど。私が受け止めたい彼の重荷が何かわかったから、もう迷わない。




「ガイアがどんな力を持っていて、どんな過去があって、これから貴方の側に居ることでどんな危険があるとしても、離れたりしない。ずっと側に居るよ」




 ポンポンと、ゆっくりしたリズムで背を叩きながら紡いだ私の言葉に、ガイアが小さく『どうして』と呟く。




「どうしていつもそんなに優しいんだ……。止めてくれ、この温かさに慣れてしまったら、お前に嫌われた時に絶対、耐えられない……!」








 子供みたいな不安げな声。その彼の言葉にしばらく呆けて、それから思わず吹き出した。




「……ふふっ」




「なっ……!笑うなよ、こっちは真剣にだな……!」




「ふふ、ごめんなさい。でも嫌ねぇガイアったら、嫌いになれるんなら、もうとっくになってるよ」




 くすくす笑いながら本音でそう言えば、ずっと俯いていたガイアがようやく顔を上げた。呆けた表情のせいで、宝石みたいな鋭利な美男子の顔が台無しだけど。そんな一面さえ、愛おしい。




(あぁ、やっぱり私、ガイアが好きだなぁ……)




 嫌いになれていたら、むしろずっと楽だったかもしれないけど。利害や理性だけで操れないから、人の心は尊いのだ。


 だから。




「私はこれからも、ガイアがガイアである限り嫌いになんてなれません!約束!ね?」




「……はは。何だよ、その指」




「何って、指切りだよ。知らない?約束の時にするの、『嘘ついたらハリセンボン』なんだから!」




 初めて出会ったあの時も『また遊ぼうね』って指切りしたのに、本当綺麗サッパリあの日のこと忘れてるな?もー!と、小指を差し出しながら頬を膨らました私にようやく笑顔を取り戻したガイアが、ぎこちない仕草で私の小指に自分の小指を絡める。




 『その顔じゃ、まるでお前の方がハリセンボンだな』と言う余計なひと言の制裁として思い切りデコピンを喰らわせてやった。




    ~Ep.36 秘密の花は地下に咲く·後編~




『例え記憶は消えれども、小さな契りが二人を結ぶ』




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