表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/108

Ep.21 お足元にはご用心

 数日後、研究チームの皆さんが改めて魔物の出現の多い場所……すなわち、ガイアのお祖父様のお屋敷に行きたいと言うので、私とガイアが彼らをお屋敷まで案内することになった。

 そんな訳で、今は皆で森のなかを歩いているのだけど……。


「セレン、そこ足元気をつけ……」


「セレスティア様、この辺りは岩肌に苔が生えていて滑ります!よろしければ私が手をお貸ししましょう!」


「ーー……」


「あ、ありがとうございますマークス所長。お気持ちだけで十分です」


 出発してからずーっと、ガイアが気遣って私に声をかけようとしてくれる度にマークスさんが割り込んでくるのがちょっと困る。ガイアも流石に不愉快なのか眉間にシワが寄ってるような……?

 ところでマークスさん、その背中にしょってる大きなリュックの中身はなんですか?まぁ聞かないけど、気にはなる。


「それにしても綺麗な森ですねぇ、仕事でなければゆっくり散策でもしたいものです。お屋敷からも近いですし、ガイアス様は幼い頃からこの場所へはよくお越しになられていたのでは無いですか?」


「……いや、俺は屋敷からは滅多に出なかったから子供時代にこの森に足を踏み入れたのは過去にたった一度だけだ。夢みたいに儚い出来事だったがな」


 世間話のつもりらしいサフィールさんに質問されたガイアが遠い眼差しで空を見上げながら答える。やっぱりガイア、あの日のことはほとんど覚えてないのかな……?


「おや、それは残念。ではセレスティア様はいかがです?歩いている様子を見るに、この森に慣れていらっしゃるようですが」


「ーっ!え、えぇ、あまり頻繁ではないですけど、確かに私は10才くらいの頃毎日のようにここに足を運んでましたね」


 しまった、いきなり話題が自分に向けられたからビックリしてつい素直に答えちゃったよ!追加のその質問をしてきたサフィールさんの笑みが魔王の微笑みにしか見えない……!


「左様でございますか、理由をお伺いしても?」


「え、えっと、ちょっと会いたい人が居まして……」


「ここに知り合いでも住んでたのか?」


 仕方なく観念して正直に……でも、極限までぼかして答えるとガイアに不思議そうにそう聞かれたので、『まぁそんな所かな』と曖昧に笑う。私が探してたのは他ならぬ貴方ですけどね、この鈍感!!


「……?何むくれてんだ?」


「べ、別にむくれてなんか……わっ!クモの巣が……!」


「おいおい、大丈夫かよ?下手に触るな、今取ってやるから」


 すねてあんまり前を見ずに歩いてたせいでクモの巣が頭にひっかかってしまった。慌てて私が手で払おうとする前に、ガイアの指先が私のサクラ色の髪に触れる。


「そういえば、お前のこの髪の色って……」


 ささっとクモの巣を取った後、ふと目を細めたガイアが呟きながら私の髪をひとふさ掬った。首を傾げていると、ガイアの後ろからクスクスと笑う声が聞こえるのに気づく。

 なんとなく顔をそちらに向けたら、笑っているサフィールさんと目があった。


「ふふ、てっきり仕事と義務で繋がっただけの事務的なご関係なのかと思いきや仲がよろしいのですねぇ。お互いご実家も近いですし、もしや幼い頃から面識がおありなのですか?」


「えっ……!?えっと、幼馴染みでは無いですけど、あの……っ」


「さっきも言ったが俺は屋敷から滅多に出なかったし、子供の頃に会ったことは無い……筈、だよな……?痛っ……!」


 『落ち着けって』と私に苦笑しつつサフィールさんに答えてから、何かを思い出そうとするように視線をさ迷わせたガイア。かと思うと急に頭を抱えてよろけたので、ぐらっと傾いだ彼の身体を咄嗟に支えた。


「ガイア、大丈夫!?」


「あぁ、少し頭痛がしただけ。あの頃の事を思い出そうとするとなるんだ、悪かったな驚かせて」


「ううん、それはいいんだけど……本当に大丈夫?これから魔物が出てきて戦いになる危険性もあるんだし、無理しない方が……」


 頭痛で倒れかけるって、中々尋常じゃ無いんじゃ……とおろおろする私を安心させるように、ガイアが笑った。


「本当に大丈夫だって、痛みは毎回一瞬なんだ。それに、万が一俺が今抜けたとして、その後に魔物に襲われたら一体誰が戦うんだ?」


「うっ、そりゃ私はもちろん、研究室の皆さんも武術も魔法も使えないしそれはそうだけど……」


「ほら見ろ。第一俺はお前の護衛なんだからそう簡単に離れる訳にはいかないんだよ。だから気にするな」


「う、うん……ありがとう」


 ポンと私の頭に手を乗せたガイアがあんまり穏やかに言うから、私は心配しつつも頷くしかなくなってしまう。側に居てくれるのは嬉しいけど、お仕事としての義務で私を護る為に無理はしてほしくないな……。


「おやおや、そんなこと仰有らず具合が優れないのならばお帰りになられればよいでは無いですか、ガイアス様!セレスティア様、ご安心下さい。義務感のみで最低限しか力を振るわないであろう彼が居なくとも、貴女の事はこの私がお守りしましょう!妻を守るのは夫の役目であり最大の喜びですからね!!」


 『むしろ邪魔だから帰れ!』と言わんばかりの態度でガイアに声高に言いながら割り込んできたマークスさんが、べりっと私とガイアを引き離す。意気込んでいるマークスさんをガイアが睨み付けた。


「短剣すらろくに扱ったことの無い一介の研究者が何を言う。今回目撃情報がある魔物は狂暴な上に普通の人間が刺されれば即死しかねない猛毒の針を持つ巨大な蜂……“キラービー”なんだぞ。どうやって戦うつもりだ?」


「ふっふっふっ……我々を舐めていただいちゃ困りますね!王家からも実績を認められし魔導研究室の我々が、何の武器も持たずにこんな場所にのこのこやって来るとお思いですか!?」


 “シャキーン”と効果音でも付きそうな勢いでマークスさんがリュックから取り出したのは、二丁の……


「拳銃……ですか?」


「えぇ。しかもただの拳銃ではございません。こちらは対魔物用に威力を強化した特殊な弾丸入りの物!ご安心下さいセレスティア様、ガイアス様が居なくとも我々の技術が詰め込まれたこの拳銃で私がどんな魔物からも貴方をお守り……っ!?」


 拳銃を両手にマークスさんが自慢げにつらつら話していたその時、ガサガサっと向かいの茂みがいきなり動いた。驚いてパニックになったマークスさんがまだガサガサしている茂みに向かってバンバンと銃を打ち放す。

 

「うわぁぁぁっ!何ですか、魔物ですか!!?せっ、正義の弾丸を喰らいなさい!!」


「ーっ!待て所長、まだ何が居るかもわからないのに無闇に発砲しては却って危険だ!」


「ええい、離しなさい!セレスティア様の前で手柄を奪おうとしてもそうはさせませんよ!」


 無駄の無い動きで反応したガイアに銃を手から奪われ羽交い締めにされてもまだマークスさんは騒いでいる。彼を抑えているガイアが『話の通じない奴だな……!』と舌を鳴らす中、銃弾の火薬の煙が晴れた茂みから現れたのは真っ白くてモフモフの毛玉。もとい、可愛らしい野ウサギちゃんだった。

 それに気づくと同時に、まだ今にもウサギを攻撃しだしそうなマークスさんの前に立ってバッと両手を広げる。


「セレスティア様、一体何を!?」


「何をじゃありません、攻撃を止めて下さい!ただの仔ウサギです!!」


「え、ウサギ……?」


 マークスさんがぽかんとなった隙に、プルプル震えているウサギちゃんに向き直る。小さな前足の一部に鮮血が滲んで赤くなっていた。

 傷ついて震えているその姿を見てメガネを押し上げたサフィールさんがマークスさんから銃を取り上げながら言う。



「あーぁ、あんな小さな生き物相手に8発も無駄に発砲してしまって……。勘弁してくださいよ所長、その弾丸高価なんですから」


「……っ!サフィールさん、それ本気で言ってます……?」


 キッと目を吊り上げて振り向くと、サフィールさんは無表情のまま答える。


「いけませんか?その銃の開発に費やされ研究費用は我が国の国家予算と公爵様からの援助によるもの。つまり、大半が民の血税です。あんな小さな生き物の命ひとつで何をそんなに怒……「馬鹿言わないで、命の重さに大きいも小さいもないでしょう!!」……!」


 

 もう言いたいことは言った。だからメガネの奥で目を見開いたサフィールさんから、ウサギちゃんへと視線を戻す。


「よしよし、怖くないからいらっしゃい。すぐに手当てをしないと……あっ!」


 しゃがんでそっと伸ばした私の手にびくっとした野ウサギは威嚇の為か飛びかかってきて、私の髪についていた青いリボンを奪って逃げ出した。


「ちょっ、待ってウサギちゃん!そのリボンは……っ」


 誕生日にガイアから貰った大切なものなのに!

 ささささっとすばやい動きで走り去るウサギの姿を追いかける為に立ち上がる。


「おいセレン!!」


「ごめんなさい、リボンを返してもらってあの子の手当てしたらちゃんと戻るから!」


 振り向いてそれだけ言い残し、森の中へと駆け出した。





 転々と続く地面に落ちた血の雫を追いかけて走って走って、走って……息も大分切れて来た頃、ようやく少し先の草むらに飛び込もうとしているウサギちゃんを見つけた。


 その真っ白い体がジャンプした瞬間に飛び付いて、ぎゅっと両手に抱き締める。


「よし、掴まえた……!って、あれ?」


 安心して着地しようとした足がなぜか地面に着かなくて。嫌な予感にバッと見た足元は、なんと断崖絶壁の崖。


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 なすすべもなくウサギを抱き締めた私は、『あっ』と思う暇もないまま、一気に崖を滑り落ちた。


    ~Ep.21 お足元にはご用心~


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ