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Ep.13 トライアングルは交わらない

「ではナターリエ様、私はこれにて失礼致しま……いったぁっ!!!」




 とにもかくにもナターリエ様との気まずいお茶会をどうにか切り抜けさぁこれで帰れるぞと扉に手をかけた瞬間、向かい側から開かれた扉に盛大に頭をぶつけてしまった。




「わ、悪い。まさか真ん前に居るとは思わなくて……」




 あまりの痛みに頭を抱えてうずくまっていると、聞きなれた声が降ってきて顔をあげる。




「ガイア!?なんでここに?」




「何でじゃないだろう。試合を終えてホテルのフロントに部屋の鍵を貰いに行ったらお前が入室してないと支配人に言われて驚いたんだからな、ったく……。ほら、鍵もらってきたから部屋いくぞ。立てるか?」




「えぇ、ありがとう」




「……お二人は、ずいぶんと仲良くなられたのね」




「「ーっ!!」」




 呆れ顔で差し出されたガイアの手に掴まって立ち上がる私を見てポツリと呟いたナターリエ様に、ガイアがバッと向き直る。




「ご挨拶も無しに失礼致しました。ところで、何故お嬢様がセレスティア嬢と話を?」




「ホテルで偶然お会いしたから、お茶会のついでに例のわたくしの“濡れ衣”の件についてセレスティア様がどこまで思い出されたのかをお話していただけよ。そうよね?」




「え、えぇ……」




 笑顔で圧をかけてくるナターリエ様の言葉に苦笑いでうなずく。ガイアは数秒沈黙してたけど、納得したようで『そうでしたか』とナターリエ様に微笑んだ。




「まだ期限まで時もあります、お嬢様直々に彼女を取り調べるほどご心配なさることはございませんよ。セレスティア嬢のことは私にお任せください。よし、じゃあ行こうぜセレン」




「う、うん!ではナターリエ様、今度こそ私達は失礼させて頂きますね」




 ガイアに促されて、彼の前を歩き出したその時だ。不意にナターリエ様が声を上げた。




「お待ちになって!」




「お、お嬢様何を……ーっ!!」




「ー……っ!!!」




 その声に反射的に振り向いて、目に飛び込んできた光景に驚く。


 なんと、ナターリエ様がタイを引っ張って自分の方に引き寄せたガイアの頬にキスをしていたのだ。




 呆然として目を逸らす事も出来ずに居たら、驚いた顔をしたガイアとバチっと視線が重なる。




「……っ悪ふざけはおよし下さい!」




「あら、“わたくしの為に”頑張ってくださっている貴方に労いの贈り物ですわ。セレスティア様の護衛、よろしくお願いしますね。貴方はわたくしの一番信頼出来る“友人”ですから、頼りにしていましてよ」




 ガイアはナターリエ様の両肩を掴んで自分から引き剥がしてたけど、その頬は確かに赤くなっていた。その事に気がついてしまった瞬間、胸がズキンズキンと痛み出す。まるで、鋭いトゲだらけのイバラが心臓を締め付けてるみたいだ。


 駄目だ、談笑してる二人をこれ以上見てたくない……!




「あ……ガイアはまだナターリエ様とお話があるみたいだし、私先に部屋行ってるね!」




「はぁ!?あっ、おいちょっと!」




 見たくないなら見なければいい。だから、その場から走って逃げ出した。















ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ったくあの馬鹿、一人で先に行ったって部屋入れないだろ。鍵は俺が持ってんだから……!すみませんお嬢様、俺……じゃない、私も失礼致します」




「あら、つれないのね。折角久しぶりに会ったのだからもう少しお話したいわ」




 セレスティアが走り去った直後。つい先ほど、長年の想い人だった筈のナターリエに口付けられたにも関わらず直ぐ様彼女を追いかけようとしたガイアスを、再びナターリエは呼び止めた。彼の身体にしなだれかかるように腕を組んで、胸ポケットに四つ折りにした小さな紙切れを押し込む。




「とはいえ、折角ホテルに来たのにお部屋に入れないのではセレスティア様が可哀想ね。ですから今は退室を許します。その代わり、よろしければ今夜このお部屋にいらして?来てくださったら、二人きりでゆっくりお話が出来ると思いますの」




 『お待ちしてますわね』と微笑んでナターリエがゆっくりとガイアスの腕から離れる。


 押し付けられた部屋番号の紙を胸ポケットにしまったまま、ガイアスはセレスティアを追いかけた。














ーーーーーーーーーーーーーーーー


 重たい足取りで、ホテルの長い廊下を歩く。ふと見上げた空は、いつの間にかどんよりと曇ってしまっていた。




「雲行き怪しいなぁ……、嵐とかにならないと良いんだけど」




 立ち込める暗雲を見上げながらポツリと溢す。雷は苦手だ。悲しいあの日を思い出すから。


 まぁ今もすでに違う意味ですごく悲しいけど……ね。彼が誰を好きかなんてとっくにわかってた筈なのに、一緒に暮らすようになっていつの間にか近づけたような気持ちになってたみたいだ。




 それがただの自惚れだって気づかされたのが、ひとつ目の悲しい原因。それから、もうひとつは……。




「ほっぺにキスまでされといて“友達”宣言されて悔しくないの!?ガイアの馬鹿ーっ!!!」




「な、なんだよ、何でお前がそこに怒るんだよ!?」




  合流して部屋に入るなり、私はガイアに思い切りそう叫んだ。せめてナターリエ様と貴方が両想いとかならもう少し諦めがつくのに、今のガイアは正直ただの”都合がいい男”扱いされちゃってるんだからね!?


 戸惑ってる彼にずんずん近づくと同時にガイアも後ずさって行く堂々巡りの末、ガイアの背中が壁に当たった。




「抱きつかれたりほっぺにキスされたり、自分ばっかやられっぱなしなんて!たまにはガイアからナターリエ様をときめかせたってバチは当たらない筈よ!」




「いや、俺女性のときめかせ方なんか知らないんだけど。それに別に、正直ナターリエを手に入れたいなんて身の程知らずな事を願ったことは一度も無……」




「わからないなら教えてあげるから!難しくないよ、例えばちょっと古いかもだけど、女の子を壁際に追い詰めて逃げられないようにする“壁ドン”とか!!」




 丁度今は私がガイアを壁際に追い詰めてる形なのでそのまま実演して見せようとした……ら、ガイアがおもむろに私から顔を背けて吹き出した。




「お前っ、壁まで手届いてないけど……っ!」




「ちっ、違っ、これ本来立ち位置逆だから!女の子が男の子にするものじゃないから届かないだけなんだから爆笑すること無いでしょーっ!?」




 本人は我慢してるつもりなんだろうけど、顔を背けてても声も肩も震えてて全く隠せてないんだから!もーっ!




「~っ!まあとにかく今の壁ドンとかじゃなくても、辛い時とかに優しく抱き締めてもらったり頭撫でられるだけで女の子って安心出来るものなんだから!チャンスは逃がしちゃ駄目よ!!」




「……そんなもんかねぇ」




「そんなものなの!」




「まぁ、そこまで言うなら機会があればやってみるかな。とりあえず、壁ドンとやらの成功の第一条件は相手を挟んでても壁まで腕が届くことだな」




「……もうっ、ガイアの意地悪!!!」




 思い切り投げつけた枕を軽々片手で受け止めて、ガイアは無邪気に笑う。その鈍感さにいらっと来たので、もう一個の枕も振りかぶって投げつけてやった。顔にクリーンヒットした。




  ~Ep.13 トライアングルは交わらない~




 『振り向いて』なんて言わないけど、ちょっとは気づいて欲しいのです。

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