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Ep.12 恋敵からのお誘い・後編  

 どうしてこうなった……!




 そう嘆く私の向かい側でナターリエ様は優雅に微笑んでいる。その彼女と私の間のガラステーブルには、この世界では珍しい、だけど私にとってはものすごく見覚えがあるお菓子ばかり。


 ジャガイモを薄くスライスして油で揚げて青のりをまぶしたものだとか、ひとくちサイズのサクサクパイにチョコレートが入ったものだとか、秋の果物の種の形の辛しょっぱいお煎餅とピーナッツの合わせものとかそんなものばかり。ナターリエ様、これ絶対私の正体わかっててわざとやってるでしょう!!?絶対に食べてなるものか、口にしたら最後。もう言い逃れ出来なくなってしまう気しかしない!




 と、そんな意地でお茶会が始まってから一時間紅茶だけ頂いて間を持たせてきたけれど、そろそろお腹がチャプチャプで苦しくなってきた。今日結構細身のワンピース着ちゃってるけどお腹出てないかしらと自分の腹部に視線を落とした私を見て、扇で口元を隠したナターリエ様がふふっと笑みを溢す。




「遠慮せずどれでもお好きなものを召し上がりなさいな、これらは全てわたくしが自ら考案した希少なお菓子ばかりですのよ。それとも……、貴方に厄介事を持ち込んだわたくしからの持て成しなど受けたくはないと言うことかしら?」




 『悲しいわ……』とナターリエ様が目を伏せるなり、彼女をつきまと……もとい、常に見守っていらっしゃる親衛隊のイケメン達が一気に殺気だってしまった。ま、まずい!今でもただでさえ危うい立場にいるのにこれ以上敵を増やすのはごめんだと慌てて口に放り込んだお菓子は、のりしお味のポテチだった。懐かしい味にちょっと気が和らぐ。




「美味しい……」




「でしょう!?こちらはジャガイモを油で揚げたもので“フライドポテト”と言う物ですのよ」




「えっ?いや、これはお菓子だから“ポテトチップス”じゃ……?」




「ーっ!やはり貴女も“こちら側”でしたのね」




「あっ……!」




 しまった、試された……!まんまと罠にはまって冷や汗が止まらない私を他所に、ナターリエ様が『貴殿方は席を外して下さる?』と親衛隊の男性陣を皆追い出してしまった。




「これで二人っきりですわね、セレスティア様?」




 扉を締め切ってそう振り返ったナターリエ様にいきなりガッシリと両手を掴まれて身構える。ひぃぃぃっ、恐いよーっ!




「ねぇ、ポテトチップスやフライドポテトを知ってるってことはやっぱり貴女も転生者よね!?私、あの腹黒ヒロイン以外でゲームのシナリオを知っている人をずっと探してたのよ!」




 ーー……はい?


 さっきまでの高貴な美人はどこへやら。満面の笑みで私の両手を掴みブンブンと振り回すナターリエ様は、聞いてもないのにあの断罪イベントまでの今までの自分の人生を私に説明してくれた。




 と言ってもラノベとかに定番の、“幼少期にゲームのシナリオと自分の不幸フラグを思い出したから回避する為にヒロインより先に攻略対象達を救いまくってたら無自覚にモテモテになっちゃった、テヘッ”って感じのご都合主義なお話だったからそこは省略します。何より、その“片っ端から救った攻略対象”の中にガイアも含まれてることに正直モヤモヤしてしてたら、ナターリエ様がふと懇願するような顔になってさっきより強く私の手を握った。




「折角彼等と“お友達”になれて、順風満帆な生活の基盤は整ったと思っていたのに……誤算だったのは、あのヒロインも“転生者”だったことなの。このままでは、私が彼女に危害を加えたことになってしまうわ。ゲームのシナリオ通りに!私はなにもしていないのに、そんなのあんまりよ!」




 バンッと机を叩くナターリエ様にいつもの威厳はない、今は完全にただの女の子だ。




「ねぇセレスティアさん、貴女もこのゲームを知ってるならわかるでしょ?あのヒロインは自分が幸せになる為に私に濡れ衣を着せる気なの!だから、記憶がなくても私が無実だって証言してくれるわよね?」




 『ね?』と念を押してくるナターリエ様の顔は、普通の女の子のようでいて、高位貴族特有の圧力も感じた。


 中身が何者であれ彼女はこの国で二番目に強い貴族のお嬢様。本来なら、彼女のお願いに逆らうのは得策じゃない。……けれど、私は静かに首を横に振った。




「それは出来ません、ナターリエ様。私は確かに転生者ですが同時に今はスチュアート家の長女なのです。もし、記憶も曖昧なまま貴女の無実を証言して後々それが間違っていたとなれば、力を持たない我が家はあっと言う間に没落してしまうでしょう。私は亡き母に代わり家を守る立場として、そんな無責任な真似は出来かねます」




 『だから証言をするなら、自分が自信を持って答えられるだけの確信を持ててからにしたいのです』と、一息に言い切って申し訳ありませんと頭を下げる。





「……ふぅん、そう。そうよね、わかったわ。無理言ってごめんね」




 痛いくらいの沈黙がしばらく続いて、ナターリエ様から返ってきた返答に胸を撫で下ろす。とりあえず、虚偽の証言をさせられるリスクだけはどうにか回避出来たようでほっとした。




   ~Ep.12 恋敵からのお誘い・後編~



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