~茜色~
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「…いい加減なんか言ってよ」
暫く黙っているとか細い声が聞こえて我に返る
よく見れば彼も小さく震えていて怯えた瞳で私の足元を見ていた
「…こっち」
私は立ち上がると彼の手を引いて階段へと戻った
彼は家に返すべきなのかもしれない
巻き込んじゃいけないのかもしれない
でも一人じゃどうしたらいいか分からなくて
「…あの、ごめんなさい」
そう言って階段へと足を踏み出した
一段一段上がる度に心臓が大きく跳ねる
2階に辿り着くと日の落ちかけた薄暗い中でも
床一面に広がる茜色がハッキリと見えた
「な、なんなんだよ?」
一段下にいる彼には見えないのであろう
「…待ってて」
その奥の景色を見た時、時間が止まったように感じた
廊下の突き当たり両親の寝室の開け放されたドアの先には床一面の茜色の上には横たわる二つの影が見えた
「っ!!!」
思わず後退るとカチャッと音がして鋭い痛みが走った
「いっ…た!」
見下ろすと真っ赤なナイフが…
「どうした…!?」
駆けよって彼は目を丸くして激しく震えだした
「…ごめんなさい」
彼の手を握り、だけどここまできて逃げられない
確認しなくてはいけない…と足を動かした
「…お…おい…まっ…て…」
ガタガタ震える彼の手を離すことはできずに
近くにあった影の方へと足を運ぶ
ベッドの下から出ている影は女性の体のようだ
下半身だけが見える
スカートやスリッパを確認する
「…お母さん」「ひっ…!」
その瞬間私たち二人はドサリとその場で気を失って倒れてしまった