7.月曜日、お留守番させました。【ハル】
7.お留守番させました。
月曜日。土日が終わってしまって、また一週間が始まる…。
うう、仕事行きたくない。
クロに食事を作ってもらって、朝のごみを持ちながら、見送るクロと向かい合う。
「戸締りはしっかりしてね」
『問題ない』
「冷蔵庫に食材とか色々入っているから、お昼ごはんたべてね」
『問題ない』
「最近下着泥棒とか出回っているって回覧板に載ってたから気をつけてね」
『問題ない』
「それから、それから」
くいくいと押される。もう行け、とのことだろうか。
「しっかり眠ってるんだよー!」
クロは私を送り出してくれた。
ああ、本当に仕事行きたくない。
仕事場までは駅まで歩いて10分。電車で40分。
職場につくと制服に着替える。
「鈴野さんおはよう」
「おはようございます!」
私の職場は小さな会社で、車の部品を作っている。
小さなねじだけれども、需要はそこそこ。
外注の伝票などを処理していく。
今日は、定時に帰る。だって、クロが待っているもの。
12時になって、昼食タイムとなる。
なんと、今日はクロがお弁当を作ってくれたのだ。
小さいおにぎり2個にちょっとしたおかずの入ったタッパ。
すごくうれしい。
誰かが作ってくれるのって、すごく感動だ。
「あ、今日はすみません!5時になったら帰ります!!」
「もしかして、デートとか?」
「いえ、実は怪我した子を拾って…」
「また拾ったの?」
「う、そうなんです…」
「前は猫で、その前は犬だったかしら。その前は鳥だったこともあったわね」
「そうなんです」
職場の人は知っているけれど、私は傷ついた動物をみると、放っておけないのだ。
中には傷が深くて、すぐに死んでしまった子もいたけれど、先代クロだけは、3年と長生きしてくれた。
あの子は大人になってから拾ったので、本当に懐いてくれなかった。
いつも睨むように私を見ていた。
けれども、最期だけは、最期だけはぐるぐると私に甘えるように、亡くなっていった。
「それだと心配よね。看病がんばってね」
「はい!ありがとうございます!」
「それで、名前はつけたの?」
「はい、クロという名前です」
「あ、前に買っていたクロちゃんと一緒の名前ね」
「そうなんです。目がそっくりで……」
「クロちゃん、元気になるといいわね」
「ありがとうございます!!」
どうやら、先輩はクロのことを猫と勘違いしているみたいだ。
でも、そうだよね。人間拾うなんて思わないもんね。
さぁ、お昼の時間も終わりだ。
また伝票整理しないと。
「終わった…」
今日の仕事が終わった。定時の5時だ。
「すみません!お先です!」
「おつかれさま」
ばたばたと制服から私服に着替える。
そうして、会社を飛び出した。
あのクロのことだもの。きっと大丈夫だと思うけれど、何よりも心配なのは。
クロが何も言わないで消えてしまうかもしれないということ。
電車に乗っている時間が長く感じられた。
「ただいま!」
あわてて家に帰ると、クロの靴がある。よかった。まだいてくれるみたいだ。
のそりとクロは起き上がると『お帰り』と書いてくれた。
「あ、洗濯物取り込んで、畳んでくれたの?ありがとう!」
『下着は各自で』
あ、私の下着は手を触れていないみたい。
自分の下着を畳んでいると、その間にクロは夕飯の準備をしてくれていたみたいだ。
「いただきます」
クロはどうやら和食が得意のようだった。ほうれん草のおひたしなどを作ってくれている。
食事が終わると、私はお風呂に入ることにした。
さっぱりとして出てくると、どうやらクロも入りたそうにしている。
そうよね。土日は傷がひどそうで、お風呂入れなかったものね。
「クロ、赤いボトルがシャンプーで、青いボトルがリンスね」
『問題ない』
「やっぱり洗ってあげようか?」
『問題ない』
傷があると、背中とか洗いにくそう。
クロが入っている間、そわそわと「やっぱり洗おうか?」と声をかけると、にゅっとお風呂場のドアから手が伸びた。
『問題ない』
あ、スケッチブック中に持ち込んでいたのね。
「髪の毛、乾かしてあげる!」
『問題ない』
と書かれたスケッチブックを置かせて、髪をドライヤーで乾かしてあげる。
クロは何か言いたげな様子だったけれど、私におとなしく髪を任せてくれた。
お留守番は心配だったけれど、無事済んでよかった。
今日も一日何事もなくすんでよかった!