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6.日曜日、買い物されました。【クロ】

6.買い物されました。


夕方近くになって、やっと意識が浮上する。

ハルはコンビニで買い物をしてきたようだ。


「クロ、何が食べたいですか?」

「………」

俺は無言で立ち上がると、ふらつきながら台所に向かう。

「あ!寝てないと!」

「………」

俺はフライパンを握りしめた。

あんな凶器作られては困る。

血を流しすぎてふらつくし、体調は万全ではない。だが、ハルに作らせるわけにはいかない。

彼女は俺が作ることはあきらめてくれたのか、調味料の場所などを教えてくれる。


「なら、これ使ってください!」


………彼女は、レースがふんだんにあしらわれたピンクのエプロンを渡してきた。

これを、俺が?

沈黙の暗殺者と呼ばれる俺が?黒の死神との異名を持つ俺が?


ピンクのフリルのついたエプロンを着ろと?


非常に、非常に困惑した表情をするが、ハルの意思は固かった。

しぶしぶ、しぶしぶそれを着る。


(上半身)裸エプロン(フリル付き)なんてどこぞの男のロマンのようだ。

……相手が俺でなければ、だけれども。


俺は簡単に作れるものとしてオムライスを作ることにした。

ケチャップライスに卵をくるませればできるもの。

二人分あわせても10分程度で作れてしまう。


ハルはそわそわとうろちょろしていて面倒だったので、『座ってろ』と書いておいた。

そうしたら、テーブルの前でそわそわとしていた。


クロネコの皿がハルの使っている皿なのだろう。そちらをハル用にして、俺はハルがコンビニで買ってきてくれた紙皿に乗せた。


ハルの前にオムライスを置くと、うれしそうに顔をほころばせた。

「おいしそうです!」

いただきます、とハルが食べ始める。


味見もしたし、悪くない味だ。

昨日食べた悪夢を忘れさせてくれるような味だ。


食べ始めてぎょっとする。

ハルがぽろぽろと泣き始めたからだ。

なんだ。どうした。熱かったのか?

俺はどうしたらいいかわからなかった。

命乞いで泣かれたことはあったが、食事を作っただけで泣かれたのははじめてだ。

どうしていいのかわからない。

俺は脱ぎ捨てたエプロンで彼女の頬をぬぐう。

もしかして、こんなに上手いものははじめて食べた、とか?

普段あんな有毒な料理を食べてるんだ。その可能性もあるな。

特段料理が得意というわけではないが、これからは俺が作ろう。

うん、そう決心した。


「ごちそうさまでした」


少し、無理をしすぎてしまったか、包帯に血がにじんでいる。

ゆっくりとベッドに横たわった。


そのあと、ハルは食器を洗ったりしていたが、俺に合わせて眠ることにしたようだ。


『ベッドを占領してすまない』

そう書くと、彼女は大丈夫ですよ、と床に毛布を引いて転がった。


そうして、彼女との1日目が終わったのだった。



日曜日の朝だ。


昨日よりはだいぶ体調がいい。

再び朝食は俺が作ることにした。

卵焼きにごはんというシンプルなものだが、よいだろう。


彼女は午前中に掃除をするようだった。

そして、出かける準備をする。


「今日、服屋さんとか行きますが、なにかサイズとか服のリクエストはありますか?」

『上下あるとありがたい。サイズはXL、色は黒で』

「XLに黒ですね。身長何センチほどあるんですか?」

『前に測ったときは、198だった』

「198cm!私、140㎝だから、60㎝近く身長さあるんですね」

どうりで小さいはずだ。140なんて、下手したら小学生の身長じゃないか。



再びベッドで眠っていたら、どうやら夕方になっていた。

目を開けていたら、彼女が意気揚々と帰ってきた。


「クロ、クロ、服買ってきましたよ!」

満面の笑顔だ。いい服でも買えたのだろうか。

「じゃーん!可愛いでしょう!!」


彼女が取り出したのは、黒地に不細工な猫の柄のTシャツだった。

しかも、3枚も。

俺は硬直した。

まさか、その柄ものを俺に着ろというのだろうか!

猛然に抗議をするために紙に書く。

『黒ければいいというものではない!!』

「か、かわいいよ?あと、すごく安かったです!」

『安ければいいというものでもない!!』


なんというセンスなんだ!俺は猛烈に反省した。この女に服を買いに行かせるべきではなかった!

だが、彼女は引かなかった。

クロネコにゃんタロー何某の魅力を全身を使って押し売りしてくる。


俺は脱力し、天を見つめ、そうして、長い長い葛藤の末、Tシャツをはおった。

神はいない……。

こんな屈辱は久しぶりのものであった。


「かわいいです!」

こんな三十路を越えた男に柄物Tシャツを着せて何が楽しいんだこの女は…。

だが、ちゃんと外行きのことも考えてくれていたのか、無地の黒いパーカーと黒いエプロンも買ってくれていたようだ。

……エプロンは助かる。すごく、助かる。


「食材とかも買ってきたので、冷蔵庫に入れておきますね」

「…………」

だが、なんだろう。この敗北感。にゃんタロー何某が不細工に俺を嗤っている。


彼女は俺が意思疎通しやすいようにペンとスケッチブックを買ってきてくれた。

たしかに、これではっきり言いやすい。


夜は買ってきてもらった惣菜のパスタを食べて、俺は再び眠りについた。



色々と疲れていた。特に、精神面で。


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