5.日曜日、買い物しました。【ハル】
5.買い物しました。
おうちに帰ってきたとき、クロはまた眠っていた。
そうよね。怪我をしているときは体力回復のためにちゃんと眠らないと。
夕飯の支度をしようとして、夜はクロの好きなものを食べさせたいと思った。
だから、起きてから準備しよう。
夕方近くになって、クロはまた起きたようだ。
「クロ、何が食べたいですか?」
「………」
クロは無言で立ち上がると、よろけながら台所に入ってくる。
「あ!寝てないと!」
「………」
どうやら、どうやら、彼が作ってくれるみたいだ。
フライパンを握りしめていた。
彼は今上半身裸だった。
うん、傷口に水とか油とか跳ねたりしたら大変だもの。
「なら、これ使ってください!」
いつも使っているエプロンを渡すと、非常に、非常に困惑した表情をした。
けれども、溜息をつくとエプロンを使ってくれた。
彼はどうやらオムライスを作ってくれるようだ。
冷蔵庫にあった卵を手際よく溶いていく。
料理慣れしている男性なのだろうか。すごく手際がいい。
そわそわと彼のまわりをうろちょろしていたら、『座ってろ』と書かれてしまった。
ドキドキする。
誰かにご飯を作ってもらうのは、本当に久しぶりだ。
10分程度でオムライスができてしまった。
ほかほかのオムライスが猫のお皿に乗って出てきた。
彼はコンビニで買ってきた紙皿に載せている。
「おいしそうです!」
彼は一礼して食べ始める。
私も一口食べる。
もぐもぐ。咀嚼する。
涙が出てきた。
温かい。うれしい。誰かが料理を作ってくれるのって、こんなに、こんなにうれしいんだ。
彼はぎょっとしたように動きを止めると、脱いだばかりのエプロンでごしごしと私の頬をぬぐう。
ちょっと痛い。けれども、その優しさがうれしかった。
「ごちそうさまでした」
彼は料理で無理をしてしまったみたい。
また開き始めてしまった傷口に表情を強張らせながらベッドに横たわる。
手早く食器を洗い、普段ならぼんやりとテレビを見るんだけれど、今日はそっとしておくことにした。
ベッドの下に冬用の毛布とかを引く。そして早いけれど、私も寝ることにした。
『ベッドを占領してすまない』
と書いてくれたけれど、怪我人を床で眠らせるわけにはいかない。
そうして、彼との1日目が終わったのだった。
日曜日の朝だ。
今日は彼のための買い物をしに行かないと。
ぼんやりとしていたら、彼が再び料理を作ってくれた。
卵焼きにごはんっていうシンプルだけれども嬉しい。
午前中軽く掃除をして、出かけることにする。
「今日、服屋さんとか行きますが、なにかサイズとか服のリクエストはありますか?」
『上下あるとありがたい。サイズはXL、色は黒で』
「XLに黒ですね。身長何センチほどあるんですか?」
『前に測ったときは、198だった』
「198cm!私、140㎝だから、60㎝近く身長さあるんですね」
どうりで高いはずだ!ベッドもシングルだと少し狭く感じられる。
並んだとき、胸元までぐらいしか身長がなかった。
再び彼がベッドでうとうとし始めるのを確認すると、私は買い物にいくのだった。
ふふふ。
なかなかに良い買い物ができた。
きっとクロも気に入るだろう。
「クロ、クロ、服買って来ましたよ!」
目を開けていたクロに報告をする。
彼はぱちぱちと瞬きをすると、少し状態を起こす。
「じゃーん!可愛いでしょう!!」
なんと、服屋に行ったら、クロネコにゃんタローのTシャツシリーズが特価で売っていたのです!
黒地の生地ににゃんタローの柄が載っているというもの。
たぶんサイズ的にXLは大きすぎて売れ残っていたんだね。3枚で1000円とかで買えた!
彼は、固まっている。
そして猛烈に紙に何かを書き始めた。
『黒ければいいというものではない!!』
「か、かわいいよ?あと、すごく安かったです!」
『安ければいいというものでもない!!』
彼は、猛烈に抗議しているようだ。
か、かわいいのに……。
ぶさカワイイのに、にゃんタロー。
彼は脱力して、天を見つめ、そうして、長い葛藤の末にゃんタローTシャツをはおった。
「かわいいです!」
「……………」
ちゃんと無地の長袖のパーカーも買ってきたので、我慢してもらいました。
あと、彼用の黒いエプロンも買ったのです。
「食材とかも買ってきたので、冷蔵庫に入れておきますね」
「…………」
彼は少し呆然としているようだった。
夜は買ってきた惣菜のパスタを食べて、再び彼は眠り始めた。
私はその間に明日からの仕事の準備をする。
アイロンかけとか、そういったものだ。
それにしても、結構クロ、にゃんタローTシャツ似合っている。