3.土曜日、料理を作りました。【ハル】
3.料理を作りました。
クロはどうやらまた眠りについたようだった。
痛み止めが効いたのか、眠りは静かだった。
……効いてよかった。
クロはどうやら悪い人ではなさそうだ。
だって、悪い人だったら、すぐに出ていくだなんていわなさそう。
でも、救急車を呼んでほしくなかったり、色々と事情はありそう。
も、もしかして……。
保険料未払いのために、保険が効かないとか?
ありそうだ。
その可能性はありそう。
血で汚れてしまっているとはいえ、彼は小奇麗な格好をしていたから、ホームレスということはなさそう。
きっと、お金がもったいないということで払っていなかったに違いない。
国民の義務としても大切だけど、こういう怪我の時のために保険入っているかどうかは大切だと思う。
ともかく、彼が眠っている間に血で汚れてしまっている服をどうにかしないと。
このまま洗濯機の中に入れると大惨事になるから、まずは洗面所で血を洗い流す。
そうよ。ポケットにティッシュ入れたままとか結構大惨事になるんだから。
すぐに血で赤く染まっていったけれど、何度もすすぐことによって色が薄まっていく。
黒い服で助かった。汚れは目立たなさそう。
……だけど、腹部がざっくり切り裂かれてるから、もう着れないかもしれない。
拭ったタオルもすすぐけれど、すぐに真っ赤になっていく。
タオルは処分いきかな…。気に入っていた花の柄のついたバスタオルだったんだけれど。
色がだいたい落ち切ったところで洗濯機を回す。
その間に、彼が起きた時に何か食べられる物を作らないと。
病人にはおかゆが定番だけれど、傷ついた人には何がいいだろう。
きっと滋養のあるものがいい。
そう思って、野菜たっぷり入れたチャーハンを作ることにした。
料理は昔からしているから手際はいいと思う。
「よし、あとは起きたら温めて一緒に食べよう」
そう思っていると、彼が意識が目覚めたようだった。
起き上がろうとしている。
「ま、まだ起きてちゃダメですよ!」
だが、彼は困ったように、横のペンで何かを書く。
『生理現象だ』
「起きたいと思うのは生理現象かもしれないですが駄目です!!」
「……………」
彼は困った顔をした。
『トイレだ。察してほしい』
「あ…!し、失礼しました!!そこの廊下のところです!!」
彼は溜息を吐くと、よろよろと起き上がってトイレに向かった。
は、恥ずかしい……。
彼は戻ってくると、ベッドの淵にもたれ掛かるようにした。
「そうだ。お食事食べませんか?」
こくりと彼はうなずく。
先ほど作ったばかりのチャーハンを温めると皿に盛ろうとする。
えーと、ひとり暮らしだからお皿がない…。
さすがに、先代クロのお皿は、まずいよね…。
困ったが、私のネコ柄のお皿に盛ることにして、私はお茶碗にチャーハンを盛ることにした。
彼にはスプーン、私は箸を使うことにした。
「おまたせしました」
彼は一礼してスプーンでチャーハンをすくった。
一口食べて、彼が固まった。
「どうかしましたか?」
もぐもぐと食べていく。
やっぱり野菜多めにしてよかった。噛むのが大変かなと思ったので、どの野菜も細かく刻んである。
肉もあればよかったけれど、生憎きれていた。
どうしよう。彼がスプーンをくわえたまま固まっている。
「えと、美味しくなかったですか?」
お口に合わなかっただろうか。
彼ははっとしたように、再び食べ始めた。
二人の咀嚼する音が響く。
「ごちそうさまでした」
彼も完食したようだ。
「おかわりいりますか?」
彼が首を横に振る。
彼のような大柄な男性に私のいつも食べている分量でたりたか不安だったけれど、きっと傷のこともあって、多くは食べられないのだろう。
「この後コンビニ行ってきますが、何か必要なものはありますか?」
『男性用の下着と、剃刀をお願いしたい。金はいつか必ず返す』
「ある程度の貯蓄はあるから大丈夫です!あ、その下着…ですが……」
どうしよう。すごくはずかしい…。
「ぶ、ブリーフ派ですか!?トランクス派ですか!?」
この選択って究極よね!!
彼はとても、とても遠い目をしながらメモを書く。
『ボクサーパンツ派なのだが、なければトランクスで』
「わ、わかりました!」
うう、聞くのって恥ずかしい。
でも、しばらくはいるのだから、歯ブラシとかも買わないと。あ、あと紙のお皿とか、お茶とか飲み物とか。
ああ、誰かが家に来るってはじめてだから、何を買えばいいのかわからない。
彼が再び眠ったことを確認すると、私はコンビニに向かった。
どうしよう。
クロには、申し訳ないけれど、ほんのちょびっとだけ。ほんのちょびっとだけ、ドキドキしている。
家に人がいるのって、なんだかドキドキする。
私はコンビニで買い物しすぎるほどしてしまって、持って帰るのが大変なのだった。