ミラの依頼(4)
……結果としては1時間も持たなかった、時間を止める魔法よりMP消費が多いようだ。
今まで自分のペースでギルドのクエストを受けていた俺の身体はほぼ全快の筈だ、そんな状態でこの結果だから戦闘時に使用するならせいぜい30分程が限界といったところか。
それからこれは結界としてはやはり未完成だった。何故ならドーム状況に転回した結界は密封した状態になり空気を通さないのか、しばらくすると息苦しくなった。
だから検証途中でMP切れで体調が可笑しくなったのか、いやでもまだ余力はあるのに何故だと焦ったりした。空気が無いのではと気付いたら直ぐ足元に空気を入れる隙間をイメージして作った、つまり若干の結界の隙間が存在することになってしまった。
それから敵の魔法も止める事が出来るが味方が外に向けて射った魔法も止めてしまう不完全な代物となってしまった。
俺は結界を解きモーリーから紅茶を貰ってリアの隣に座りお茶菓子としてのクッキーを齧りながら一息ついた。
「お疲れ~、どうだった?」
「密閉した空間になるらしくてダメだ。結界に穴を作らんと息苦しいし俺の結界内部からの攻撃魔法の動きまで止めちまう、使い物にならん。あと30分が限度」
「魔法の反射があるし攻撃する必要は無いんじゃない?あと30分あれば充分じゃないかな?」
「あとは物理攻撃かな、ちょっと出すから叩いてみてくれ」
リアの目の前にまな板程度の結界の壁を作る。ドーム状じゃなくても長時間の検証の際発動出来ることは立証済みだ、このサイズだと結界というより魔法の盾のようだがこのサイズでもMPの減りはほぼ同じである。リアはなにも言わずに結界にチョップを咬ましたがゴンッという音を立ててチョップしたままリアの動きが止まる。
「手がくっついて取れない、てか手動かない」
リアは俺の顔を見て悲痛な声を上げた、どうやら物理攻撃の動きも止めるらしい。結界を解除しリアが動かなくなった手をグーパーしながら確認する。
「あービックリした~、一応攻撃止めれたしまぁ及第点じゃない?」
確かに及第点といったところだが、やっぱり結界はもう少し省エネな魔法であってほしいしこの能力だったら本物の盾で魔法を防いだ方が案外実用性があるかもしれない、とはいえ俺では盾は重いから素人の戦闘能力じゃ邪魔になるだけだから軽くてすぐ取り出せる魔法の盾として使う事にする。
モーリーの結界と違って形は自由に変形出来ることと何にしても動きを止め反射できるのは汎用性があって今後使える魔法になりそうだ、どちらにしろ研究しないとだな。
「うんまぁ追々改良出来るように頑張るか……盗賊……対人戦かぁ……時間止めて戦えば一発だろうけども不意討ちとか喰らったら俺対応出来ないからな」
俺のぼやきにミラは疑問に思ったのか問いかける。
「さっきから時間がどうとかといっているが手配書にあった時空魔法の事か?その魔法で王を殺害しただの胡散臭い話が流れていたがいったいどんな魔法なんだ?」
「あぁ、その魔法について説明しないとな。俺は莫大な魔力を消費して時間を止める事ができる、あと魔法袋と同じような手持ちのアイテムをしまう事ができる魔法だな」
「時間と空間、だから時空魔法か。時間を止めたら誰も気付かずに殺すことが可能だな」
「……今は1時間止めれるがあんときは1分も止めれなかった」
「わかっている、レージがやった訳じゃないことぐらい。そもそも手配書の金額が王殺害の罪などという大罪に対して安過ぎる、国が探さんでいいと言ってるようなものだ。面倒事に巻き込まれたみたいだな」
ミラは済ました顔で紅茶を飲みながら続けざまにこう言った。
「今セルディア王国の権威は風の国の者と第一王子が指揮しているらしい、現状風の国に乗っ取られた様なものだ。セルディア王国は魔法省、魔法庁の設立。国々の停戦と同盟を促し、魔法による混乱や暴動をいち早く終息へと導いた大国だ。……これ以上よろしくない出来事が起きないことを祈るしかない、手配書の件は諦めるしかないだろうな」
淡々と話すミラは紅茶を空にして席を立つ。
「……そろそろお茶はこれくらいにして作戦について語ろうか、部屋に戻ろう」
ミラはばつの悪そうな顔をして早々に屋敷の中へ入っていった。




