メイヤー領へ(4)
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「……なるほど、そのような事が……」
ふむ……と髭を触りながら考え込むモーリー。
今まで起きた出来事。セルディア国王暗殺の冤罪、そして指名手配。魔法庁のリアのお陰でここまで生きてこれたことを。
リアはリアで、異世界から来たと言った俺の話を聞き、驚きながらも俺の異常な強さに納得したようだった。
じいちゃんはじいちゃんで俺が異世界に行った後、ショックで身体を壊して亡くなり異世界に来たようだった。……まさか、じいちゃんまでこの世界に来るなんてな。内心嬉しいやら……俺のせいで死んじまったのが悲しいやらで……何とも言えない複雑な気持ちになった。
シーンと静まりかえった部屋にふいにノックの音が入り込む。
そしてメイドの声が聞こえる。
「よろしいでしょうか?お嬢様がお話ししたいことがございまして……」
「あぁ、すまんの。ここからはお嬢様も含めて話しましょう」
モーリーはそう言った後部屋を出て行く。
しばらくするとお嬢様であるミラと共に戻ってきた。
ミラの斜め後ろで立ったまま微動だにせず待機しているモーリーは老執事としか見えず、その立ち振舞いを見ると俺のじいちゃんであることを忘れる。
「……で、話はできたか?」
後ろにいるモーリーに目をやりながらこちらに近づいてくるミラ。
「はい、お嬢様。貴重なお時間頂きありがとうございます」
モーリーはそういって一定距離を保ちつつドア横で目を伏せ待機した。
「いや、いいんだ。お前には感謝しているからなっ!」
ミラはソファーに座り威張るように胸を張ってうんうんと言いながら腕を組んだ、そして思い出したかのように姿勢を正し俺達に話しかける。
「……まっ!わかったと思うが、レージ。お主のじいちゃんは私の所で働いていてな、色々あって世話になっている。特にモーリーの能力のお陰で私の身は常に安全なんだ!……本当に助かった、ありがとうモーリー」
「いえ、お嬢様。私もお嬢様に仕える身であります故お礼を言われることでは……ですが……私もありがとうございます、お嬢様」
執事を信頼した気高きお嬢様と優しく微笑み仕える執事……絵になる光景と同時に完全に2人の世界に入ってるミラとじいちゃんを見ていると少し話し掛けずらい。
だが、リアが「レージ!ねぇっ♪レージ!!」と俺の腕の服を引っ張りウルウルさせて何か訴えているように見てくる、リアもこんな状態を見続けるのが困っているんだろう。何故か胸を押し付けて何かアピールしてるような感じもするが……話が進まないのも俺も困るので咳払いをして話かける。
「……ところで俺を呼んだ肝心の依頼の件なんだけど……」
「おおすまん、レージ。レージには盗賊退治をしてもらいたい、出来れば生かして捕らえて欲しい。……いや、必ず捕らえて頂けると助かる」
「……盗賊を生け捕りか……何があったんですか?」
「詳しく話そう。地図を持ってきてくれ」
先ほどとのほんわかしたムードがガラッと仕事モードになるミラ、モーリーから貰った地図を素早く広げる。
「この範囲が私の領地になる」
地図を見ると、地の国ティエラの外側から隣国へ行く方向に長細く広がっている。
地図上ではもちろんそれ以外の領地も存在したが人が通りやすい街道が面した領地はメイヤー領だけといえた。
俺達はダンジョンを通ってきた為通らなかったが本来ならここを通ってからティエラ国に着くのがわかった。
「最近、この領地を私が務めることとなってな」
ミラの指先に力が入る。
「……父上と母上が亡くなってな……私が幼いながら仕事を手伝う事が多く、仕事の云々をわかっていなければこの領地を継ぐことは出来なかっただろう」
前髪と垂れた髪の毛で表情は見えないがミラから悲痛な気持ちを殺した淡々とした声で説明が続く。
「先ほど言っただろう?モーリーには世話になったと……」
その話を聞いて何の事か分からず顔をじいちゃんに向けるとじいちゃんは答える。
「私の能力が人を守る事が出来るのです」
なるほどと思った、つまりじいちゃんはミラを守ったのか。
「私はモーリーのお陰で助かり、何とかこの領地を立て直した。だが現状維持とまではいかず、この領地には私の両親を殺した……」
「盗賊がいるのか」
俺は思わず口を挟む。ミラは俺に一瞬向き頷いた。
「領地を務めることになったのはティエラ国王女様の心遣いのお陰だ。その時の会談した内容で気が付いた事なので私の憶測でしかないが……」
そう言って地図を指差す。メイヤー領の隣、隣国には山々があり険しい為他国に行くことは難しいがメイヤー領と同じ程の大きな領地であった。
「この領主が関わっていると思うのだ」
その言葉を発したミラの目は熱く力を帯びていて確かに怒りを感じた。




