メイヤー領へ(3)
「お呼びでしょうか?お嬢様」
目を伏せて洗練された美しい敬礼。腰の曲がりを少しも感じさせないシャキッとした姿勢。
顔付きは思ったよりも穏やかで優しい目をしている、それでいてダンディーな顎髭が、渋くとても格好いい。
……ふと目が老執事と目が合い、老執事の目が見開いた。
「お……お……お嬢様」
何故かわなわな震えている。そんな老執事を見て「少し席を外すか」とミラは部屋を出ていった。
「心遣い痛み入ります、お嬢様」
と深々と美しくお辞儀した後、腰から下げた身体のまま視線をこちらに向けてきた。
グリンッと振り向いて顔がこちらを向く、その目は煌めいて見えた。
その瞬間……勢いよくきた老執事に俺は抱き寄せられ、抵抗できない勢いで髭でスリスリと頬擦りをする。
なんだ……この……懐かしい……?
困惑する俺のすぐ横で老執事が泣きながら放った一言で俺は老執事が誰だか理解した。
「れぇ~じぃ~!生きてたかぁ~!!」
「じいちゃん!!?」
俺はリアに引っ張られて老執事から離れた時気付き驚きの声をあげる。
一見して気付かなかったが無精だった顎髭は綺麗に生え揃い、年老いて白髪になった髪はしっかり固めたオールバックに。
ビシッときめた燕尾服のモーニングはゆるゆるしたオーラのじいちゃんを引き締め、優しさと優雅さを演出している。
……顔もなんだか格好いい……1.2いや1.3割り増しか???
驚きを隠せない俺の前でリアは俺にしがみつき何故かプンプンしてじいちゃんを威嚇する。
じいちゃんは泣きながら俺に話かけた。
「……よかった……。生きておった……よかった。……しかもこんな可愛い彼女と一緒だとは……」
「ううっ……私は……私はぁ……」と泣き崩れるじいちゃんにリアは指を指しながら「誰よ?あの人?」とプンプンしながら俺に問いかける。何故怒ってるかはわからんが説明しようと「この人は……」
と言ったところでじいちゃんが執事らしく礼をしてリアに話かけた。
「……申し遅れました、私の名は時実常守。いえ、この世界ではモーリーと申します。レージの母方の祖父にあたります、以後お見知りおきを」
「……ということなんだ……じいちゃん……らしい」
「じいちゃんらしい……って何よ?どうゆうこと?何でらしいなの?」
リアに至極真っ当な質問され、俺は別世界から来た人間だと言うことを全く話していないことに気付いた。
あ~そっか、生きることで一杯で説明してなかった……と考えながら何から話せばいいかも分からずにじいちゃんもとい、モーリーに俺のこの世界に来てからの出来事を交え話す事にした。




