カカの村
パチリッ
俺は目を覚ましたと同時に起き上がった。
ゴチンッ! !
「あいたっ!」
「うっ! ! ?」
頭に強い衝撃、それと同時にドタッという物音。
音のする方を見ると尻餅をついた女の子。でこを必死に押さえている。
ベッドで寝ていた状況を確認し、俺が急に目覚めた為女の子に頭突きをしたことに気付いた。
「ご……ごめん、大丈夫かな?」
「いててて………う……うん! おはようお兄ちゃん!」
パッと立ち上がりお尻を払う仕草をする女の子はふわりとしたクリーム色のワンピースに革のベストを着ている。
栗色の瞳と髪が可愛い女の子はアイナと名乗った。
軽く挨拶をしてさっと部屋から出ていく。
「お兄ちゃん、起きたよー!」
声が届く距離でアイナの声が聞こえる。
すると、アイナと一緒に1人の男が現れた。
アイナと同じクリーム色の服と革のベストを着た、落ち着いた面持ちの男が言う。
「娘を……アイナをそして村の人々を助けてくれてありがとう。」
深々とお辞儀をし、続けて話をする。
「私はこの村、カカの村の代理で代表を務めているラウルという者だ。急に倒れたので体調は良くないだろうが、少しお話願えないだろうか?」
「俺の名はレージといいます、身体の方は大丈夫です」
「よかった。すまないが此方に」
そのまま隣の部屋へ案内される、リビングルームのようだ。
大きめの木製のテーブルに木製の椅子が4つ、大きな本棚の隣に棚が、隅にはキッチンがある。椅子に腰掛ける。
すると、アイナが飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとう」
「えへへ」
はにかむ笑顔が凄く可愛い。アイナは照れながら父であるラウルと自分の分を用意し、俺の隣に座った。
「改めて、村を助けていただきありがとう」
「いえいえ」
「謙遜することはない、凄かった。あの火の矢は、まるで火の雨だ!まさかこの村に火の魔法使い様が助けに来てもらうとは感謝してもしきれないよ」
「火の魔法使い様って」
「そんなに魔法を使えるのだ、火の魔法使いとしての証も特別な色をしているんだろう!良かったら是非見してくれないか!」
「……その、魔法使いの証とは?」
「ん……?」
「火の魔法使いの証とはなんですか?」
「君、まさか……異端者なのか?」
場の空気が一気に冷たくなる、俺は何かヤバい事なんだと流石に気が付いた。
恐る恐るラウルに問いかける。
「異端者って……何か魔法を使ってはならない理由があるんですか?」
考え込むラウル、そして細々と話だした。
「魔法は国の許可なしでは使ってはならない。許可なく使った場合、極刑、奴隷送りだ」
「え」
「いや安心してくれ、レージ君は村の恩人だ。誰も国に突きだそうとはしない、今ならまだ間に合う。私が知っている魔法について詳しく話そう」
それから、ラウルは俺に魔法について大まかの事を話した。
50年前に魔法使いが急激に増えた事、それにより力に溺れ全国で犯罪が増えた事。
国が手を結び、魔法省を作り魔法を使える者は国で身分を証し、それ以外の者を異端者として取り締まるようにした事など。
なるほど、そういうことか。確信を得たことで続けてラウルに質問した。
「つまり、魔法が使えることを国に示せばいいんですね?」
「その通りだ、レージ君。君がこの村の子としての身分証を私が書くから、それを国の魔法省に出せば大丈夫だ」
「よかった、ラウルさんありがとうございます」
「それから今回、魔物を倒して頂いたお礼だ。少ないが貰ってくれ」
俺の銀貨100枚と短剣が出された。
「本当はもう少しお金を渡したかったが何分私も代理でね、これ以上の額を回せないんだ、すまない。1ヶ月もすれば村長が帰ってくる。その時またお礼できるだろう、もし気が向けば村に寄ってくれ。」
「そこまでしてもらうわけには」
「いや、構わない、立ち寄る機会があれば来てほしい。とりあえず私は君の身分証を発行するから、それまでは村で休んでいってくれ」
「ありがとうございます」
俺は遠慮なく頂いた、何分この世界にきて無一文である。
お金は今後必要であろう。
短剣は使えるように腰に差し、お金は魔法袋に入れようかと考えていたらクイクイッと隣にいるアイナが俺の服の袖を引っ張っていた。
そちらを見るとアイナは無邪気に微笑んでいる、あ、可愛い。
「お兄ちゃん、ちょっとこっち来て」
そんなアイナに手を引っ張られ、外へ連れ出される。
扉を出ると外には村の人々がこんな朝早いのに俺が出てくるのを今か今かと待ち構えていた。段々と俺の周りに村人が集まる。
「魔法使い様、この村のカカの実です。どうぞ甘いですよ」
「魔法使い様、干し肉とドライカカです。旅のお供にどうぞ」
「魔法使い様、カカの実のジュースです。どうぞ」
「魔法使い様、今朝焼いた出来立てのパンです! とっても美味しいのでどうぞ」
「魔法使い様」「魔法使い様」
馬鹿みたいに手荷物はどんどん増えていく。
流石に男とはいえ子供の身体では持てない、アイナが溢れそうな頂き物を変わりに持ち始めた、ありがとう。
そんな中みかねたラウルが二人の仲介をする。
「村の者、それぐらいにしてくれないか。レージ君はもう持てないぞ。レージ君、中へ」
バタンッ
「すまないな、うちの村の者が。こんなに貰っても持ち歩けないだろう」
「いえ、大丈夫です」
そういって玲二は時空の歪みを発動し中にどんどん入れる。
「……凄いな、初めて見た魔法だ。魔法袋みたいだね」
「え? これって珍しいんですか?」
「ああ、魔道具としての魔法袋は見たことがあるが、魔法としては初めてみる。これはもしかしたら新たな魔法使いなのかもしれないな! 火以外の属性を使えるとは! やはりレージ君は凄い」
「俺が新たな魔法使いですか、ではこの魔法は分かりやすく魔法袋かな」
俺は得意げに自身の魔法に名前を付けて褒め称えるラウルの態度に有頂天になってしまっていた。
その時、もう『異世界の恐怖』を忘れていたのだと思う。
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しばらくしてアイナが背中をぐいぐい押してきて、また外に出す。
村人は、お礼の品を持ってまだ待っていた、皆キラキラした瞳をしている、貰ってあげた方が良さそうだ。
今度は魔法袋に入れる旨を説明し、一人ずつ来て貰うようお願いした。
お礼の品を一つずつ魔法袋に入れていく、入れた物が次々と無くなる現象を見て村人たちはおお~っと歓声をあげる。
アイナと村を観光した、カカの村といって果実や果実を用いた加工品などや農業が盛んな村らしい。こじんまりとした規模の村だが、豊かな村といったところだ。
「アイナはね、この村が大好きなの。この村とここ人たちみ~んな友達なの!!だからね、れーじが来てくれてありがとなの!!」
村を見つめるアイナの姿はキラキラした瞳がより輝いて可愛らしい、こんな妹が欲しいと思った。
そんなこんなで日が空の真ん中に登った、昼頃。
「これが、身分証だ」
俺はラウルから渡された書面を魔法袋にしまった。
「村の者に王国まで案内しよう、アイナ頼めるか?」
「わかった!お兄ちゃんきてー」
アイナは村の道すがらにいた帽子をかぶったおじさんと話をしている。どうやらこのおじさんが連れてってくれるようだ。
「じゃおじさんが王国まで連れてくよ、魔法使い様」
気さくそうなおじさんは帽子の鍔をもち軽く会釈した。
「ありがとう、アイナ」
「お兄ちゃんもありがとう!これ、おじさんとお腹が空いたら食べて!」
パンに肉を挟んだ温かいホットドッグのような食べ物を貰う、魔法袋にしまう。
「お兄ちゃん、また来てね」
「もちろんだよ、村長が帰ってきたら行く約束してるからね、おじさん王国までよろしく」
「あいよ」
動き出した馬車、外を見ているとアイナはずっと手を振っていた。
時刻はだいぶ立ち、すっかり日は沈んでいた。
俺はお腹が減ってきたので貰ったホットドッグを食べようと魔法袋を発動する。
流石に少し冷めてしまってると思うが…
魔法袋からホットドッグを見つけ取り出した。
そのホットドッグは貰った時の暖かいままだった。
……あれ?おかしいな?
他の食べ物で貰ったお礼のパンを取り出してみた。が、やはり温かい。
……何でか暖かいままだ、何故だ?
まぁいいかとパンをしまってホットドッグをおじさんに渡す。
「お、こりゃいいや!出来立てみたいじゃねえか。魔法使い様、凄い魔法袋お持ちなんですね! 時停止機能なんて高級品なかなか持てないよ」
時間停止機能! そんな魔法もあるのか!!?
………時間を止める。
そんなことできるわけー……
カチッ
…………とまった、止まってる。
明らかに静止した世界。
それは全てがモノクロになっていた。
一瞬であったがあのゴブリンと戦った時に起きた現象に似ている。
全く動く気配がない、試しにおじさんの食べ物を取って魔法を解除する。
「あれ? オレのどこいった?」慌てるおじさん
「はい、おじさん、落ちそうだったよ」
「すまんな、手綱引きながら食べたら気が抜けとったわ」
と気にせず頬張るおじさん。
その姿を見つめた後黙って食べる、今起きた事を気にしないようにモグモグと。
………ヤバい! 止まった! 完全に止まってたよ! !
時間を止めるという魔法。それは余りにもチートでそれでいてMP消費が激しかった。
今のMPではもって10秒といったところだ。
MP減少による倦怠感で動かずただ馬車に身をまかせて眠りについたのであった。