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宿で一休み


食べ終えた俺達は宿に向かう事にした。ライラがランチ行った店の移動中に紹介してくれた店だ。騎士団の人が使用する店なのだからその店の信頼度も厚い、良い店に違いないのでその店にした。



「いらっしゃいませ、お客様。二名様で宜しいでしょうか」




宿に着くとパリッとした服に身を包んだ男性のスタッフが笑顔で迎えてくれた。紹介された宿は予想以上に高級そうで、フロントも広々している、いかにも成金そうな奥様の冷ややかな視線が俺達に突き刺さる。分かっている事だが、はっきり言って俺達は場違いだ。それにも関わらず男性スタッフ上客を扱うかの様なその対応はプロと言ったところである。



「騎士団のライラから紹介でこの宿に来たのですが…」



それでも成金奥様の視線が気になるので、取って付けた様にわざとらしくここに来た理由を述べた。



「ライラ様の紹介ですか、騎士団の方々にはいつも御世話になっております。」



そう言って深々とお辞儀をして優しい表情でオススメの部屋を紹介する。この宿は大浴場やマッサージ等のリラクゼーション施設がメインの癒しを追究した宿らしい。とりあえず一人部屋を二つとお願いしようとすると。



「私、一緒の部屋でいいわよ? 二人部屋お願いします」



とリアが当然であるかの様に二人部屋に勝手に決めた。ベッドはもちろん二つであるが、それでも一つの部屋に一緒で寝るのは不味いんじゃないだろうか? 内心ドキドキした俺を他所にリアは鍵を受け取りスタスタと先に行く、ごゆっくりとお辞儀する男性スタッフにどうもと軽く会釈して先に向かったリアを追いかけた。



「……予想以上に豪華でキレイな部屋ね!」



リアは扉を開けてその入り口で立ち尽くした。

俺は覗き込む様に中を見ると部屋の中は二部屋になっており、一つの部屋はリビング。向かい合ったソファーにその真ん中には楕円形のローテーブル、その上には金属製のトレイの上に伏せたティーカップと数種類の茶葉。窓は広く薄く光を通す白いカーテンがこの部屋をより清潔に見せた。

高級そうな花瓶に飾られた生花や品のあるシャンデリアが最早別世界なのではないかと思わせるほど綺麗なリビングだ。

もう一つの部屋はベッドルーム、落ち着いた青を基調とした部屋にベッドが二つ。サイズもシングルベッドではない様でセミダブルだろうか、広々としている。今日はゆっくり寝れそうだ。


俺とリアが一通り部屋を見回っているとコンコンッという音と共に宿の女性スタッフが来た。



「本日、お客様の御世話をさせていただくマディと申します、よろしくお願いいたします。当宿ではマッサージやエステ等のサービスがございますので是非ご利用下さい。また、何か御用がございましたらそちらの魔道具を鳴らしてお呼び下さい」



そちらと呼ばれた方を見ると呼び鈴の様な物がある、魔法省で見たものだった。

魔道具だったのかと思いながら呼び鈴に触れてまじまじと見た。

そうしているとマディが呼び鈴について教えてくれた。

風魔法を利用した魔道具だそうでマディが懐から出した丸いコースターの様な物と二つでセットになっていてセットのコースターを持つ者に何処に居ても鈴の音が聞こえる様に細工された物だそうだ。これ以外にも風魔法を利用した音だけではなく音声を送る魔道具もあるらしい。

携帯等の無いこの世界では風魔法で作られた魔道具による通信機器が代わりにあるようだ。


なるほどと思いながら呼び鈴に触れるのを止めてマディにお礼を言った。とりあえず俺達は今日はゆっくり休みたいので大浴場に案内してもらう。


大浴場ではとても大きな風呂場が一つ有るだけのシンプルな物だった。それでも内装の装飾品は素晴らしく、身体を洗う為に作られた場所は技術が発達した世界から来た俺でも使いやすい物だった。

宿に泊まるには早い方だからか他の客はおらず貸切の状態だった、旅でボロボロな俺にとってそれが何よりもありがたい事だった。




暫く長風呂を堪能し大浴場から出て部屋に戻る、リアは部屋に戻っており濡れ髪のまま待っていた。



「あっ!お帰り~」と呑気な声で微笑む彼女と裏腹に俺はリアの濡れた髪や火照った身体のエロさにドキドキしていた。なにより宿に完備された服が緩くソファーに座っていたリアは立っている俺から完全に谷間が見えている。


「こっちにきて」とリアが呼ぶ、普段より甘えた様な声で俺は誘われた。言われるがまま誘われるがままどぎまぎしながらもリアの元に向かう。



「あのね……お願いがあるの」



リアは俺の手に両の手で触れてきた、思わず声は裏返りかしこまって答える。



「な……なんでしょう、リア」




ーーーーーーー





「はぁあぁ~~」



リアの気の抜けた声が聞こえる……や、分かっているさ。甘い期待なんてしてないけども。



「あぁ~、気持ちいぃ~♪」



ゴオオォォという音の中、俺は右手から温風を左手でリアの髪を優しくわしゃわしゃさせて乾かしている。

リアの言う『お願い』とはこのドライヤーの魔法の事だった。



「やっぱりこの魔法便利だわー、これからもよろしくね♪」



上機嫌で更なる『お願い』をするリア、サラサラとした髪を撫でながらため息をした。


……や、分かっているんだ。分かっているけどな……


甘い期待……十分してたさ、『お願い』?あぁ聞くとも、リアに触れる事ができる機会だからな等と思いながら俺はリアの髪の隅々まで乾かすのであった。

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