女騎士のライラ
「すみません、まさかご飯までを奢って頂けるとは」
頭を下げお礼をいう、女騎士。
美しい白い甲冑を纏ったその女性はライラと名乗った、今はこの国の治安を守る王立騎士団の小隊長だそうだ。ライラは五年前に知り合ったらしい。どうやらライラが仕事で火属性魔法庁に立ち寄ったらしく、その時に剣士としての日頃気を付けている事や心得を教わったそうだ。年齢も六歳上でお姉さん的な立場の様だ。
そんな話を聞き、確かに初めてあった時の俺にさえ何だかんだとはいえ親切にしてくれたリアはまさしく義を重んじる騎士の在り方そのものだとも思えた。
ご飯を食べながら、リアとライラは昔話を懐かしみながらも面白おかしく話している。
「私が丁度魔法庁に訪問した時にアーヴィン様がリア様のプリンを食べようとしてましてね」
「やめてよ! 10歳の頃の話よ!! そんな昔の話言わないでよ! あと『様』は付けなくていいって言ってるじゃないっ!!」
「アーヴィン様に向けてプリンの事も忘れて火の矢を放って、アーヴィン様、わざとくらって『焼きプリンも旨いな』とか……本当、プッ……仲良くてですね!」
「あっ! また思い出し笑いしてるっ! 本当どれだけその話で弄れば気が済むのよ!」
「アーヴィン様のっ! 本当、どうやったのか、分からないんですが、あの炎で、プリンが、いい焼き加減に!」
思い出し過ぎてなのか、リアの反応が面白いのか爆笑するライラ、第一印象はビシッとしていたが意外な一面に驚いたが、それよりもなのリアが弄られている事が一番驚いた。それにしても蚊帳の外と言った感じで二人は久方ぶりの再開の割によくしゃべる、相当仲が良かったのだろう。
色々と思い出話に花を咲かせ、面白すぎて引き笑いになっていたライラが落ち着いてきたのか、急に昔話の話を止め除け者になっていた俺について質問してきた。
「いやぁ、久しぶりこんなに笑いました……それにしてもリア様、アーヴィン様以外の方と旅されてるとは思いませんでした。……見たところ軽装の剣士の様に見えますが……あの……誠に失礼ながら、武器も短剣の様ですし、リア様ほどの魔法剣士の方と一緒に旅出来る方と思えませんが……お二人はどの様な関係で?」
まぁそうだよな。仮にも魔法庁で働く女の子、アーヴィンと一緒にいるだろう人が名も聞かない剣士と一緒なんておかしく思う訳だ。そんなライラの言葉に過剰に反応したリアは咄嗟に嘘を付く。
「わ……私の弟子みたいなものよ! まだ形になった程度だけど動きは素早くて中々見込みはあるのよ!だから服装も動きを重視した軽装なのよ! ね、レージ♪」
「れーじ? レジ君ではないのですか?」
おいっ、リアっ!! とリアを見るとやってしまったと言わんばかりに顔を青ざめて口を閉じている。俺は慌ててそんなリアを隠す様に目立つ様に声を出し誤魔化す。
「や、俺はレジ君ですよ! リアってば俺が年下で可愛いのか、いっつも甘えた感じで『れ~じ♪』って伸ばして呼ぶ癖があるんですよ~♪」
「あぁ、そうなのですか。なら、リア様、これからはそうやって呼ぶのはやめるべきです。セルディア王国の王様を殺害した異端者の魔法使い、名がレージといいます。何でも時間と空間を操るとんでもない魔法使いです。そんな悪党の名前と同じ呼ばれ方では有らぬ誤解を生むと思いますのでこれからは気を付けて下さい」
そう言われて「はい、これからは気を付けます、ごめんね、レジ」 と言う冷や汗だらけのリア、国を守る騎士団様に堂々と犯罪者の名前の方で呼ぶとか、なんてヤバい事をしてくれたんだ! お陰様で俺の内心はヒヤヒヤしている、正直バレると思った。
その後は旧友の楽しいランチが急変し、緊張の糸は一気に張り積める。
いくら昔の仲とはいえ、その指名手配犯であることがバレたら捕まる事は確定だろう、これ以上ボロは出せない。
「それにしても、リア様のお弟子さんでしたか。リア様が見込みがあると言うんですからレジ君は中々の素質を持ってらっしゃる様ですね、今度ぜひお手合わせをしていただけますか?」
「あ……あぁ、もちろんですよ」
俺はなに食わぬ顔で対応する事に必死で言われるがままライラと手合わせする事を約束する。
そんな話をしながらも、ライラはやはり職務で忙しい様でお腹が減っている俺達よりも早く食事をとり終わり「美味しい食事、ありがとうございました。申し訳ございませんが仕事に戻りますのでまた明日昼にでも」と言って店を出ていった。
「「……は~~~~!!」」
二人して深いため息を付く、リアの知り合いだからとランチに誘うのは良かった……まさか、その行為で自分の首を絞めるとは。
リアには知り合いがいるのだ。そもそも何故旅しているかとかも理由付けしないとボロが出てバレる危険が増すだろう、リアと相談するべきだな。……ただ、それよりも。
「リア、俺の名前は『レジ』だからな」
「うん、本当ゴメンね『レジ君』」
温かく美味しい料理だったご飯も一気に味気無くなり、程よく食事をとった俺達は店を後にするのだった。




